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07

 ……ピル…ピルッピー…


 彼らがが帰って行った事を、小屋の陰から使い鳥(瑠璃千鳥)たちが確認すると、か細い鳴き声を上げながらとても疲れた様子でのたのたとエニの足元に集まって来た。飛び立つ元気もないらしい。


「あれが村の人かい?」


「ひゃっ!」


 荷馬車が遠く小さくなったのを見計らって、僕は放心状態で突っ立っていたエニの頭の上から覗き込むようにして話しかけた。


「あ、ごめんごめん。エニがなんだかおびえているような気持ちがお守りから伝わってきたから、どうしたんだろうと思って。」


「あっ…。」


 エニはずっと胸元のお守りがあるあたりを服の上から抑えていた。無意識の行動だったからなのか、顔を真っ赤にすると恥ずかしそうに胸元から手を離した。


「それで来てくれたの?」


「何か危険な事があったのかなって、だってエニが祈ったらすぐに来るよって言っただろう?ただでも、エニ以外の人の前に顕現する(現れる)ことは出来ない(したくない)けどね…。」


「どうして?」


「あ、えっと、どうしても誰か他の人の前に現れて欲しいって事じゃなくて…。」


 エニは慌てて尋ねた理由をつけたした。


「うーん、よほどの祈りや願いでも簡単に応じて現れることって最近だとあまり聞かないなあ、遥かな大昔ならともかく。信仰は嬉しいものだし力になるものだけど、人間の為に自然を司っている訳じゃないから特に理由もなく人間の前に現れる必要が無いというか。」


 それに人間の前に姿を現す事なんて今まで考えたことも無かったから、自分でもどう説明すれば良いのか難しいなあ。


「元々信仰をたくさん集めている神だったら、信者から供物を捧げられれば現れる事は多いんじゃないかなあ。とは思うけど。」


「それに、既に他の神との交流がある人間に関わるのは避けたいという側面もあるかな。」


「他の神様とは仲良くないの?」


「というより、トラブル(諍い)が起こりやすいからね。」


「いさかい。」


「例えば来歴の浅い(低位の)神が加護を与えた人間に、別の高位の神が加護を与えると低位の神の加護が封じられる(効果が無くなる)んだ。人間側が望んで高位の神に加護を求めたのなら別に構わない。つまりより強い力や守護が欲しいからそうしたって事だから。だいたいの神はそれで納得する。」


「けれど、きまぐれだったりうっかりだったりで…とても高位の神が気軽に(一方的に)加護を授けてしまい、気に入った相手に授けた自分の加護を封じられた低位の神が、悲しみに暮れて仕事をおろそかにしてしまって大災害が起きたことがあった…らしい。」


「高位の神様が、災害を何とかできたりはしないの?」


「司る事物や事象が違うと、なかなか上手くコントロール(守護)出来ないんだ。高位の神が大いなる力で対処しようとしてより酷い災害になってしまったりとか。」


「例えば誰かの家で火事になった時、火を消そうとして家ごと粉砕したり、村ごと消滅させたりという解決方法になる。それは人間にとって迷惑だろう?」


「神様は何でも簡単にできる訳じゃないんだ。」


 エニは僕を不思議そうに見上げたままだ。でも心なしか少し元気がなく、外で長く話しすぎたかもしれない。


 いや、あんなことがあったのだから疲れてしまっていたのだろう。気が利かなかったなと僕は反省し、今日は小屋の中で座ってできる作業だけで過ごそうかとエニに促した。


 そして使い鳥(瑠璃千鳥)たちは窓辺近くで疲れた(精神)を癒すため日向ぼっこしてぬくぬくするそうだ。


「さあ、村の人たちとは悲しいこともあっただろうけど、こうやって食べ物を持ってきてくれたのだし、これらを小屋の中に運んで中身の確認をする、それを今日の作業としようか。」


「うん。ヴィスル、手伝ってくれてありがとう。いつもはわたし一人で運んでいたから、つまづいて転がしちゃって駄目にしちゃったりもしてたんだ。」


「そっか、そうだね、気付かなくてごめん。」


「あ、前に持ってきてもらったのはヴィスルと会う前だから、だから今手伝ってくれるのが嬉しいから、気にしないで。」


「エニは偉いな。じゃあさっさと小屋に運び入れよう、さて、どんな食べ物が入っているんだろう?」


 そう語りかけて、僕たちは小屋の外に置かれたままの荷物─木箱や籠や藁編みの袋など─は、エニの数日分の食料なので数は少なく、すぐに小屋の中に取り込むことができたので、早速何が入っているかを確認することにした…けれど。


 それら中身を確かめると、僕は言葉を詰まらせてしまった。


「えっと…これは、その…。」


 あまり人間に詳しくないから困惑しつつエニの様子を伺うと、意外な事に少し明るい…というよりもどこかホッとしたような表情で僕に教えてくれた。


「村の人がくれた荷物に木箱や籠があるのは初めて。それに、いつもよりちょっと良い食べ物が入っているよ。」


 中身を確認するために木箱の蓋や袋の口を開けて籠の隣に置き、エニは中身を確認すると僕にそう報告してくれた。


 いつの間にか英気を取り戻した使い鳥(瑠璃千鳥)が籠の縁に乗り、その中身を見て首をかしげている。


「いつもより、ちょっと良い…?」


 念のため確認すると、エニは不思議そうな顔ではっきりと答えてくれた。


「うん。どうしたんだろう?ちゃんとした大きさのお芋も人参も豆もあるし、干した肉や果物まで!」


 機嫌が上向きになったのか、ほころばせた顔で中身の説明をしてくれる


「いつもはもっと小さくてしわしわのお芋と豆が少し。干した肉や果物が入っていたのは今日が初めてだからびっくりしちゃった。」


「あ、チーズは入っていたことが無いから…チーズが無くてごめんね?」


 手にとっては元に戻しを繰り返しているエニは、僕の反応の薄さを推測して─この辺りでは毎日当たり前のように食べられているものが無い事を─謝ってくれたが、その見当違いの謝罪を指摘することは出来なかった。


