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機動要塞の聖女さま~魔力暴走で廃棄された私、魔導工学の天才に「電池」として再就職しました。~  作者: 朔夜
第3章 空中都市と空飛ぶ請求書

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偽救世主は、マッチポンプの詐欺師です


黄金の聖女像が粉砕され、中から泥と小銭がぶちまけられたアーク・ロイヤル中央広場。

その喧騒を切り裂くように、上空から派手なファンファーレが鳴り響いた。


パパラパッパパー!!


「おやおや、困りますねえ。私の大切な『集金箱アート』を壊すなんて」


空から降りてきたのは、全身を金色の装甲で覆った、悪趣味なパワードスーツだった。

背中には無駄に大きなスラスター。胸には「NeoSanctuary」の社章が輝いている。

そのスーツの周囲には、蜂の巣状の「光の結界シールド」が常時展開されており、瓦礫の埃ひとつ寄せ付けていない。


「私はこの街の守護者、ネオ・サンクチュアリ社CEOの『グリード』です。……野蛮なテロリストの諸君、損害賠償を請求しても?」


グリード。この街を支配し、魔獣から守る(という名目で搾取する)新興企業の社長。

彼が堂々と前線に降りてきたのは、蛮勇からではない。その身に纏う、鉄壁の防御への絶対的な自信ゆえだ。


「……テロリストか。おたくの警備員よりはマシなつもりだがな」


アルトは、肩に担いだ武器を鳴らした。

それはただの鉄パイプではない。月面での激戦を経て、アダマンタイトの破片で補強され、高圧電流のコイルが巻き付けられた、凶悪な「強化鈍器(元・鉄パイプ)」だ。

バチチッ……と散る火花が、彼の苛立ちを表している。


「嘆かわしい。愚民どもに『信仰』という安らぎを与え、その対価として小銭を頂く。……これぞ完璧な循環型ビジネスモデルではありませんか。それを暴力で壊すとは、野蛮極まりない」

「中身のない信仰を売りつけるのは、ビジネスじゃねえ。詐欺だ」


アルトが吐き捨てる。だが、グリードは余裕の笑みを崩さない。


「言葉が過ぎますね。……まあいいでしょう。私の『効率化』の成果をお見せしましょう」


グリードが指を鳴らす。

すると、彼の背後の空間が歪み、鎖に繋がれた巨大な「魔獣」が姿を現した。

転送されてきたのは、体長5メートルの巨獣。狼のような姿をしているが、その体は継ぎ接ぎだらけで、あちこちに機械が埋め込まれている。

三つの首を持ち、目は白濁し、口からは絶えず涎を垂らしていた。


「紹介しましょう。私の忠実なペット、『ケルベロス』です」


グルルルル……ッ。


魔獣が低い唸り声を上げる。

その姿を見た瞬間、セレスが息を呑む。


「……嘘」


彼女の視線は、魔獣の真ん中の首元に食い込んだ、古びた「赤い首輪」に釘付けになっていた。

それは、機械部品ではない。手編みの、粗末な首輪。

巨大化した肉体にはサイズが合わず、皮膚に深くめり込み、血が滲んでいる。


「ポチ……?あなた、ポチなの……?」


セレスの声が震える。

かつて、この街の修道院にいた頃、ゴミ捨て場で雨宿りを共にし、彼女がこっそり餌をあげていた野良犬。

痩せっぽちで、弱くて、でもセレスにだけは尻尾を振ってくれた、小さな命。


「おや?ご存知でしたか」


グリードが愉しげに笑う。


「ええ、素材はこの街で拾った駄犬です。魔獣の細胞を移植し、脳に制御チップを埋め込んで、最強の兵器にアップグレードしてあげましたよ。……どうです?素晴らしい『資産価値』でしょう?」


魔改造。

小さな命を弄び、理性を奪い、殺戮兵器に作り変える。

それを「アップグレード」と呼ぶ神経。


「……ッ」


セレスが俯く。

ポロポロと、大粒の涙がこぼれ落ちる。

だが、その手はドレスの裾を強く握りしめ、白くなっていた。


「……どうして、こんなことを」

「効率化ですよ、お嬢さん。野垂れ死ぬ運命だった畜生に、『兵器』としての役割を与えてやった。これぞSDGs(持続可能な開発目標)だ」


グリードは悪びれもせず、両手を広げた。


「ゴミ(野良犬)を拾って、価値ある商品(兵器)に変える。……君たちの社長も似たようなことをしているだろう?私たちは同類だよ!」

「……」


その言葉を聞いた瞬間。

セレスの涙が、ピタリと止まった。

彼女はゆっくりと顔を上げた。

その瞳には、慈悲も、悲しみも、迷いもない。

あるのは、底冷えするような「業務的殺意」だけだった。


ブゥゥゥゥゥゥン……!!


彼女のドレスが、感情に呼応して赤熱し、周囲の空気が歪むほどの魔力を放ち始める。


「……グリード社長」


セレスの声が、鈴を転がすように美しく、そして絶対零度のように冷たく響いた。


「貴方の『効率化』は、美しくありません」

「あ?」

「ゴミを宝に変えるのは『メンテナンス』です。貴方がやったのは、ただの『破壊』です」


セレスは、聖女の微笑みを浮かべたまま、スッと右手をかざした。

そこには、圧縮された重力魔法の輝きが収束していく。


「貴方の存在は、この星にとって無駄なスペース(デッドスペース)です。……これ以上の非効率は見過ごせません」


彼女は、小首をかしげて提案した。


「物理的に圧縮プレスして、体積を効率化して差し上げましょうか?」

「な……ッ!?」

「えっと、社長がよく仰っていましたね。こういう時は……そう」


セレスは、無邪気な笑顔で、アルトから教わった(と信じている)最強の魔法の言葉を唱えた。


「『ZIP形式(高圧縮)』で参りますね♪」

「……は?」


グリードが、そしてアルトが同時に固まる。

ZIP形式。

それはデジタルデータの圧縮方式。物理的な人間に対して使う言葉ではない。

だが、セレスは「すごく小さくする魔法の言葉」として完全に誤用し、しかも完璧に実行しようとしていた。


「おいセレス!?お前、どこでそんな言葉を……!」

「社長の独り言です!『あー、この荷物ZIPで送れねえかなー』って!……私、勉強しました!」


キラキラした目で報告するセレス。

アルトは頭を抱えた。


「(育て方を間違えたか……?いや、間違えたな……!)」


だが、もう止まらない。

セレスの重力波が、グリードの黄金スーツをミシミシと圧迫し始める。


「ひぃっ!?く、来るな!化け物め!」

「さあ、圧縮(ZIP)の時間ですよ?解凍できないくらい小さくしてあげますね♪」


グリードが悲鳴を上げる。

自慢の「絶対結界」に亀裂が走り、スーツがひしゃげていく。


「くっ……!役立たず共め!やれ!ケルベロス!そいつらを食い殺せ!」


彼は、最後の頼みの綱である改造魔獣に命令を下した。

ポチの成れの果て、ケルベロスが咆哮し、セレスに向かって飛びかかる。


「総員、害虫駆除(クレーム対応)だ!!……徹底的にやるぞ!!」


アルトの号令と共に、月面戦争を生き抜いた最強の社員たちが、ネオ・サンクチュアリ社の私兵団へ襲いかかった。

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