別人
次の日。
露真は、学校からの帰り道を歩いていた。
昨日のことが、まだ頭から離れない。
海くん。
あの名前。
そして。
自分でも理解できない反応。
「……」
露真は眉をひそめる。
「……私、どうかしてんのかな」
知らない人を見て。
勝手に心臓が跳ねる。
勝手に名前が浮かぶ。
昨日の夢のせいだ。
きっと。
そうに違いない。
「……海くん」
また。
無意識に呟く。
その時。
前を歩いている男の子が。
ふと振り返った。
「……!」
露真の足が止まる。
一瞬。
時間が止まった。
「……」
似ている。
昨日見た人よりも。
もっと。
夢の中の少年に。
雰囲気が似ていた。
明るい髪。
その表情。
歩き方。
「……海くん」
また。
名前が出た。
気づいた時には。
露真は。
その男の子に向かって走っていた。
「ちょっと!」
「……?」
男の子が振り返る。
露真は。
その目の前で立ち止まった。
息が少し上がっている。
「……」
何を言えばいい。
自分でもわからない。
でも。
聞かなければ。
このまま帰ったら。
何かを失う気がした。
「……あの」
「……は?」
男の子が。
露真を見る。
露真は。
一瞬だけ言葉に詰まった。
「……海くん?」
「……は?」
男の子の顔が。
完全に困惑する。
「いや……」
露真自身も。
何を言っているのかわからない。
「……おまえ」
「……俺?」
「……」
違う。
顔が。
違う。
声も。
違う。
わかっている。
でも。
「……海くん、だよね?」
「……は?」
男の子が。
さらに困惑する。
「誰、それ」
「……」
露真の胸が。
ズキッと痛んだ。
「……え」
「いや、知らないけど」
「……」
違う。
この人じゃない。
「……ごめん」
露真は。
小さく呟いた。
「人違い」
「……」
男の子は。
しばらく露真を見ていた。
「……なんだったんだよ」
「……」
聞こえないふりをして。
露真はその場を離れる。
歩く。
早く。
早く。
この場から離れたい。
「……」
顔が熱い。
恥ずかしい。
何やってんだ。
私。
知らない男の子に。
いきなり。
「海くん」なんて。
「……」
露真は立ち止まった。
胸に手を当てる。
ドクン。
ドクン。
心臓が鳴っている。
「……」
さっきの男の子は。
海くんじゃなかった。
当たり前だ。
そんな人。
知らない。
なのに。
どうして。
あんなに。
「……会いたい」
ぽつり。
言葉が漏れた。
「……」
露真自身が。
一番驚いた。
「……誰に」
誰に会いたいのか。
わからない。
顔も知らない。
声も知らない。
名前しか知らない。
それなのに。
「……海くん」
もう一度。
その名前を呼ぶ。
今度は。
さっきよりも。
ずっと寂しそうな声だった。
そして。
露真は知らない。
自分が探しているその少年が。
今もどこかで。
自分のことを覚えていることを。




