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機動要塞の聖女さま~魔力暴走で廃棄された私、魔導工学の天才に「電池」として再就職しました。~  作者: 朔夜
第3章 空中都市と空飛ぶ請求書

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故郷の街は、不良債権の山です


要塞都市アーク・ロイヤル。

かつては大陸有数の魔導都市として栄え、セレスが聖女として祈りを捧げていた場所。

だが、数年ぶりに足を踏み入れたその街は、見る影もなく腐敗していた。


「……臭いな」


アルトが鼻をつまむ。

城門は半壊し、補修もされずに放置されている。通りには汚水が溢れ、魔素中毒に侵された人々が路地裏でうずくまっていた。

街全体を覆う「黒い霧」が、陽の光を遮り、正午だというのに薄暗い。


「ここが、私の故郷……?」


セレスが呆然と呟く。

彼女の記憶にある、花と光に溢れた街はどこにもない。あるのは、死を待つだけのスラム街だ。

ふと、セレスが足を止めた。

視線の先には、崩れかけたレンガ造りの建物の隙間――薄汚い瓦礫の山があった。


「あそこ……」

「ん?何かあるのか?」

「昔、雨宿りをした場所です。……唯一の友達だった野良犬の『ポチ』と一緒に」


セレスは懐かしむように、だが痛ましげに目を細めた。

誰からも必要とされず、石を投げられていた日々。

そんな中で、唯一尻尾を振ってくれた痩せっぽちの犬と、身を寄せ合って震えていた場所。


「このペンダントも、その時に瓦礫の中から見つけたんです」


彼女は胸元から、安っぽい青いガラス玉のついたペンダントを取り出し、ギュッと握りしめた。


「周りの人は『ただのゴミだ』って笑いました。……でも、私とあの子にとっては、これが唯一の宝物だったんです」


ゴミの中に輝く、小さな青。

それが、彼女の心の支えだった。


「……そうか」


アルトは短く答え、彼女の頭をポンと叩いた。


「大事に持っておけ。……ゴミの中にこそ、値千金の『レアメタル』が眠ってるもんだ」


その時。

路地の奥から、武装した男たちが現れ、二人の前を塞いだ。

胸には「NeoSanctuary」のロゴが入った真新しい軍服。

街の警備を請け負う民間軍事会社――というよりは、ただのゴロツキだ。


「見ない顔だな。……おい、そこの男。いい装備を持ってるじゃねえか」


リーダー格の男が、アルトが腰に下げている「黄金のバックル(月面で拾ったガラクタ)」と、セレスの「ドレス」を値踏みするように見た。


「通行料だ。所持金を全部置いていけ。さもなくば、その女を『聖女様の生贄』として没収するぞ」

「……やれやれ。どいつもこいつも、強盗しか能がねえのか」


アルトはため息をついた。

男が銃に手をかけた瞬間、アルトが動いた。


ブォンッ!


