最後まで走れ!
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春。
運動会の日。
朝から校庭はたくさんの人でにぎわっていた。
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赤組、白組。
子どもたちは元気よく並んでいる。
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「海くん!」
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茉白が手を振る。
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「頑張ってね!」
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「……おう」
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ぶっきらぼうに返事をする海人。
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でも、
少しだけ口元が緩んでいた。
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競技が始まる。
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玉入れ。
綱引き。
大玉転がし。
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応援席から、
茉白は何度も海人を探していた。
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(いた)
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友達と笑っている海人を見つけて、
自然と笑顔になる。
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午後。
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先生の声が響く。
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「次は、三年生代表リレーです!」
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校庭が一気に盛り上がる。
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海人は赤いバトンを受け取る。
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(負けねぇ)
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スタート位置につく。
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「位置について!」
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パンッ!
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スタート。
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海人は勢いよく走り出した。
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「海人ー!」
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友達の応援が聞こえる。
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「海くん!」
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茉白も思わず立ち上がる。
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(速い)
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ぐんぐん前との差を縮めていく。
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カーブに差しかかった、その時。
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小さな石。
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ぐらっ。
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「あっ!」
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少しだけ体勢を崩す。
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応援席から、
茉白の顔色が変わる。
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「海くん!」
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転びそうになる。
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でも、
海人は踏ん張った。
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「……っ!」
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体勢を立て直し、
そのまま走り続ける。
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バトンをしっかり握ったまま、
次の走者へ。
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「はい!」
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パシッ。
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きれいにバトンが渡る。
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「よし!」
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海人は大きく息をついた。
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競技が終わる。
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赤組が勝った。
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「やったー!」
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友達と喜び合う。
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その輪の外から、
茉白が駆け寄ってきた。
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「海くん!」
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「……なんだ」
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「さっき!」
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息を切らしながら、
海人を見る。
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「転ぶかと思った……」
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少しだけ目が潤んでいる。
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海人は少し驚いた。
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「転んでねぇよ」
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「でも危なかったでしょ!」
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「……まあ」
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頭をかく。
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「心配した」
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その一言に、
海人は少しだけ目を丸くした。
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「……悪い」
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小さくつぶやく。
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「でも」
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茉白は笑った。
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「最後まで走ってて、かっこよかった」
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一瞬、
時間が止まる。
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(……は?)
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心臓がドクンと鳴る。
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顔が熱い。
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「……別に」
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いつもの返事。
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でも、
耳まで真っ赤だった。
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「ふふっ」
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茉白はその様子を見て笑う。
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「照れてる」
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「照れてねぇ」
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「照れてる」
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「うるせぇ」
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二人は顔を見合わせ、
思わず笑った。
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少し離れた観覧席では、
海人の母がその様子を見て微笑んでいた。
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隣では、
海里が小さな手を振っている。
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「にぃちゃー!」
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海人はその声に気づき、
小さく手を振り返した。
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青空の下。
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春の運動会は、
笑顔と歓声に包まれながら幕を閉じた。




