冬のはじまり
■12月、小3の冬
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冷たい空気。
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吐く息が、白い。
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いつも通りのはずの朝。
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でも——
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その日は、
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何かが違った。
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■突然の出来事
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学校に来ない、茉白。
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「今日休みなんだって」
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誰かが言う。
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海人は、
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「ふーん」
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そう返す。
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でも——
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(……珍しいな)
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少しだけ引っかかる。
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その日の放課後。
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家に帰る途中、
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なんとなく、足が止まる。
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(……行くか)
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茉白の家の前。
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静か。
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インターホンを押す。
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少しして、
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ドアが開く。
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出てきたのは、父。
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「……海人くん」
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声が、低い。
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「茉白、いる?」
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少しの沈黙。
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「……いるよ」
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その声。
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何かが違う。
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■家の中
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「おじゃまします」
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リビング。
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いつもと同じ場所。
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でも——
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空気が、重い。
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「海くん」
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振り向く。
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茉白。
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座ってる。
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でも。
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いつもと違う。
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静かすぎる。
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「……どうした」
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近づく。
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「……お母さん」
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ぽつり。
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「……」
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「いなくなっちゃった」
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一瞬、
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理解が止まる。
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「……は?」
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「……今日」
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それだけ。
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それで、
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全部分かる。
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(……死んだ?)
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言葉にできない。
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「……」
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何も言えない。
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■崩れない茉白
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泣いてない。
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ただ、
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静かに座ってる。
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「……ごめんね」
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「今日、変で」
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(なんで謝ってんだよ)
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胸が、ぎゅっとなる。
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「……謝んな」
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それしか言えない。
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■海人の中
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(……なんだこれ)
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どうすればいいか、
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分からない。
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何て言えばいいか、
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分からない。
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でも。
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(……放っとけねぇ)
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それだけは、
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はっきりしてる。
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■そばにいる
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海人、
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そのまま座る。
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何も言わない。
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ただ、
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隣にいる。
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時間が過ぎる。
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静かなまま。
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でも——
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茉白の肩が、
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ほんの少しだけ、
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近づく。
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無意識に。
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海人も、
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何も言わず、
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そのまま。
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■父の変化
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奥の部屋。
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父の気配。
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でも、
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出てこない。
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(……一人じゃねぇだろ)
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そう思う。
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でも、
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今は何も言えない。
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■冬の始まり
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外は、寒い。
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でもこの家は、
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もっと冷たい。
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でも。
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その中で、
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海人だけは、
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離れなかった。




