クラスメイト
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3月。
保育園の庭にも、小さな春が見え始めていた。
まだ少し寒いけれど、
風は冬の頃よりやわらかい。
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卒園式まで、あと少し。
教室のあちこちで、
「小学校楽しみ!」
という声が聞こえるようになっていた。
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「ランドセル買った!」
「おれ黒!」
「わたし赤!」
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みんな嬉しそうに話している。
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茉白も友達に聞かれた。
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「茉白ちゃんは?」
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「まだ見てない」
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「楽しみじゃない?」
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「楽しみだよ」
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そう答える。
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でも。
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最近は、
小学校のことを考えると、
別のことも頭に浮かぶ。
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昼休み。
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茉白は一人で絵本を読んでいた。
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すると、
どたどたどたっ!
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聞き慣れた足音。
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「海人、走らない!」
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先生の声。
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「はーい!」
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全然反省していない返事。
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教室のみんなが笑う。
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茉白もつられて笑った。
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すると。
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海人が気づく。
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「あ」
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目が合う。
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最近、
こういうことが増えた。
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海人は一瞬固まって、
でも前みたいにすぐ逸らさなかった。
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「なに読んでんの」
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近づいてくる。
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茉白は本を見せる。
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「動物の本」
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「へー」
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海人は横から覗き込む。
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肩が少し近い。
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茉白はなぜか、
少しだけ落ち着かなくなった。
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(近い)
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でも嫌じゃない。
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むしろ。
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どこか安心する。
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「海人は小学校楽しみ?」
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ふと聞く。
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海人は少し考える。
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「楽しみ」
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即答。
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「友達いっぱい作るし」
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海人らしい答え。
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茉白は少し笑う。
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「海人っぽい」
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「なんだよそれ」
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また同じやり取り。
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でも。
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前より自然だった。
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その帰り。
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先生が卒園式の話をしていた。
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「みんな、もうすぐ卒園だね」
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子どもたちが頷く。
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茉白は窓の外を見る。
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海人は友達と話している。
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いつも通りの海人。
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なのに。
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(卒園したら)
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少し考える。
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(毎日会えなくなったらどうしよう)
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そんな言葉が、
ふと頭をよぎった。
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自分でも驚く。
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今までなら、
そんなこと考えなかった。
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でも最近は違う。
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海人がいるのが、
当たり前になっていた。
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その当たり前がなくなるかもしれない。
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そう思ったら。
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胸の奥が、
少しだけきゅっとした。
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茉白はまだ、
その気持ちの名前を知らない。
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けれど。
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海人はもう、
ただのクラスメイトじゃなくなっていた。
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