初めてのケンカ
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秋。
放課後。
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「海くん!」
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「ん?」
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「今日、公園寄ろ!」
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「……暗くなるぞ」
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「ちょっとだけ!」
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「すぐ帰るから!」
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海人は少し考えて、
ため息をつく。
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「……少しだけだからな」
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「やった!」
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二人はいつもの公園へ向かった。
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夕方。
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紅葉した木々の下。
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「見て!」
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茉白が落ち葉を集めて笑う。
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「この葉っぱ、きれい!」
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海人は少し離れたベンチに座っていた。
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空を見る。
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(もうすぐ暗くなるな)
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秋は日が落ちるのが早い。
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「茉白」
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「ん?」
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「もう帰るぞ」
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「あとちょっと!」
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「まだ遊びたい」
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海人は腕時計を見る。
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「だめだ」
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「暗くなる」
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「大丈夫だよ」
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「大丈夫じゃねぇ」
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少しだけ口調が強くなる。
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「早く帰るぞ」
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茉白は少し驚いた顔をした。
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「そんな言い方しなくてもいいじゃん」
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「……」
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海人も黙る。
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「わたしだって時間くらい分かってるよ」
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「なら帰れよ」
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思わず出た言葉。
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一瞬、
空気が止まる。
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「……」
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茉白の笑顔が消えた。
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「そんな言い方しなくてもいいのに」
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小さな声。
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海人も、
言い過ぎたと思った。
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(……違う)
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(そういう意味じゃねぇ)
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でも、
素直に言えない。
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「……知らねぇ」
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ぶっきらぼうに返してしまう。
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「もういい」
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茉白はくるりと背を向けた。
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「先帰る」
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「……」
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止められない。
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茉白は一人で歩いていった。
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海人はその背中を見つめる。
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(……なんであんな言い方した)
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胸の奥が重い。
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帰り道。
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今日は、
一人。
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いつも隣にいるはずの茉白がいない。
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(……静かだ)
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家に帰っても、
なんだか落ち着かない。
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ベッドに寝転ぶ。
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(怒ったよな)
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今日のことを何度も思い出す。
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(心配しただけなのに)
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それが、
言えなかった。
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その頃。
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茉白の家。
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ランドセルを置いて、
ベッドに座る。
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(怒っちゃった)
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海人の少し強い声。
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「なら帰れよ」
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その言葉が頭から離れない。
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「……」
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枕を抱きしめる。
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(でも)
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思い返す。
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暗くなる前から、
何度も帰ろうって言ってくれていた。
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(……心配してくれたのかな)
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少しだけ、
そう思う。
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翌朝。
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教室。
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海人は席に座っている。
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茉白も教室へ入ってきた。
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目が合う。
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でも、
二人ともすぐ目を逸らした。
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昼休み。
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「海くん」
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茉白が小さく声をかける。
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「……ん?」
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少し沈黙。
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「昨日、ごめん」
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海人は驚く。
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「わたし」
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「遊ぶの夢中になってた」
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「帰る時間だったよね」
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海人は少し黙ったあと、
頭をかいた。
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「……俺も悪かった」
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「言い方きつかった」
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「ごめん」
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茉白は少しだけ笑った。
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「仲直り?」
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海人も小さく笑う。
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「……おう」
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茉白が手を差し出す。
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「じゃあ、仲直り!」
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海人は少し照れる。
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「……子どもかよ」
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そう言いながらも、
その手に軽く触れた。
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「これでいいだろ」
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「うん!」
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茉白はいつもの笑顔に戻る。
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その笑顔を見て、
海人も心の中でほっとした。
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(……やっぱり)
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(笑ってる方がいい)
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初めての小さなケンカ。
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でも、
二人はまた一つ、
お互いのことを知ることができた。