「い、いや僕は人間の食べ物で糧を得ている訳じゃないから…。食べようと思えば食べられる…とは思うけど人間と同じ食事を摂ったことは無いなあ。」


「そうなんだ。」


 僕の返事に納得したのか、エニはそのまま中身の確認を続けている。


 けれど僕にはその中身の食料はあまり良いものには見えない。細切れのような干し肉や干し果実はともかく、豆は剥がれた皮だらけで辛うじてある実も割れている物ばかりだし、芋はしわがたっぷり入っていて小さいというより縮んでいる。人参だってカサカサであちこちから細い根が生え始めている。


 他にも菜っ葉が入っていたが、どれも中途半端に乾燥させたというか生乾きと言っていいような状態だ。


 かろうじて腐ってはいないので食べられはするだろうが…。


 ピル、ピルッピー


 籠の縁に乗ったまま興味本位で覗きに来た使い鳥(瑠璃千鳥)でさえ、一声鳴くと首を振ってそっぽを向いてしまっている。


「…これは…。」


 思わず、ひどいと口にしそうになったが、それはこれをいつもの食事としている…きっといままでもこれと同じようなものをエニは食べていたのだ。言ってしまったらきっとエニを傷つけてしまうと思い、かろうじて踏みとどまった。


 後悔した。今まで少しくらいエニの居住環境を良くしてやろうと思っていたが、食事の事など考えもしなかった。


 僕に日々の食事の習慣などない。神である自身には人間や動物たちでいう所の食事などは必要なく、使い鳥(瑠璃千鳥)たちは自分が守護する河川の川辺で守護の産物である小虫を自由に食べているから、エニ(人間)の食事というものに関心を寄せた事はなかった。


 食事が人や…生き物にとって必要な事だという知識はあったが、実際にどうしているのかという理解が足りていなかった事に気付いてしまった。


 ─あれ、という事はエニは自分の食事すらままならないのに、使い鳥(瑠璃千鳥)たちの世話を…彼らの食事の面倒を見ていたのか─


 とても大変なことに気付いてしまった。幼い少女が自分の住処や食事すら満足ではないのに、誰かに…自分よりはるかに弱い者である小鳥たちを思いやり、住処や食べ物の世話をするなんて。


 使い鳥(瑠璃千鳥)たちが受けた恩はとんでもなく深く素晴らしいものだったようだ。そりゃあ彼らも気に掛けるし、()に祈りが届くはずだと今更ながら納得した。


 ピルルッピルピー


「ヴィスル、どうしたの?」


 籠から干からびた野菜と豆をいくつか取り出そうとしているエニが、不思議そうに声をかけてきた。


「ああ、ごめん、エニのしばらくの間の食料なのに、量が少ないような気がして」


「そうなのかな?いつもはこれよりもっと少ないよ。今回は干し肉に干した果実も入っているからすごく豪華で驚いちゃった。大事に食べなきゃ!」


「そうなのか…。」


「あ、割れてない豆もある。今日は量も種類もいつもよりなんだかいっぱい入ってる。」


 籠の中に入っていたエニの手に余る位の小袋には豆や干した種(カボチャやスイカの種)がいくつか入っている。


 僕はそれを見てあることを思いついた。人間たちが良く作っているものだ。


「ねえエニ。その豆や種を畑に植えてみないか?」


「畑?そんなのどこに…。」


「一緒に作らないか?この川辺でなら、出来るんじゃないかって思うんだ。」


「いいの?」


「ただの普通の畑だけどね。僕の守護が及ぶこの川辺なら、少しは育てやすくなるかもしれないし。」


「ヴィスルは河川の神様でしょ?畑とか作って大丈夫なの?」


「僕の加護がある場所(この川辺)に普通の畑を作るだけさ。作った畑に何か特別な効能や権能を持たせるわけじゃないからね。」


「じゃあ、神様としての力が、火事を消すのに村を消滅させるような事になったりしないで大丈夫ってこと?」


「ああ。人間が整地をして土を耕す事と同じように体を動かして、ただここに畑を作るだけだからね。」


「そっか、よかった。ヴィスルに変な事をさせちゃうのなんて嫌だもの。」


「それじゃあ、畑に植えられそうなものをより分けておこうか。」


「うん。わかった!」


 今まで何気なく見ていた人間たちの畑作りの様子を思い返して手順を思い出して考えつつ、いつも通りの様子に戻ったエニと一緒に、荷物の仕分けを続けることにした。


 畑を作り食べ物の不安が無くなればエニの体力もついて健康になるだろう。一人前と言わず、ある程度の体力が付きさえすれば船着き小屋(此処)を離れて、どこか別の村や町にエニを連れて行くことが出来るかもしれない。


 ─いや、絶対にそう出来るようにしよう─


 それまでに自分ももっと今の人間たちの暮らしや生活について調べようと決意した。

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