一人じゃなくていい
■数日後
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冬の空気。
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「……」
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教室。
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茉白は、いつも通り座ってる。
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普通に授業受けて、
普通にノート書いて、
普通に返事する。
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でも——
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(……違う)
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海人には分かる。
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笑ってない。
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■放課後
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「海くん」
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「なに」
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「今日、先帰っていい?」
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「……ああ」
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いつもなら一緒に帰る。
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でも今日は、
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一人で帰ろうとしてる。
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(……またかよ)
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最近、増えてる。
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一人で帰る日。
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(……ダメだろ)
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何となく、
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分かる。
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(逃げてる)
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■追いかける
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外。
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冷たい風。
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少し離れた背中。
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「おい」
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呼ぶ。
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茉白、止まる。
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「……なに」
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振り向く。
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やっぱり、
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いつもと同じ顔。
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でも、
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違う。
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「帰るんだろ」
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「うん」
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「一人で?」
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「……うん」
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少し間。
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「一人がいいから」
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その一言。
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(……は?)
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胸がざわつく。
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「……なんで」
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「……」
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答えない。
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■初めて踏み込む
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「……無理すんなよ」
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ぽつり。
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「してない」
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即答。
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「してるだろ」
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少し強くなる声。
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「してないって」
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ぶつかる。
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でも、
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海人は引かない。
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「……顔、全然違ぇし」
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沈黙。
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茉白、少しだけ目を逸らす。
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■崩れる一歩手前
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「……別に」
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小さな声。
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「普通だよ」
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(普通なわけねぇだろ)
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でも、
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責めない。
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「……普通じゃなくていいだろ」
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一瞬。
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空気が止まる。
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■弱さが見える
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「……」
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茉白の手、
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少しだけ震える。
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「……だって」
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声が、少しだけ揺れる。
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「……どうしていいか、わかんない」
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初めて。
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出てきた本音。
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海人、黙る。
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何も言わない。
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ただ、
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一歩、近づく。
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■寄り添う
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「……いいんじゃねぇの」
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「……え」
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「わかんなくても」
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それだけ。
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でも、
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無理に答えを出させない。
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否定もしない。
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ただ、
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受け止める。
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■少しだけ崩れる
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「……」
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茉白、下を見る。
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「……がんばんなきゃって思うのに」
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「……できなくて」
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声が小さくなる。
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「……でも、誰にも言えなくて」
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ぽつぽつ、
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こぼれる。
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海人は、
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黙って聞く。
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■隣にいる意味
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「……ここいろ」
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「……?」
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「一人じゃなくていい」
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ぶっきらぼう。
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でも、
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逃げない言葉。
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■少しだけ近づく距離
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茉白、
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ゆっくり顔を上げる。
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「……海くん」
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「……なに」
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少しだけ間。
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「……ありがと」
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その声。
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少しだけ、
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やわらかい。
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■冬の中で
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冷たい風。
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でも。
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二人の間だけ、
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少しだけあたたかい。




