初めてのマフラー
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十一月。
朝。
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「寒っ……」
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海人は肩をすくめる。
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秋も終わりに近づき、
朝の空気はすっかり冷たくなっていた。
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「海くん!」
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後ろから聞き慣れた声。
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振り向く。
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「おはよう!」
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茉白が小さく手を振る。
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「ああ、おはよう」
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海人は一瞬、
言葉を失った。
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茉白の首には、
淡いクリーム色のマフラー。
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長い髪の上からふんわり巻かれている。
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風が吹く。
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マフラーと長い髪が、
一緒に揺れた。
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(……)
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(似合ってる)
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自然とそう思った。
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でも。
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「どうしたの?」
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茉白が首をかしげる。
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「さっきから見てる」
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「……別に」
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また言えなかった。
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「変?」
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少し不安そうな顔。
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海人は慌てて首を振る。
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「変じゃねぇ」
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そこまで言って、
口が止まる。
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(違う)
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(言いたいのはそれじゃねぇ)
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結局、
続きを言えなかった。
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「そっか」
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茉白は少しだけ笑う。
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「お母さんが買ってくれたんだ」
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「……そうか」
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二人は学校へ向かった。
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昼休み。
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「茉白!」
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女子たちが集まる。
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「そのマフラーかわいい!」
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「似合ってる!」
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「いい色だね!」
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「ありがとう!」
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茉白は照れながら笑う。
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少し離れた席。
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海人はその様子を見ていた。
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(……)
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(みんな普通に言えるんだな)
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心の中でつぶやく。
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(俺も思ってたのに)
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また、
言えなかった。
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放課後。
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いつもの帰り道。
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風が吹く。
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「さむーい」
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茉白はマフラーに顔をうずめた。
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「やっぱり巻いてきてよかった」
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海人は横を歩きながら、
ちらっと見る。
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(……やっぱ)
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(似合う)
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何度見てもそう思う。
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「海くん?」
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「ん?」
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「寒くない?」
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「平気」
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「ほんと?」
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「おう」
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茉白は少し考えて、
自分のマフラーを軽く持ち上げた。
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「これ、あったかいよ」
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「……そうか」
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「海くんもマフラーしたら?」
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「そのうち」
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「絶対した方がいいよ」
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「考えとく」
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少し歩く。
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分かれ道。
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「じゃあまた明日!」
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「おう」
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茉白が手を振る。
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海人も小さく手を上げる。
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一人になってから、
空を見上げる。
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(……結局)
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今日も言えなかった。
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(似合ってるって)
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ため息をつく。
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でも、
その表情はどこか穏やかだった。
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その頃。
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茉白も家へ向かいながら、
少し考えていた。
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(海くん)
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朝から何回も見てた。
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でも、
何も言わなかった。
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(……あの顔)
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思い出して、
少しだけ笑う。
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「ふふっ」
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「たぶん」
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「何か言いたかったんだよね」
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理由は分からない。
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でも、
海人が自分を見てくれたことが、
少しだけ嬉しかった。
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冬は、
もうすぐそこまで来ていた。




