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初めて意識した日




冬の始まり。


吐く息が白くなり始めた頃。


保育園の園庭には、冷たい風が吹いていた。


ある日の外遊び。


砂場の近くで、子どもたちが集まっていた。


「なあ、鬼ごっこやろうぜ!」


海人が声を上げると、「やるー!」と一気に人が集まる。


いつも通りの流れ。


いつも通り、海人が中心。


走って、笑って、追いかけて。


——でも。


「……あ」


ふと、足が止まる。


少し離れたところ。


輪に入らず、一人でしゃがんでいる子。


茉白だった。


砂をいじって、小さな山を作っている。


誰かと遊んでいるわけでもない。


でも、つまらなそうでもない。


ただ静かに、ひとりで遊んでいる。


(なんで入らねーんだろ)


そう思う。


別に、気にする必要なんてないのに。


鬼ごっこに戻ればいいのに。


でも——


視線が、戻らない。


「海人ー!はやく!」


「あ、今行く!」


返事はする。


でも一瞬だけ、また見る。


さっきと同じ場所に、同じ姿。


風で揺れる髪が、やけに目につく。


(……なんだよ)


自分でもわからない。


なんで気になるのか。


なんで、ほっとけないのか。



結局、鬼ごっこに戻る。


でも。


走りながら、ふと視線が逸れる。


また、あっちを見る。


(なんで見てんだ、俺)


軽く眉をしかめる。


意味わかんねー、って顔。



鬼ごっこが終わったあと。


「つかれたー!」とみんなが座り込む中、


海人はふと立ち上がる。


誰に言われたわけでもなく、


理由も特にないまま、


そのまま——


茉白の方へ歩いていく。



「なに作ってんの」


自然に出た声。


自分でも、なんで話しかけたのか分からないまま。



茉白が顔を上げる。


「あ、海人」


その声が、妙に自然で。


海人の胸が、少しだけ変な感じになる。


「……山」


茉白は砂を整えながら答える。


見ると、ただの山じゃない。


小さなトンネルがあって、枝が刺さっていて、


なんとなく城みたいになっていた。


「すげーじゃん」


思わず本音が出る。


茉白は少しだけ目を丸くする。


「海人、こういうの興味ないと思ってた」


「なんで」


「走ってばっかだから」


「失礼だな」


そう言いながら、海人は茉白の隣にしゃがみ込む。


気づけば自然に。


前なら、絶対しなかった。



「ここ崩れそう」


海人が指をさす。


「崩れないよ」


「いや、崩れるって」


「崩れない」


「やってみていい?」


「だめ!」


即答。


海人は笑う。


茉白も少しだけ笑う。


その瞬間。


海人の心臓が、どくん、と鳴った。



(……え)


一瞬、わけがわからなくなる。


今までと違う。


なんか変だ。


胸がむずむずする。


茉白が笑っただけなのに。


なんでこんな変になるのか分からない。


でも——


もっと見たい、って思った。


もっと話したい、って思った。


一緒にいたい、って、


初めて思った。



冷たい風が吹く。


でも海人の顔だけ、少し熱かった。


茉白はそんな海人に気づかず、


「海人、そこ触ると崩れる」


と真剣な顔で砂を守っている。


海人はその横顔を見る。


揺れる髪。


やわらかい声。


笑った顔。


静かなところ。


全部が、なんか好きだと思った。



その日。


海人は初めて、


“茉白が特別”になった。

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