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機動要塞の聖女さま~魔力暴走で廃棄された私、魔導工学の天才に「電池」として再就職しました。~  作者: 朔夜
第3章 空中都市と空飛ぶ請求書

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契約不履行は、即時撤退(見殺し)です


「総員、害虫駆除(クレーム対応)だ!!……徹底的にやるぞ!!」


アルトの号令と共に、月面戦争を生き抜いた最強の社員たちが、ネオ・サンクチュアリ社の私兵団へ襲いかかった。


「ぺったん!」


ラビが跳躍する。

重力制御で質量を増大させた巨大な杵が、グリードの親衛隊であるパワードスーツ部隊を、アルミ缶のように叩き潰す。

中身(人間)は殺さないよう手加減しているが、高価なスーツは一撃でスクラップだ。


『オ掃除、オ掃除!汚染源ヲ排除シマス!』


SDシスターズがチェーンソーを振るうたびに、自慢の最新鋭警備ドローンが花火のように爆散する。

圧倒的な性能差。

月面技術オーバーテクノロジーで武装したアルト商会にとって、地上の兵器など「型落ちのおもちゃ」に過ぎない。


「な、なんだこいつらは!?化け物か!?」


グリードが悲鳴を上げる。

流れ弾一発で、自慢の黄金スーツの「絶対結界」に亀裂が走る。

月面でヴォイドと殴り合ったアルトたちの火力に、地上のシールドが耐えられるはずもない。


「くっ……!役立たず共め!やれ!ケルベロス!そいつらを食い殺せ!」


彼は、最後の頼みの綱である改造魔獣に命令を下した。

ポチの成れの果て、ケルベロスが咆哮し、セレスに向かって飛びかかる。


「ポチ……ッ!」


セレスの足が止まる。

かつて愛した家族に、攻撃魔法を撃つことなどできない。


「グルルァァァッ!!」


魔獣の牙が、セレスの喉元に迫る。

だが。


ガギィィィンッ!!


その顎を、横から伸びた「強化鈍器(元・鉄パイプ)」が受け止めていた。


「……悪いな、ワンちゃん。飼い主がクソだと苦労するな」


アルトだ。

彼は強化外骨格の出力だけで、体長5メートルの魔獣を押し留めている。

パイプに巻かれたコイルが唸り、魔獣の牙と激しく火花を散らす。


「伏せろッ!!」


ドゴォォッ!!


アルトが鈍器を振り抜き、ケルベロスを横殴りに吹き飛ばした。

キャンッ!

悲痛な鳴き声を上げて、魔獣が瓦礫の山に突っ込む。


「ひっ……!?」


グリードが後ずさる。

勝てない。暴力の桁が違う。

このままでは、自分が「害虫」として駆除される。


「……野蛮人どもめ。よかろう、契約解除だ」


グリードは、懐からリモコンを取り出し、歪んだ笑みを浮かべた。

彼の目から、戦意が消え、冷徹な計算の色が浮かぶ。


「金にならない客(街)も、手に負えないクレーマー(貴様ら)も、まとめて『損切り(カットロス)』させていただきます」


ポチッ。


彼がスイッチを押した瞬間。

街の四方に設置された「結界塔」が、変形し、どす黒い煙を噴き上げた。


ブシュウウウウウウッ!!!


それは今までとは比較にならない濃度の「超・誘引フェロモン」だった。

風に乗って、死の匂いが周囲の荒野へ拡散していく。


「なっ……!?お前、何をした!?」

「集客ですよ。……この街の全方位から、S級魔獣の群れ(スタンピード)をご招待しました」


グリードの背中のスラスターが点火する。

彼は一気に空へと舞い上がった。


「私は撤退します。……金のない街を守る義理はありませんからね」

「逃がすかよッ!シスターズ、撃ち落とせ!」


アルトが叫ぶ。

シスターズが一斉にレーザーを構える。

だが、グリードは空中でリモコンを操作し、残忍に告げた。


「おっと、無駄ですよ。……私の『盾』をお忘れなく」


ピピッ。


彼がコマンドを入力した瞬間。

瓦礫の中で倒れていたケルベロス(ポチ)の「赤い首輪」が、太陽のように眩く発光し始めた。

同時に、魔獣の体内に埋め込まれた魔石炉心が臨界点を超え、凄まじい熱量を放出し始める。


「――自爆モード、起動」


カッ!!!!


強烈な熱源反応と魔力波が、アルトたちのセンサーを焼き尽くす。

ロックオンが外れ、レーザーの照準がブレる。


『警告!高熱源体、至近距離!センサー飽和ホワイトアウト!』

『熱量増大!……小型核弾頭クラスデス!』


「なっ……!?ポチを『デコイ(囮)』にしたのか!?」


アルトが歯噛みする。

グリードは、ポチの自爆エネルギーを「チャフ」として利用し、自身の逃走ルートを隠蔽したのだ。

今撃てば、誘爆して街ごと吹き飛ぶ。手が出せない。


「プレゼントですよ、聖女様。……貴女が愛した駄犬と共に、この汚いスラムごと消し飛びなさい!」


高笑いと共に、グリードは黒い霧の彼方へと飛び去っていった。


「あ……あぁ……」


残されたのは、絶望だけ。

街の外からは、フェロモンに呼び寄せられた数千の魔獣の地響きが、津波のように迫ってくる。

そして目の前では、愛するポチが、灼熱の爆弾となって今にも破裂しようとしている。


「ポチ……!嫌っ、死なないで!」


セレスが叫び、走り出した。

熱波で髪が焦げるのも構わず、膨張するポチの元へ飛び込もうとする。


「離して!あの子を助けなきゃ!」

「馬鹿野郎!死ぬ気か!」


アルトが後ろからセレスの腰を掴み、強引に引き止める。

強化外骨格の腕力でなければ、振りほどかれていただろう。それほどまでに彼女は必死だった。


「だって……!私のせいで……!解除コードを!彼を逃がさないでよぉぉ!!」


セレスがアルトの腕の中で泣き叫び、暴れる。

その悲痛な声が、広場に響き渡る。

爆発まで、あと数分。解除コードはグリードしか知らない。


「お、終わりだ……!街が、終わる……!」


市長が腰を抜かし、神官たちが祈り始める。

誰もが死を覚悟した。

だが。

その絶望の中心で、ただ一人、暴れるセレスを抱えながら、ため息をついている男がいた。


「……やれやれ。とことん三流だな、あいつは」


アルトだ。

彼は焦る様子もなく、セレスをなだめながら、膨れ上がる魔獣(爆弾)の前に歩み出た。

そして、市長の方を振り返り、冷たく言い放った。


「おい、市長」

「ひっ……!助けてくれ、頼む!」

「あいつは『契約不履行デフォルト』を起こして逃げた。……つまり、この街の防衛契約は白紙だ」


アルトはポケットから一枚の「硬貨コイン」を取り出し、親指でピンと弾いた。


キィン……。


黄金の輝きが、空中で回転する。


「今、この街の『価値』はマイナスだ。放っておけば数分で地図から消える不良債権だ。……だが」


彼は、迫りくる魔獣の群れと、目の前の自爆魔獣を指差した。


「俺が買い取ってやるよ。……『ワンコイン(1G)』でな」


外では魔獣の咆哮。内では爆発のカウントダウン。

究極の極限状態で行われる、史上最安値のM&A。


「選べ。……このまま『誇り高い死体』になるか、俺に全てを売って『惨めな生存者』になるか」


アルトの目が、悪魔のように、あるいは慈悲深い神のように細められた。

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