怪我の回
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春の日。
昼休み。
校庭では子どもたちが元気いっぱいに走り回っていた。
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「待てー!」
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「捕まえてみろー!」
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鬼ごっこ。
茉白も友達と笑いながら走っている。
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海人は少し離れたところで、その様子を見ていた。
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(元気だな)
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思わず笑う。
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その時だった。
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「あっ!」
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茉白の足が小さな石につまずく。
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バランスを崩し、そのまま前へ。
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ドサッ。
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「っ……」
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膝を強く地面についた。
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一瞬、校庭が静かになる。
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「茉白!」
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海人が真っ先に駆け出した。
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「大丈夫か!」
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茉白の前にしゃがみ込む。
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「……うん」
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そう答えようとした。
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でも、
膝から赤い血がにじんでいる。
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「痛っ……」
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少しだけ顔をしかめる。
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海人の表情が変わる。
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「立てるか?」
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「たぶん……」
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立ち上がろうとする。
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でも、
少し足に力が入らない。
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ぐらっ。
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「っと」
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海人がとっさに腕を支える。
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「無理すんな」
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「……ごめん」
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「謝んな」
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短く返す。
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近くにいた先生が駆け寄る。
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「茉白さん、大丈夫?」
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「保健室へ行こう」
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海人が先生を見る。
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「俺も行きます」
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先生は少し笑ってうなずいた。
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「お願いね」
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保健室まで、
ゆっくり歩く。
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「痛い?」
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「ちょっとだけ」
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「転ぶからだ」
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ぶっきらぼう。
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でも、
歩く速さは茉白に合わせていた。
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保健室。
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先生が傷を洗い、
消毒をする。
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「しみるよー」
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「いたっ」
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茉白が少しだけ目をつぶる。
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海人は横で黙って見ていた。
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(結構痛そうだな)
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心配になる。
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「はい、終わり」
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白いガーゼが貼られる。
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「今日はあまり走らないようにね」
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「はい」
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保健室を出る。
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廊下を並んで歩く。
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「ごめんね」
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茉白がぽつりと言う。
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「なんで」
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「心配かけちゃった」
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海人は少しだけ考えて、
小さくため息をつく。
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「……次から気をつけろ」
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「うん」
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少しだけ笑う茉白。
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「海くん」
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「ん?」
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「ありがとう」
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海人は少し照れくさそうに目を逸らす。
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「……別に」
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その返事はいつも通り。
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でも、
歩く速度は最後まで、
茉白に合わせたままだった。
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放課後。
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帰り道。
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「まだ痛い?」
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海人が何気なく聞く。
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「もう大丈夫」
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そう言って笑う茉白。
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その笑顔を見て、
海人は小さく安心した。
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(……よかった)
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その言葉だけは、
心の中でそっとつぶやいた。




