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機動要塞の聖女さま~魔力暴走で廃棄された私、魔導工学の天才に「電池」として再就職しました。~  作者: 朔夜
第3章 空中都市と空飛ぶ請求書

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汚染の源は、地下深くの「心臓」です


地下遺跡の最深部。

そこは、星の「地脈ライフストリーム」が交差する、物理的な心臓部だった。

だが、その光景は、神聖さとは程遠いものだった。


「……うわ。なんだこりゃ」


アルトが顔をしかめる。

輝くはずの地脈はドス黒く濁り、そこに無数の「異質な根」が突き刺さっている。

それは植物の根でありながら、表面には幾何学的な回路模様が走り、先端は鋭利なクリスタルで構成されていた。

有機物と無機物が混ざり合った、宇宙的恐怖コズミック・ホラーの具現。


「こ、これは……」


同行していたメサイア(元教皇)が、ガタガタと震えだした。

数千年の時を生きるAIである彼が、初めて露わにする「原初の恐怖」。


「間違いない……。我々古代人が恐れ、地上を捨てて空へ逃げた元凶……『星喰い(ヴォイド)』の成体だ……!」


地球の地下深くに巣食っていた「寄生根」の正体。

それは純粋な捕食者である「子」とは違い、星のシステムに深く根を張り、支配し、搾り尽くす狡猾な「寄生者」だった。

部屋の壁や床のいたるところに亀裂が走り、そこからも太い根が侵入してきている。

どうやらこの部屋は、正規の扉以外にも、根による侵食で無数の「穴」が開いていたようだ。


「……き、来たか……アルト商会……!」


その根の集合体の中から、一人の男が這い出してきた。

ネオ・サンクチュアリ社CEO、グリード。

だが、その姿は無惨だった。

下半身がクリスタルの根と癒着し、引き剥がせないほど同化している。全身の皮膚は樹皮のように硬質化し、ひび割れた隙間から変色した体液が漏れ出していた。


「グリード……。お前、何だそのザマは」

「み、見ろ……!私は星と一体化したのだ!」


グリードは引きつった笑みを浮かべるが、その目は恐怖で見開かれている。


「貴様らが扉を開けるのを待つ必要などなかった!……私は逃げ込んだ地下水路で、この『神の根』を見つけたのだ!」


彼は誇らしげに、しかし震える声で語った。

アルトたちの追撃を逃れ、汚水まみれのパイプを這いずり回り、偶然この場所へ繋がる亀裂を見つけたのだ。

そして、そこに溢れる強大な魔力に魅入られ、自ら触れてしまった。


「力を……無限のエネルギーを求めて触れた!だが……少し……適合率が高すぎてな……!」


背後の巨大な根が、彼の意思とは無関係に蠢き、彼をさらに深く飲み込もうと締め付ける。


「ぐぅッ!?……ま、待て!鎮まれ!」


彼は必死にコンソールを操作するが、エラー音が鳴り響くだけだ。

制御できていない。

彼は力を手に入れたのではなく、力に食われているだけだ。


「……おい、グリード」


アルトは冷ややかな目で、グリードと、その背後にある「根」を観察した。

懐の「ベリアルの義眼」が、警告アラートを鳴らし続けている。


「助けてくれぇぇぇッ!!」


突然、グリードがなりふり構わず叫んだ。

彼はアルトに向かって手を伸ばす。


「き、君なら分かるだろう!?このエネルギーの価値が!取引だ!私をここから切り離してくれれば、この力(根)の半分をやる!共同経営だ!」

「……お断りだ」


アルトは即答した。


「え?」

「お前、もう『手遅れ』なんだよ。脳まで菌糸が回ってる。……そんな不良債権、タダでもいらねえ」


冷徹な宣告。

アルトは商売人だ。損にしかならない取引はしない。

それに、星を食い物にしてきた害虫に掛ける情けなど持ち合わせていない。


「み、見捨てるのか!?私はCEOだぞ!選ばれた人間だぞ!」

「元・人間だろ。……精々、いい肥料になりな」


アルトが背を向けた瞬間。

絶望したグリードの精神が崩壊し、それをトリガーにして「親ヴォイド」が完全に覚醒した。


ズゴォォォォォォッ!!!


