初めての手袋
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十一月。
朝。
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「寒いねぇ……」
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白い息を吐きながら、
茉白が歩く。
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「……だな」
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海人も肩をすくめた。
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木々の葉は少なくなり、
冬の気配が近づいている。
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「海くんは手袋しないの?」
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「まだいらねぇ」
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「ほんと?」
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「慣れてる」
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「すごいなぁ」
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茉白は両手をこすり合わせる。
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「わたしはもう無理……」
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指先が少し赤くなっていた。
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学校へ着く。
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一時間目が終わり、
休み時間。
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「うぅ……」
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茉白は自分の手に息を吹きかける。
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「冷たい……」
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海人は何気なく見る。
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(……赤い)
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指先が、
さっきより赤くなっていた。
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「おい」
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「ん?」
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「手」
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「え?」
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「真っ赤じゃねぇか」
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茉白は自分の手を見る。
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「あ、ほんとだ」
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「寒かったからかな」
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のんびり笑う。
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海人は少しため息をつく。
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「手袋は?」
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「忘れちゃった」
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「……」
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「朝バタバタしてて」
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「置いてきちゃった」
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海人は少し黙る。
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(だからか)
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昼休み。
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校庭へ出る。
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風が吹く。
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「ひゃっ!」
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茉白が肩をすくめる。
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「寒い!」
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海人は茉白の手を見る。
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まだ赤い。
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「ほら」
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自分のポケットを指さす。
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「手、入れとけ」
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「え?」
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「ポケット」
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「寒いんだろ」
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茉白は少し驚く。
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「いいの?」
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「別に」
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「使ってねぇし」
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茉白は遠慮しながら、
海人の上着のポケットにそっと手を入れた。
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「……あったかい」
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思わず笑顔になる。
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「ほんとだ」
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「少しあったかい!」
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海人は少し照れながら、
前を向く。
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「それならいい」
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休み時間が終わる。
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「ありがとう」
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茉白が手を出す。
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「おかげであったかくなった」
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「……おう」
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放課後。
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「海くん」
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「ん?」
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茉白はランドセルから、
新しい手袋を取り出した。
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「今日は忘れたけど」
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「明日からちゃんと持ってくる!」
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「忘れんなよ」
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「うん!」
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少し歩いて、
いつもの分かれ道。
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「今日はありがとう」
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「ポケット貸してくれて」
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海人は少し照れくさそうに笑う。
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「……気にすんな」
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「ふふっ」
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茉白も笑う。
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翌朝。
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「海くん!」
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茉白が元気よく手を振る。
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その手には、
昨日見せていた手袋。
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「今日は忘れてないよ!」
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嬉しそうに見せる。
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海人は小さくうなずいた。
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「……よかったな」
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「うん!」
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茉白は手袋をはめた手で、
にこっと笑う。
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その笑顔を見て、
海人も少しだけ安心した。
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冷たい風が吹く季節。
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それでも、
二人の帰り道は、
昨日より少しだけあたたかかった。




