風に揺れる髪
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放課後。
いつもの帰り道。
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春の風がやさしく吹いていた。
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「今日はあったかいね」
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茉白が空を見上げる。
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「……そうだな」
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二人は並んで歩く。
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その時。
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ふわっ。
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風が少し強く吹いた。
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茉白の長い髪が、
やさしく風になびく。
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さらり。
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光を受けて揺れる髪。
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海人の視線が、
思わず止まった。
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(……)
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肩までだった髪は、
もう背中まで伸びている。
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(……長くなったな)
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風が吹くたび、
ふわりと揺れる。
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(……似合ってる)
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自然とそう思う。
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でも、
口は動かない。
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「海くん?」
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茉白が振り向く。
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「なに?」
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海人は少しだけ目を逸らす。
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「……別に」
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また、その一言。
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「また『別に』だ」
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茉白は少しだけ笑う。
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「さっきから見てたでしょ?」
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「見てねぇ」
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「見てたよ」
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「見てねぇ」
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少しだけ言い合いになる。
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「じゃあ、なんで?」
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まっすぐな視線。
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海人は言葉に詰まる。
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(言え)
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(『似合ってる』って)
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心の中では思う。
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でも。
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「……髪」
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ようやく出た言葉。
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「え?」
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「……邪魔じゃねぇの?」
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全然違う。
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海人は内心で頭を抱える。
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(違うだろ)
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(そうじゃねぇ)
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茉白は自分の髪をそっと触る。
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「ちょっと長くなったからね」
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「お母さんにも切る?って聞かれたけど」
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少しだけ笑う。
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「もう少し伸ばしたいなって思って」
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海人は小さくうなずく。
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「……そうか」
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その返事だけ。
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でも、
どこか安心している自分がいた。
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しばらく歩く。
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また風が吹く。
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今度は長い髪が、
海人の腕にふわっと触れた。
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「ご、ごめん!」
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茉白が慌てて髪を押さえる。
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「……別に」
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海人は何事もないように歩く。
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でも、
心臓だけは落ち着かなかった。
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(……近ぇ)
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顔が少し熱い。
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帰り道の終わり。
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「じゃあね、海くん」
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「おう」
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茉白が手を振る。
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その後ろ姿を、
海人は少しだけ見送った。
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風に揺れる長い髪。
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夕日に照らされて、
きらきらと輝いている。
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(……やっぱ)
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小さく息をつく。
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(似合ってる)
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今度も、
最後まで言葉にはできなかった。
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でも、
その想いは少しずつ、
海人の胸の中で大きくなっていた。