地下空洞全体が絶叫する。

寄生根が一気に膨張し、グリードを頭から丸呑みにした。

巨大な「口」が形成され、捕食者の咆哮が轟く。


『――敵性個体、確認。……排除イタダキシマス』


ザザッ……ザザザッ!!


成体の圧倒的な魔力干渉により、通信機が激しいノイズにまみれる。

地下数千メートルと成層圏。物理的な距離と岩盤の厚みが、通信を遮断しようとする。

途切れ途切れのリンクの向こうから、セレスの悲鳴が届いた。


「しゃ、社長!ヴォイ……ちゃんの様子が……!ガタガタ震えて……!」

『……ッ!嫌……コワイ……!』

『ママ……怒ッテル……ゴメンナサイ……!』


要塞のスピーカーから、幼体ヴォイドの怯えた声が漏れ聞こえてくる。

エンジン出力が急低下。シールドが霧散し、要塞が墜落の危機に瀕する。

親に対する根源的な恐怖による、システムダウン(すくみあがり)。


「チッ、これだからガキは!繋げろ義眼!」


アルトは舌打ちし、懐から「ベリアルの義眼」を引き抜くと、通信機に物理的に直結させた。


出力全開ブーストだ!無理やり回線をこじ開けろ!」


バチチチッ!


義眼が過負荷で発熱し、強引にノイズをねじ伏せる。


「おいヴォイド!職場放棄すんじゃねえ!目を開けて見ろ!」


アルトが叫ぶと同時に、地下の親ヴォイドが動いた。

上空の要塞(我が子)に対し、慈愛ではなく――明確な「食欲」を向けたのだ。

巨大な触手が、天を突くように伸びる。


『……タベル。……栄養、タベル』


親は、子を認識していなかった。

ただの「手頃なエネルギー源」として、我が子を吸収しようとしている。


『ヒッ……!?マ、ママ……?』


幼体ヴォイドが絶望する。

謝れば許してもらえると思っていた。だが、親にとって自分は「エサ」でしかなかった。


「分かったか、ヴォイド!あいつはお前の親じゃねえ!」


アルトの声が、ノイズ混じりの通信越しに響く。


「お前を捨て、今また食おうとしている『捕食者』だ!……食われるのが嫌ならどうする!?」

『……イヤ……。タベラレルノ……イヤ……!』

「なら、食い返せ!お前の飼いオーナーは俺だ!俺は社員を餓死させたりしねえ!」


生存本能への刺激。そして、新たな「オーナー」からの命令。

幼体の恐怖が、急速に怒りへと変わっていく。


「あのデカブツを倒せば、腹一杯『魔力ゴハン』が食えるぞ!特盛だ!」

『……ゴハン!』

『僕ヲ、捨テタ……!喰ベテヤルッ!!』


要塞のエンジンが再点火し、咆哮を上げる。

恐怖が殺意へ、そして食欲へと変換された。


「……へっ。いい子だ」


アルトは通信機をしまい、鉄パイプを構えて獰猛に笑った。


「セレス!シスターズ!総員、攻撃準備だ!」

「しゃ、社長!?親子喧嘩に割って入るんですか!?」

「喧嘩じゃねえ!『相続争い』だ!」


アルトは、怪物と化した親ヴォイドを指差した。


「あの親父オリジナルを倒して吸収すれば、ウチのエンジンは完全体になる!……星の寿命ごと、エネルギーを総取りだ!」


星を食う親と、それを食おうとする子。

そして、その両方を利用して利益を得ようとする強欲な人間。


「行くぞ!……宇宙規模の『骨肉の争い』、俺たちがケリをつけてやる!!」

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