夏の花火
⸻
夏休み。
夕暮れ。
⸻
「海くん!」
⸻
公園の入口で茉白が手を振る。
⸻
「待った?」
⸻
「……別に」
⸻
海人の手には花火の入った袋。
⸻
「お父さんが買ってくれたの!」
⸻
茉白が嬉しそうに見せる。
⸻
「やろ!」
⸻
「おう」
⸻
二人は公園の広場へ向かった。
⸻
日が沈み、
空が少しずつ暗くなっていく。
⸻
「ついた」
⸻
ベンチの近くでしゃがむ。
⸻
海人がろうそくに火をつける。
⸻
「ほら」
⸻
一本、茉白へ渡す。
⸻
「ありがと」
⸻
茉白は少し緊張しながら花火を持つ。
⸻
「火、つけるぞ」
⸻
「うん」
⸻
海人がそっと近づける。
⸻
シュッ。
⸻
パチパチパチ……
⸻
小さな火花が広がる。
⸻
「わぁ……!」
⸻
茉白の目が輝く。
⸻
「きれい……!」
⸻
「そんなに珍しいか?」
⸻
「うん!」
⸻
「こんなに近くでやるの初めて!」
⸻
嬉しそうに花火を見つめる。
⸻
海人も自分の花火に火をつけた。
⸻
二人の花火が、
夜の公園を優しく照らす。
⸻
「海くん見て!」
⸻
茉白が花火をくるくる回す。
⸻
「危ねぇから振り回すな」
⸻
「えへへ」
⸻
少しだけ照れ笑い。
⸻
花火が終わる。
⸻
「次これ!」
⸻
袋から新しい花火を取り出す。
⸻
「いっぱいあるね」
⸻
「全部やるぞ」
⸻
「うん!」
⸻
次々と火をつけていく。
⸻
パチパチ……
⸻
シュルシュル……
⸻
花火の音と、
二人の笑い声が重なる。
⸻
最後に残ったのは、
線香花火だった。
⸻
「最後だね」
⸻
「落とすなよ」
⸻
「負けないよ!」
⸻
二人はしゃがみ込む。
⸻
小さな火の玉が、
静かに揺れている。
⸻
「まだ大丈夫」
⸻
「……だな」
⸻
茉白の線香花火が、
少しだけ大きくなる。
⸻
「見て見て!」
⸻
その瞬間。
⸻
ぽとっ。
⸻
「あー!」
⸻
火の玉が落ちた。
⸻
「負けたぁ……」
⸻
少し悔しそうに笑う。
⸻
海人の線香花火は、
まだ残っていた。
⸻
「海くんの勝ち!」
⸻
「……まあな」
⸻
そう言った直後。
⸻
ぽとっ。
⸻
「あ」
⸻
今度は海人の火の玉が落ちる。
⸻
「終わったね」
⸻
「だな」
⸻
少しだけ静かな時間。
⸻
夜風が心地よく吹く。
⸻
「楽しかった」
⸻
茉白がぽつりと言う。
⸻
「俺も」
⸻
海人も小さく答えた。
⸻
「また来年もやろうね」
⸻
その言葉に、
海人は少しだけ笑う。
⸻
「……ああ」
⸻
短い返事。
⸻
でも、
その一言には迷いがなかった。
⸻
帰り道。
⸻
「海くん」
⸻
「ん?」
⸻
「今日はありがとう」
⸻
「……別に」
⸻
いつもの返事。
⸻
でも、
茉白は知っている。
⸻
その「別に」は、
照れ隠しだということを。
⸻
夜空には、
たくさんの星が輝いていた。
⸻
夏の終わりにはまだ少し早い、
二人だけの小さな花火大会。
⸻
その思い出は、
二人の心の中で、
夏の夜と一緒に静かに輝き続けていた。




