初雪
⸻
数日後。
冬の朝。
保育園の窓には、うっすら白い曇りができていた。
子どもたちは寒そうに肩をすくめながら登園してくる。
⸻
「さむー!」
「手つめたい!」
教室のあちこちで声が上がる。
海人も友達と騒いでいた。
でも——
視線だけは違う。
⸻
(まだ来てねぇ)
窓際を見る。
空席。
⸻
(……別に)
気にしてない。
気にしてないけど。
⸻
もう一回見る。
⸻
まだいない。
⸻
(遅いな)
そう思った時。
教室の扉が開く。
⸻
「おはようございます」
先生の声。
その後ろから、
茉白が入ってきた。
⸻
(いた)
その瞬間。
海人の肩から力が抜ける。
⸻
(……なんだよ今の)
自分で自分に呆れる。
⸻
茉白はそんなこと知らず、
友達に「おはよ」と言って席につく。
いつも通り。
本当にいつも通り。
⸻
でも海人にとっては、
なんだか少し違った。
⸻
昼。
外遊び。
⸻
「海人!雪!」
「どこだよ!」
友達が空を指さす。
⸻
見ると、
小さな白いものがふわっと落ちてきた。
⸻
「あ」
「ほんとだ!」
子どもたちが騒ぎ始める。
⸻
初雪だった。
⸻
積もるほどじゃない。
すぐ消えてしまうくらい小さな雪。
⸻
それでもみんな大喜び。
⸻
海人も空を見上げる。
そして——
ふと。
茉白を探す。
⸻
少し離れた場所。
茉白も空を見ていた。
⸻
雪が髪に落ちる。
白い粒が、すぐに消える。
⸻
その光景に。
海人は思わず見入った。
⸻
(……きれい)
⸻
気づいた瞬間、
自分でびっくりする。
⸻
雪じゃない。
空でもない。
⸻
茉白を見て、
そう思った。
⸻
ドクン。
⸻
心臓が鳴る。
⸻
「海人?」
友達の声。
⸻
「え?」
「なに見てんの?」
⸻
慌てて目を逸らす。
⸻
「べつに!」
⸻
即答。
でも顔は少し赤い。
⸻
友達は首をかしげる。
⸻
海人はごまかすように走り出した。
⸻
その頃。
茉白。
⸻
雪を手で受けようとしていた。
⸻
でも上手くいかない。
すぐ溶ける。
⸻
「消えた」
小さく呟く。
⸻
すると後ろから声。
⸻
「当たり前だろ」
⸻
振り返る。
海人だった。
⸻
いつの間にか近くに来ている。
⸻
「海人も見てたの?」
「まあ」
⸻
短い返事。
⸻
二人で空を見る。
⸻
雪は少しずつ落ちてくる。
⸻
静かな時間。
⸻
「雪、好き?」
茉白が聞く。
⸻
海人は少し考える。
⸻
本当は、
雪よりも今の時間の方が気になっていた。
⸻
でも言えるはずがない。
⸻
「普通」
⸻
ぶっきらぼうな返事。
⸻
茉白は少し笑う。
⸻
「海人らしい」
⸻
その笑顔を見た瞬間。
⸻
海人は思う。
⸻
(やっぱ好きだ)
⸻
前よりもっと、
はっきりと。
⸻
まだ伝えない。
まだ言えない。
⸻
でも、
海人の初恋は、
静かに本物になっていった。
⸻




