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機動要塞の聖女さま~魔力暴走で廃棄された私、魔導工学の天才に「電池」として再就職しました。~  作者: 朔夜
第3章 空中都市と空飛ぶ請求書

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地球への帰還は、侵略者の顔で


ゴオオオオオオオオオオッ……!!!!


大気が悲鳴を上げていた。

成層圏を突き破り、燃え盛る流星となって落下してくるのは、かつて天空都市と呼ばれた超巨大質量――「対惑星攻略要塞アルト・アガルタ」。

その前面には、月面で解体した神殿船「ネフィリム」の残骸が、即席の「耐熱シールド」として張り付けられている。


数千度の摩擦熱で装甲がドロドロに溶け落ちる中、ブリッジでアルトは眼下に広がる故郷の姿を見下ろしていた。


「……酷いもんだな」


かつて青かった星は、今やドス黒い「魔素の霧」に覆われていた。

大地はひび割れ、海は濁り、文明の灯火は風前の灯火だ。

星の寿命が尽きかけ、免疫不全(魔獣の大量発生)を起こしている末期の姿。


「これじゃあ、査定額(資産価値)はマイナスだぞ」

「社長。着陸地点、予測コースに入りました」


副社長席で、セレスがモニターを睨む。

映し出されたのは、霧の隙間にかろうじて残る人類の拠点――要塞都市「アーク・ロイヤル」。

そこは、かつて彼女が「無能」と罵られ、石を投げられ、捨てられた故郷。


「……変わり果ててしまいましたね」


セレスの声が震える。

かつての美しい石造りの街並みは崩れ、スラムのようなバラックがへばりついている。

彼女は、ドレスの裾をギュッと握りしめた。

悲しみではない。かつて守れなかったものへの、今度こそ守り抜くという「覚悟」が、その瞳に宿る。


「泣いてる暇はねえぞ、セレス。……手荒い歓迎が来る」


アルトの警告と同時に、地上のネオ・サンクチュアリ社防衛部隊が動いた。


『対空防衛システム、起動!迎撃ミサイル、全弾発射!』

『さらに「都市防衛用・絶対障壁イージス・フィールド」展開!隕石だろうと防ぎ切る!』


地上の司令官が絶叫する。

雨あられと降り注ぐミサイルの豪雨。そして、着地点の基地上空には、蜂の巣状の光り輝く「多重結界」が展開された。

物理攻撃も魔法も通さない、鉄壁の守り。


「防ぐ?……ハッ、食い破るんだよ!」


アルトは嘲笑い、コンソールの「給餌ボタン」を叩き込んだ。


「ヴォイド!『おやつ』の時間だ!全部食っちまえ!」

『――Zzz……。パパ、オナカイッパイ……ネル……』


スピーカーから、ヴォイドの寝息が聞こえてくる。

月面からのワープで全エネルギーを使い果たし、システムがスリープモード(消化中)に入っているのだ。

このままでは、ただの巨大なまととして撃墜される。


「寝てんじゃねえ!デザートは別腹だろォがッ!!」


アルトは操縦席の下にある「緊急用高電圧ケーブル」を引きちぎり、剥き出しの配線を炉心接続ポートに直接突き刺した。


「起きろクソガキ!!『電気ショック(目覚まし)』だ!!」


バチチチチチッ!!


『ギャッ!?ビリビリッ!?』


ヴォイドが悲鳴を上げ、反射的にシステムを再起動させる。

強制覚醒。驚きで開いた「捕食口」が、眼前に迫るミサイル群を捉える。


『ナ、ナニ!?虫ガ、イッパイ……!』

「虫じゃねえ、エサだ!食わなきゃ痛いぞ!」


ブォンッ……!


要塞の周囲に、青白い歪み――「ヴォイド・シールド(空間捕食盾)」が強制展開された。

いやいやながら開いた口が、ミサイル群に吸い付く。


ジュルッ、ジュルッ、バクッ。


「な、なんだ!?ミサイルが消えた!?」

「結界だ!我々のイージス・フィールドなら……!」


地上の司令官が叫ぶ。

だが、ヴォイド・シールドは止まらない。

ミサイルを飲み込んだ勢いのまま、基地上空に展開された「絶対障壁」へと食らいついた。


ガブリッ!!


