セミ
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「暑……」
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「ほんとだね」
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じりじりした日差し。
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セミの鳴き声が、うるさいくらい響いてる。
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「ミーンミンミン」
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「うるさ」
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海人がぼそっと言う。
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「夏って感じするけどね」
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茉白は少し笑う。
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並んで歩く。
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いつも通り。
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でも、
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夏の空気のせいか、
少しだけ距離が近い。
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そのとき。
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バサッ。
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「……え」
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急に、
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セミが飛ぶ。
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一直線。
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茉白の方へ。
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「っ、やだ!!」
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反射。
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ぎゅっ。
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海人の腕に、
抱きつく。
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「……は?」
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一瞬、思考停止。
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近い。
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めちゃくちゃ近い。
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(……なにこれ)
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心臓、一気に跳ねる。
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「ちょ、待っ」
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でも茉白は、
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まだ離れない。
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「こわい…!」
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服、ぎゅっと掴んでる。
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(……おい)
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頭の中、ぐちゃぐちゃ。
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「……セミくらいでびびるなよ」
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なんとか言葉を出す。
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声はいつも通り。
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でも——
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(……近すぎだろ)
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全然余裕じゃない。
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少しして、
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セミがどっか行く。
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「……もういない」
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「……ほんと?」
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「ほんと」
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ゆっくり、
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茉白が離れる。
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「……ごめん」
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少しだけ照れてる。
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「……別に」
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そっぽ向く海人。
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でも、
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(……なんだ今)
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さっきの感覚、
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まだ残ってる。
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(……やば)
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心臓、全然落ち着かない。
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■海人の中
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歩きながら、
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(……もっと)
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ふと、思う。
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(もっとでかくなりてぇ)
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今の自分じゃ、
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足りない気がした。
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(ちゃんと守りてぇ)
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セミくらいでいい。
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でも、
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(もっとちゃんと)
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その気持ちが、
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はっきり形になる。
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(……なんでこんな思ってんだよ)
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分かってる。
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でも言わない。
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■茉白の中
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(……びっくりした)
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でも。
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(……安心した)
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抱きついたとき。
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自然だった。
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(海くんだから)
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それが当たり前みたいに。
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少しだけ、
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顔が熱い。
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「……海くん」
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「なに」
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「ありがと」
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一瞬、止まる。
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「……別に」
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またそれ。
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でも。
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さっきより、
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少しだけ優しい。
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■夏の距離
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セミの声。
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夕方の光。
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並んで歩く二人。
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少しだけ、
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前より近い。
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言葉は少ない。
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でも——
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確実に、
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想いは強くなってる。




