風邪
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一月のある日。
朝。
海人はいつも通り勢いよく教室へ入った。
「おはよー!」
友達に声をかけながら席へ向かう。
そして、いつものように——
視線が窓際へ向く。
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(……あれ)
茉白の席。
空いている。
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まだ来てないだけかと思った。
でも。
朝の会が始まっても、
席は空のまま。
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先生が出席を取る。
「茉白ちゃんは風邪でお休みです」
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その言葉を聞いた瞬間。
海人の胸が、少しだけざわついた。
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(風邪?)
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昨日は普通だった。
雪を見ていた。
笑っていた。
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なのに。
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「大丈夫かな」
誰かが言う。
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海人は何も言わない。
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でも。
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(熱かな)
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気になった。
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朝の会が終わる。
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「海人!外行こうぜ!」
「おう」
返事をする。
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でも。
いつもみたいに気分が乗らない。
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外へ出ても。
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茉白がよくいる木の近くを見てしまう。
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当然。
いない。
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(当たり前か)
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そう思う。
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鬼ごっこをしていても。
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「海人!捕まえてみろー!」
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追いかける。
笑う。
走る。
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でも。
ふとした瞬間。
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(茉白なら今なにしてんだろ)
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そんなことを考えてしまう。
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自分でも意味が分からない。
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昼。
給食の時間。
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空席。
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誰も座っていない椅子。
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海人は無意識にそっちを見る。
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(明日は来るかな)
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ぽつりと思う。
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その時。
友達が聞いてくる。
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「海人、どうした?」
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「なにが」
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「今日なんか静か」
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「そうか?」
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「そう」
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海人は少しだけ顔をしかめる。
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(静かってなんだよ)
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でも。
否定しきれなかった。
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午後。
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本を読んでいる時も。
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積み木で遊んでいる時も。
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窓際の席が目に入る。
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空っぽ。
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そのたびに、
少しだけ変な気持ちになる。
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帰る時間。
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靴を履きながら、
海人は小さく息を吐く。
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(早く治れよ)
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思わず出た本音。
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誰にも聞こえていない。
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でも。
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その願いは、
今まで友達に向けたものとは少し違った。
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そして翌朝。
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教室の扉が開く。
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海人は反射みたいに顔を上げる。
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そこには——
少しだけ元気のない顔の茉白が立っていた。
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「おはよう」
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いつも通りの声。
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その瞬間。
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海人は自分でも気づかないくらい、
ほっとしていた。
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(よかった)
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本当に。
心から。




