決算は、光の彼方へ
「死ね!死んで、私の糧となれェェェッ!!」
地下空間を埋め尽くす「寄生根」が、無数の槍となって襲いかかる。
グリードはもはや人の形を留めていなかった。
星の地脈に寄生し、無限のエネルギーを吸い上げ続ける、醜悪な癌細胞。
いくらシスターズが根を焼き払っても、傷口からさらに太い根が再生し、肥大化していく。
「チッ、しぶといな!さすがは星を食う『親』だ!」
アルトは強化鈍器で根を弾き飛ばしながら、舌打ちした。
こちらの攻撃力は足りている。だが、相手の回復力(供給量)が異常すぎるのだ。
星そのものをバッテリーにしているようなものだ。
「無駄だ!私は不滅だ!この星が死ぬまで、私は何度でも蘇る!」
グリードの高笑いが響く。
絶望的な持久戦。
だが、その時、後方で戦況を分析していたメサイア(元教皇)が叫んだ。
「いや、不滅ではない!……見ろ、根の脈動を!」
メサイアは古代端末を操作し、ホログラムを展開した。
「奴の再生能力は、中心にある『核』からのエネルギー供給に依存している。……そこを断てば、無限再生は止まるはずだ!」
彼の指差す先。
膨大な根の中心、グリードの融合体の奥深くに、一際強く脈打つ「核」が見えた。
地上のエネルギーが集まる結節点。あそこが、無限再生のポンプだ。
「でかしたぞ顧問!……在庫を抱えすぎた企業がどうなるか、教えてやるよ!」
アルトの号令が、戦場に轟く。
「総員、連結攻撃だ!!ラビ!先陣を切れ!奴の『時間』ごと動きを止めろ!」
「……ん。任せて」
瓦礫の陰から、銀色の影が飛び出した。
ラビだ。
彼女は重力ハンマー(杵)を振りかぶり、グリードの本体――再生核の直上に向かって、全力で叩きつけた。
「――ぺったん(重力プレス)ッ!!」
ズドォォォォォォン!!!
空間が歪むほどの重圧。
無限に再生しようとしていた根が、見えない鎖に縛られたように動きを止める。
再生能力ごと、時間を押し潰す一撃。
「ぐぉっ!?う、動けん!?」
「今だセレーネ!『装甲(守備力)』を剥がせ!」
続いて、月光蛾に乗ったセレーネが舞う。
撒き散らされたナノマシンの鱗粉が、グリードの硬質な樹皮に付着し、分子レベルで分解していく。
「ふふっ!私の推し(世界)を汚した罪、万死に値するぞ!」
パリパリパリッ……!
グリードの防御力が、紙のように薄くなる。
だが、それでもグリードはまだ動こうとしていた。
「ま、まだだ……!私はCEOだぞ!こんなところで……!」
「往生際が悪いぞ、元社長」
その時、瓦礫の影から、もう一つの影が飛び出した。
巨大な魔獣、ケルベロスだ。
その背中には、アルトが救出した「ポチ」の意識が宿っている。
「グルルルルッ……!」
ポチは、かつて自分を改造し、自爆装置として使い捨てようとした飼い主に向かって、牙を剥いた。
「ポ、ポチ!?貴様、私に歯向かう気か!?」
「ガァァッ!!」
ポチが飛びかかる。
その牙が、露出した再生核の根元に深く食い込んだ。
「ギャアアアアッ!?」
物理的な拘束。そして、飼い犬に手を噛まれるという、因果応報の劇痛。
ポチの噛みつきにより、核へのエネルギー供給ラインが完全に断たれた。
「よくやったポチ!仕上げだセレス!『光』を叩き込め!」
「はいっ!……悪しき穢れよ、消えなさいッ!!」
セレスが杖を突き出す。
彼女の全身から放たれた極大の浄化光が、グリードの核を焼き焦がし、再生能力を完全に焼き切った。
「再生停止!核、完全露出しました!」
メサイアが叫ぶ。
千載一遇の好機。
「しつこいぜ、悪徳社長。……これがトドメの『決算(監査)』だ!」
アルトは、上空の要塞へ向かって叫んだ。
照準は、露出した再生核、一点のみ。
「ヴォイド!……『捕食』の時間だ!!」
『――ゲプッ。……オナカイッパイ……』
要塞のスピーカーから、ヴォイドの拒絶の声が響く。
だが、アルトはニヤリと笑った。
「安心しろ。……今度のメシは『別腹』だぞ!」
『……ベツバラ?……ッ!美味シソウ!!』
ヴォイドの声色が変わる。
高純度のエネルギー塊である「親の核」。それは幼体にとって、満腹でも食べたくなる極上のデザートだった。
『パパ、タベル!ゼンブ、タベル!!』
要塞の主砲が変形する。
それは砲身ではなく、巨大な「顎」のような形状へと展開した。
凝縮されるのは、ヴォイドエンジンの全出力。
星を食う怪物の力を、「消化酵素」としてビーム状に圧縮した、捕食光線。
カッ!!!!
光の奔流が、地下遺跡の天井を貫き、グリードの核へと降り注ぐ。
「な、なんだこの光は……!?熱くない、なのに……体が、食われていくぅぅぅ!?」
グリードが絶叫する。
それは破壊ではない。「消化」だ。
彼を取り込んでいた親ヴォイドの細胞ごと、空間そのものが咀嚼され、胃袋(虚数空間)へと飲み込まれていく。
ジュルルルルッ……!!
「い、嫌だ!私は神に……星に……!」
「お前はもう『経営者』じゃねえ。……ただの『栄養分』だ」
アルトは冷酷に告げた。
「ば、バカな……!私の資産価値が……私の効率化が……!ただの餌だとぉぉぉ!?」
ズオォォォォォォッ!!!
光が収束する。
グリードの断末魔は、ヴォイド(子)の無邪気な「ごちそうさま」の声にかき消された。
本社ビルごと、地下の根ごと。
星を蝕んでいた癌細胞は、再生する間もなく跡形もなく消滅(完食)した。
「……ふぅ。業務終了だな」
アルトは噴き上がる蒸気の中で、武器を下ろした。
圧倒的な勝利。
競合他社は物理的に倒産し、アルト商会がこの星の最大勢力となった瞬間だった。
だが。
ゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
勝利の余韻に浸る間もなく、地面が激しく揺れ始めた。
先ほどまでとは比較にならない、星全体が悲鳴を上げているような揺れ。
「な、なんだ!?まだ敵がいるのか!?」
「違います社長!……地脈の数値が、異常上昇しています!」
セレスが顔面蒼白でモニターを覗き込む。
「グリードが無理やり吸い上げていたエネルギーが、彼がいなくなったことで逆流しています!このままだと……!」
地下の裂け目から、制御不能になった「星の血液(マグマと魔力)」が噴き出し始めた。
病巣を急激に切除したショックで、星の心臓が発作(ショック状態)を起こしたのだ。
「……クソッ。癌を取ったら、患者がショック死しそうってか」
アルトは舌打ちした。
敵は倒した。だが、星の寿命が尽きるカウントダウンは止まるどころか、加速してしまった。
「警報!星核の臨界まで、あと30分!」
崩壊する遺跡の中で、アルトは空を見上げた。
そこには、まだ希望(要塞)が浮いている。
「……上等だ。ここからは『時間』との勝負だぞ」
彼は叫んだ。
「総員、緊急オペを開始する!……この星を、無理やり『蘇生』させるぞ!!」
企業戦争は終わった。
ここからは、星の命運を賭けた、最後にして最大の「大工事」が始まる。




