引き止められた
露真がその場を離れようとした、その時だった。
「……おい」
「……?」
背後から声がした。
露真の足が止まる。
振り返る。
さっきの男の子が、少し離れたところからこちらを見ていた。
「……露真?」
「……!」
名前を呼ばれて、露真が目を見開く。
「……なんで私の名前……」
「同じ学校だろ。知ってるに決まってんじゃん」
男の子は、少し怪訝そうな顔をする。
そして。
「露真、なんか用か?」
「……」
露真は。
その顔を見つめた。
やっぱり。
似ている。
夢の中の。
あの少年に。
――海くん。
「……」
胸が。
また。
ざわつく。
「……別に」
「じゃあ、なんで急に話しかけてきたんだよ」
「……」
答えられない。
「海くん」と呼びかけた。
でも。
違った。
この人じゃない。
なのに。
どうして。
こんなに似ている。
「……おい?」
男の子が首を傾げる。
「露真?」
「……」
露真は。
ぎゅっと拳を握った。
「……なんでもねぇ!」
「……は?」
突然の大声に。
男の子が目を丸くする。
「なんでもねぇから!」
「いや、だから何が――」
「じゃあな!」
「え、おい!」
露真は。
そのまま走り出した。
「……露真!?」
背後から呼ばれる。
でも。
振り返らない。
「……」
走る。
走って。
走って。
その場から離れる。
胸が苦しい。
息が切れる。
なのに。
止まりたくなかった。
「……なんでだよ」
誰に向けた言葉なのか。
自分でもわからない。
「……なんで……」
足を止める。
肩で息をする。
「……なんでもねぇわけないだろ」
小さく呟く。
自分でも。
わかっている。
本当は。
なんでもなくなんかない。
あの男の子を見た瞬間。
胸の奥が。
勝手に反応した。
あの人が。
「海くん」じゃないとわかった瞬間。
なぜか。
ひどく寂しかった。
「……」
露真は。
自分の胸に手を当てる。
ドクン。
ドクン。
まだ。
心臓が速い。
「……海くん」
小さく呟く。
「……私」
そこで。
言葉が止まる。
何を言いたいのか。
わからない。
ただ。
自分でも気づかないうちに。
露真は。
誰かを探し始めていた。




