変な気持ち
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昼休み。
教室はいつものようににぎやかだった。
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「海人くん!」
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同じクラスの女の子が海人の席へやってくる。
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「昨日の宿題さ!」
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「ここ分かんなくて!」
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「あー、それな」
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海人はノートを見ながら説明する。
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「そういうことか!」
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「ありがとう!」
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女の子は嬉しそうに笑った。
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その様子を、
少し離れた席から茉白が見ていた。
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(……あ)
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海人が笑っている。
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楽しそう。
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女の子も笑っている。
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それだけなのに。
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胸の奥が、
少しだけざわついた。
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(……なんでだろ)
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目が離せない。
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「茉白ちゃん?」
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友達に呼ばれる。
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「え?」
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「どうしたの?」
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「ううん」
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小さく首を振る。
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でも、
もう一度海人の方を見てしまう。
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(まだ話してる)
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心の中が、
少しだけ落ち着かない。
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放課後。
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帰りの準備をしていると、
海人が近づいてきた。
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「帰るぞ」
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「……うん」
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二人はいつもの帰り道を歩き始める。
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少しだけ沈黙。
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海人が首をかしげる。
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「今日、静かだな」
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「そう?」
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「なんかあったか?」
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「別に」
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言ってみる。
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でも、
海人の口ぐせを真似したみたいで、
少しだけ笑ってしまった。
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「なんだよ」
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「海くんの『別に』って、こんな感じなんだね」
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「……そんなか?」
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「うん」
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二人で少し笑う。
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歩きながら、
茉白はぽつりと聞いた。
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「今日さ」
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「ん?」
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「あの子と何話してたの?」
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「宿題」
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「それだけ?」
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「それだけ」
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海人は不思議そうな顔をする。
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「なんで?」
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「……なんでもない」
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本当に、
なんでもない。
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……はずなのに。
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(なんで聞いちゃったんだろう)
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少しだけ恥ずかしくなる。
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その時、
海人が何気なく言った。
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「でも」
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「?」
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「帰るのは茉白とだろ」
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何気ない一言。
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でも、
その瞬間。
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胸の中のもやもやが、
すっと消えていく。
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(……あ)
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自然と笑顔になる。
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「どうした?」
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「ううん」
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小さく首を振る。
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「なんでもない」
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今度は、
本当に。
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二人はまた並んで歩き出す。
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夕日が二人の影を長く伸ばしていた。
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帰り道。
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茉白は心の中で、
そっとつぶやく。
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(海くんが、誰と話してても)
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(帰るのは、わたしなんだ)
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それだけで、
胸が少しだけあたたかくなった。
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まだ「やきもち」という言葉は知らない。
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けれど、
大好きな人を誰かに取られたくない。
そんな小さな気持ちが、
茉白の心にも少しずつ芽生え始めていた。