鉄パイプが一閃。

男たちが反応する間もなく、全員が路地のゴミ捨て場まで吹き飛ばされた。


「ガッ……!?な、なんだコイツ……!?」

「無線だ!本部に連絡しろ!ヤバいのが来たぞ!」


吹き飛ばされた男の一人が、慌てて通信機を掴む。

腐っても傭兵だ。タダモノではないことを察知し、即座に増援を呼ぼうとする程度の知能はあるらしい。


「させるかよ」


ヒュンッ。


どこからともなく飛来した小さな「ドリル」が、通信機を貫いて粉砕した。

姿は見えない。だが、ステルス迷彩を展開したSDシスターズが、常に周囲を警戒している。


「雑魚に構ってる暇はねえ。……行くぞセレス。まずは『現状確認デューデリジェンス』だ」


アルトは怯えるゴロツキたちを無視し、街の中心部へ歩を進める。

かつて大聖堂があった広場へ。

そこには、異様な光景が広がっていた。


広場の中央。

ボロボロの市民たちが、一つの「巨大な像」に向かってひれ伏し、祈っている。

それは、黄金に輝く、高さ10メートルはある「聖女の像」だった。

だが。


「……誰ですか、あれ?」


セレスが真顔で尋ねた。

その像は、確かに聖女の服を着ている。

だが、その顔は不自然なほど美化され、ポーズは媚びるように腰をくねらせ、何より――


「胸が、デカすぎる」


アルトが冷静に指摘した。

実物のセレスとは似ても似つかない、メロンのような豊満すぎるバスト。

露出の高いスリットの入ったスカート。

それは「聖女」というより、安っぽい「グラビアアイドル」のフィギュアだった。


「私の胸は、あんなに……あんなに……っ!」

「言うな。虚しいだけだ」


さらに悪趣味なのは、その像の足元だ。

巨大な「集金箱」が設置されており、そこにはこう書かれている。


【祈祷料:一回1,000ゴールド】

【※お布施の額に応じて、聖女様のご加護(魔獣除け)が得られます】


「金がないなら血を売れ!聖女様のために尽くせ!」


神官服を着た男が、痩せこけた市民を鞭で打っている。

市民たちは泣きながら、なけなしの金や、自分の血を売った金を箱に入れている。


「……なるほどな」


アルトの目が、冷たく光った。


「お前を『無能』と罵って追放したくせに、いなくなったら『伝説の聖女』として神格化し、金儲けの道具にする。……随分といいご身分じゃねえか」


マッチポンプ。死体蹴り。肖像権の侵害。

商売人として、これほど不快なビジネスモデルはない。


「許せません……」


セレスの手が震える。

怒りで、ドレスが赤く発光し始める。


「不敬な奴らめ!さっさと寄付をしないか!さもなくば『ネオ・サンクチュアリ』の兵士を呼ぶぞ!」


神官が、アルトたちに気づいて喚き散らす。

彼の手には、怪しげな紫色の「アンプル」が握られていた。

祈祷を終えた市民に配っているそれからは、甘ったるい麻薬の匂いがする。

信仰だけでなく、薬物で思考を奪っている証拠だ。


「おい、神官。……市長を呼べ」

「はあ?なぜ市長が貴様ごときに……」

「『商談』だと言ってるんだよ」


アルトは、神官の顔面に書類(先ほど作成したばかりの債権回収通知書)を叩きつけた。


「この街はもう終わってる。資産価値ゼロ。負債まみれのゴミ溜めだ。……だから、俺が『処分』してやる」


彼は、黄金の悪趣味な像を、鉄パイプでコンコンと叩いた。

軽い音がした。中身が詰まっていない音だ。


「まずは、この『違法コピー商品パチモン』の撤去からだな」


ガッ!!!


アルトが鉄パイプを突き立てる。

黄金の像に亀裂が走る。

パリパリと音を立てて剥がれ落ちたのは、薄っぺらい金箔だった。

その下から現れたのは、ただの黒い泥と――


ジャラジャラジャラ……ッ!


大量の「小銭」と、無数の「空のアンプル」と、「ヘドロ」だった。

像の中は空洞で、上部の賽銭投入口から入った金と、裏取引の証拠品(薬物の容器)、そして重り代わりの産業廃棄物が、泥と一緒に溜め込まれていたのだ。

溢れ出す汚れた金貨、薬瓶、そして腐った泥。

それが、彼らの信仰の「中身」だった。


「あ、あわわわ……!バチが当たるぞ!衛兵!殺せ!この罰当たりを殺せ!」


神官が絶叫する。

周囲から、武装した兵士たちが殺到してくる。

だが、アルトは動かない。


「バチが当たるのは、どっちかな?」


ヒュン、ヒュン、ヒュン!


空間が歪んだ。

アルトたちの周囲で「光学迷彩」が解除され、武装したSDシスターズと、杵を構えたラビ、そして月光蛾に乗ったセレーネが一斉に姿を現した。


「なっ……!?い、いつの間に!?」


神官が腰を抜かす。

その中心で、セレスが一歩前に出る。

全身から、本物の「聖なる光(高出力魔力)」が溢れ出した。

周囲の黒い霧が、一瞬で晴れていく。

像に仕込まれていた「認識阻害の結界」が破壊され、市民たちの目が覚める。

彼らは見た。

泥にまみれた偽物の像ではなく、光り輝く本物の聖女の姿を。


「あ……あれは……?」

「セレス様……?本物の、セレス様だ……!」


ざわめきが広がる。

セレスは、かつての信者たちを一瞥もしない。

彼女は冷徹な瞳で、腰を抜かした神官を見下ろした。


「市長に伝えてください」


彼女は、かつて捨てられた故郷に、明確な意志を持って告げた。


「『本物』が、集金(回収)に来ました、と」

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