歌の練習
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2月中旬。
卒園式まで、あと少し。
保育園では卒園の歌の練習が始まっていた。
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「みんなー、並んでくださーい」
先生の声が響く。
子どもたちが慌てて並ぶ。
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海人も友達と話しながら列へ向かう。
でも——
気づけば茉白を探していた。
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(いた)
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前の方。
茉白は真面目な顔で立っている。
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(相変わらずだな)
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少しだけ笑う。
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すると先生が言った。
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「今日は隣の人と一緒に歌ってみようね」
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ざわざわ。
子どもたちが移動する。
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その結果。
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偶然。
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海人の隣に茉白が来た。
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「……」
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「……」
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一瞬だけ沈黙。
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海人の心臓が跳ねる。
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(近い)
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ただ隣にいるだけ。
それだけなのに。
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茉白は特に気にしていない様子だった。
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「歌、覚えた?」
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突然聞かれる。
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「え?」
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「卒園の歌」
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海人は目を逸らす。
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「たぶん」
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「覚えてないんだ」
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即バレる。
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「覚えてるし!」
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少しムキになる。
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茉白は小さく笑った。
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「じゃあ歌ってみて」
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「無理」
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「なんで」
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「今は無理」
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「変なの」
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また言われた。
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でも最近、
その言葉を言われるのが嫌じゃない。
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むしろ少し嬉しい。
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練習が始まる。
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みんなで歌う。
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海人は歌詞を間違える。
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「そこ違うよ」
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小声で茉白が教えてくれる。
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「……おう」
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海人も小声で返す。
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その時。
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先生のピアノが止まる。
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「海人くん、今ちゃんと歌えてたね」
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「え?」
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「茉白ちゃんが教えてくれたからかな?」
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教室が少し笑いに包まれる。
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海人の顔が一気に赤くなる。
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「ち、違うし!」
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慌てる。
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茉白はきょとんとしている。
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何がそんなに恥ずかしいのか分からない。
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でも。
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海人が慌てている姿を見ると、
なんだか面白かった。
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帰り際。
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みんなが荷物をまとめている。
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ふと茉白は思う。
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(卒園まで、あと少しなんだ)
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今まで当たり前だった毎日。
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海人がいて。
友達がいて。
先生がいて。
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それが終わる。
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少しだけ。
本当に少しだけ。
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胸の奥が寂しくなった。
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そして。
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その寂しさの中で、
海人の姿が思い浮かんだ。
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(……なんで海人なんだろ)
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自分でも分からない。
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でも。
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最近、
気づくと海人のことを考えている時間が増えていた。
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まだ恋ではない。
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けれど、
ただのクラスメイトだった頃とは、
もう少しだけ違っていた。
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