似た人
その夢を見た翌日。
露真は、いつもより少しだけ寝不足だった。
朝から頭が重い。
「……眠ぃ」
欠伸をしながら、学校へ向かう。
昨日の夢。
雪。
事故。
赤い色。
そして。
――海くん。
何度考えても、意味がわからない。
「……」
露真は歩きながら、ため息をついた。
「夢なんだから、忘れろよ……」
そう呟いた。
その時。
前から。
誰かが歩いてきた。
「……」
露真の足が。
突然、止まった。
男の子だった。
年齢は自分と同じくらい。
少し明るい髪。
背格好。
歩き方。
一瞬だけ。
夢の中に出てきた少年と重なった。
「……!」
心臓が。
大きく跳ねる。
ドクン。
「……海……」
口から。
名前が出そうになった。
「……っ」
露真は慌てて口を閉じる。
違う。
違う人だ。
知らない人。
ただの他人。
それなのに。
「……」
目が離せない。
胸が苦しい。
なぜか。
この人を追いかけなければいけないような。
そんな気がした。
「……なんで」
男の子が通り過ぎる。
露真は。
思わず振り返った。
「……」
その背中を。
じっと見つめる。
遠ざかっていく。
「……海くん?」
小さく呟く。
でも。
当然。
返事はない。
「……違う」
露真は首を振った。
「……あの人じゃない」
そもそも。
自分は。
海くんという人を知らない。
「……」
なのに。
胸の奥が。
妙に寂しかった。
その日の放課後。
露真は学校から帰る途中だった。
駅前の交差点。
人混みの中。
ふと。
また。
誰かが目に入った。
「……!」
今度は。
もっと強く反応した。
男の子。
後ろ姿。
一瞬。
夢の中の少年と重なる。
「……海くん」
また。
名前が出た。
「……っ」
露真は。
自分でも驚いていた。
どうして。
私は。
知らない人を見るたびに。
この名前を思い出す?
「……」
気づけば。
その人の後を。
目で追っていた。
でも。
その人が振り返る。
「……!」
露真は。
慌てて目を逸らした。
心臓が。
また。
ドクドクと鳴っている。
「……なんなんだよ」
自分に向かって。
呟く。
「……私」
胸に手を当てる。
「……あの人を知ってるの?」
答えは。
ない。
ただ。
知らない誰かを見ただけなのに。
心が。
勝手に反応する。
まるで。
誰かを探しているみたいに。
その夜。
露真は。
また指輪を取り出した。
白い花。
シロツメクサ。
指輪を見つめる。
「……海くん」
名前を口にする。
今度は。
昨日よりも。
少しだけ。
はっきりと。
「……あなたは」
指輪を握る。
「……誰なの?」
答えは。
まだ。
戻ってこない。
でも。
露真は。
初めて。
自分から。
その「誰か」を探したいと思った。
――知らないはずなのに。
――なぜか。
その人に。
会いたいと思った。