空間を抉り取る咀嚼音。

鉄壁を誇った光の結界が、飴細工のように噛み砕かれ、ヴォイドの胃袋へと吸い込まれていく。


「ば、馬鹿な……!?結界が『食われた』だと!?」

「化け物だ……!防御不能!落ちてくるぞぉぉ!」


地上の防衛隊がパニックに陥る。

圧倒的な質量と、理不尽な捕食。

要塞は減速すらせず、防衛隊が展開する基地の真上へと、正確無比に降下していく。


「社長!障壁は食い破りました!このままでは激突します!逆噴射を!」

「ヴォイドはもう限界だ!エンジンが吹かせねえ!」

「えっ!?」

「なら、『物理』で曲げるまでだ!」


アルトは操縦桿を放し、緊急レバーを引いた。


「重力アンカー、右舷射出ッ!!」


ガシュンッ!!


要塞の側面から、巨大な鎖付きアンカーが射出され、地上の岩盤に突き刺さる。


ギリギリギリッ……!!


鎖が張り詰め、数億トンの質量が遠心力で強引に軌道を変える。

エンジンに頼らない、力技のドリフト。


「狙いは敵の司令部ビルだ!……ブレーキなんていらねえ、全重量で踏み潰せェェェッ!!」


ズドォォォォォォォォォン!!!!!


着陸。

いや、それは「脱皮」のような爆砕だった。

着地の衝撃で、外殻となっていたネフィリム号の残骸が粉々に砕け散り、周囲へ飛び散る。

その中から、無傷の漆黒の巨体が、生まれ変わった魔王のように姿を現した。


司令部ビルは、豆腐のように押し潰され、跡形もなく消滅していた。

爆風が周囲の魔獣ごと森を吹き飛ばし、巨大なクレーターを形成する。

もうもうと立ち込める土煙。

その中から、プシューッ……と蒸気を吹き出しながら、アルト・アガルタが鎮座していた。


ガコンッ。

ハッチが開く。

静まり返った戦場に、一人の男の声が響き渡った。


『――あー、テステス。……地上の皆様、こんにちは』


要塞の外部スピーカーから流れる、軽薄な声。

土煙が晴れ、タラップの上に立つ影が見える。

ガスマスクをつけ、鉄パイプを担いだ男。

その隣には、神々しいドレスを纏い、毅然と前を見据える聖女。

そして、凶悪な武装をしたメイド軍団。


「あ、あれは……?」

「人、間……?」


生き残った防衛隊の兵士たちが、瓦礫の隙間から震えながら銃を向ける。

アルトは彼らを見下ろし、足元の瓦礫(かつて司令部だったもの)を、愛用の安全靴でグリグリと踏みにじった。


『おっと、失礼。着陸スペースが狭くてな。……そこに「粗大ゴミ(お前らの基地)」があったんで、整地させてもらったぜ』


悪びれる様子など微塵もない。

彼は、破壊した敵の死骸を足場にして、高らかに宣言した。


『本日より、このエリアは「アルト商会」が接収しました。不法占拠していた「前の業者ネオ・サンクチュアリ」は、ただいま物理的に退去いただきましたのでご安心を』


それは、救済の言葉ではない。

一方的な「侵略者オーナー」の宣言。


「さて、セレス。……久しぶりの里帰りだ」


アルトは、遥か向こうに見える都市アーク・ロイヤルの城壁を睨みつけた。


「まずは『挨拶回り』といくか。……手土産(請求書)を持ってな」


セレスは、眼下に広がる荒野を見つめた。

ここには、自分を捨てた人々がいる。

そして何より――かつて心を通わせた、小さな命の記憶がある。


(……ポチ。今、帰るよ)


彼女は胸の中で、かつての友に呼びかけた。

そして顔を上げ、迷いのない瞳でアルトに頷いた。


「はい。……行きましょう、社長」

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