12
ペチャッ、ペタペタペタペタペタピタッ。
「や、いやっ、やだ!」
スッ、スタッ、ペタペタペタ!
「とう様、みて。足がもつれてあんなに体を震わせて…うふふ、逃げられると良いわね!」
「何だ、中々粘るじゃねえか。」
「あははははっ、なんてへたくそな踊りなの!でたらめすぎて笑えるわ。」
もつれた足では這いずりながらでしか動けなくて、必死に逃げているわたしを二人が楽しんでいる。
なんて人たちなんだろう。そう思った時、また足がもつれて転んでしまった。
「おっと、最後のあがきはもう終わりか?足元がもうふらついているぞ。」
「舞踏会はもう終わり?早すぎない?。もっと楽しませてくれていいのに!」
アッハハハハハッ!
大笑いしているのは二人だけではなかった。
扉の外からは 村の人たちの笑い声も聞こえる。あの人たちもずっとこっちを見ていたんだ。
悔しくて、悲しくて、けれどどうすればいいかわからなくて…。
溢れそうになる涙をこらえながら、歯をくいしばっていると、転んだ表紙に胸元からお守り袋がこぼれ落ちてきた。
ヴィスル…。
ここは川から遠いから、ヴィスルに通じないかもしれないけれど…
お守り袋を拾って握り締めようとした時、もやはわたしの拾おうとした手をめがけてとびかかって来た。
顔が無いはずなのに、無いはずの頭が大きく口を開いたように見えた。
「いやっ、噛まれるっ!」
ガッ、ビリッ!
わたしは思わず手に持ったお守り袋を、噛みつかれないようにもやに押し当てて防ごうとしたら、お守り袋にぶつかったもやが袋を勢いよく噛み切った。
「あっ!袋が…」
ビリーーーッ、バララララッ!
切り裂かれた袋から。小石たちがこぼれ落ちた。
こぼれ落ちた小石のいくつかが、もやぶつかった時…。
─お前は本来金貨を与えない。
─お前は既にもう神ではない。
何かの声なき声が頭に響いた。
「え、今の声?音は何?」
「グゲギァ!」
もやは、鞠のようにはねて後ろに飛ばされていた。
けれど直ぐに体を立て直して、少し離れたところからわたしの様子をじっと見ている…。
「はあ?アイツ何言ってるのかしら。」
「恐怖でおかしくなっちまったんだろうよ。金の神様、早くやっちゃって下さいよ。」
二人にはあの声?が聞こえていなかったのか、もやに早くわたしを襲えと言い始めた。それに応えて
ペタ、ペタ、ペタッ
ゆっくりと…恐る恐るといった足取りでわたしの方へ向かってきたけれど、数歩で動きが止まった。
そんな動きを何回も繰り返していて、いつまたとびかかって来るかともやを、じっと見つめていたわたしはもしかして、とお守り袋からこぼれ落ちた石をもやに向かって転がしてみた。
もやの後ろでは二人がニヤニヤと私たちを眺めて笑っている。
松明の揺らめく炎ではお守り袋からこぼれたのは石つぶてか木の実にしか見えなくて、それをわたしがやけになって投げたと思っているのかな。
コロコロコロコロ……ペシャッ
「ゲギャッ!」
ピシッ
もやが苦しそうなうめき声をだしたと同じくらいに、マノリスさんに着けられた腕輪から何かがきしんだ音がした。
「いたっ、……えっ、腕輪にヒビが?」
縛られているような痛みから少しゆるんだような軽い痛みに変わったので腕輪をみると、腕輪の文様が切り裂かれるような形の大きなヒビが入っていた。
「もしかして、この石をあのもやに当てたから?」
ヴィスルが力を込めてくれた力のある石…もしかしたらあのもやに効くのかも!
わたしは近くに転がっていた石をすべて集めて、わたしと親娘の間にとどまり、小屋の真ん中にうごめいているもやに向かって投げつけた。
─お前の力(加護)は招財進宝にあらず。
─お前の力(招財進宝)は神力にあらず。
─お前は金貨を与える神ではない。
─お前は金貨を与える神ではない。
さっきと同じ不思議な声が、どこからか聞こえてきた。
プル、プルプルプル…。
ピシッ、パキッ!
もやはおびえたようにその場で震え始めると同時に、腕輪のヒビがより深く大きくなった。腕を縛られたような感覚が消えて、これならもう外せるかもしれない!
ちら…ともやを見るとまだ震えている、この間に腕輪を外すことが出来たら…。
そう思ってもやから目を離して、腕輪を掴んで外そうと力を入れ始めたその時。
ペタッ、ペタペタペタペタペタ!
もやはわたしに襲い掛かって来た。
変な姿勢のまま、慌ててもやを避けようと体をひねり損ねて、うまく避けられなくて木箱の角にぶつかってよろけてしまい、作業台の下まで転んでしまった。
「っ、痛い…。」
もやはのろのろとうごめいて私がどこに居るか探している。
「そろそろ逃げるのも終わりだ、観念しろ。」
「くすっ、どんくさ過ぎて捕まらないなんて逆に笑えて来るわ。」
二人がわたしのいる小屋の奥までやって来て言った。
「さて、変な所に入り込みやがって…。まったく、手間かけさせるんじゃねえぞ」
「最後まで面白かったわ、エニ。」
そしてマノリスさんが作業台の下でうずくまっている私の腕をつかみ引きずり出し、小屋の真ん中へと乱暴に放り投げた。
「奥にすっこんで隠れられても困るからな。」
ドサッ
パキンッ!…カツンッ。
放り投げられて床にぶつかった時の衝撃で、腕輪が完全に割れて私の腕から外れ、床に落ちた。
バサッ、バサッ、バササッ。
ピルーピルルピー。
小鳥さんたちの羽ばたく音と声が聞こえる!
ハッとして胸元のお守り袋を握ろうとしたとき、小屋の奥側からマノリスさんがきて、私の目の前に落ちた壊れた腕輪を拾い、私の腕を掴もうとした。
あんな腕輪、もうつけたくない、助けてヴィスル!
腕を掴まれないよう私は体をひねらせて逃げ、破れたお守り袋を握り締めて祈る。
ピカッッ
カツンッ、カラララッ
「エニ!」
ふわりと柔らかい光に包まれて、私のそばにいてくれる人がやって来た。
「ヴィ、ヴィスル…来てくれた…。良かった、うれしい…!」
「ああ、エニ!無事でよかった!」
「も、もう会えないかと思った…。」
ここにはヴィスルを知らない人が何人もいて、来てくれないかもと思っていたから、わたしは嬉しくてホッとして思わず力いっぱい抱き着いた。
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