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機動要塞の聖女さま~魔力暴走で廃棄された私、魔導工学の天才に「電池」として再就職しました。~  作者: 朔夜
第3章 空中都市と空飛ぶ請求書

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決算報告、そして凱旋へ


「逃がすな!……俺たちの『翼』になれェェェッ!!」


アルトの絶叫と共に、ウインチが悲鳴を上げて巻き取られる。

無数のアンカーに捕らえられた星喰いヴォイドの巨体が、ズルズルと要塞の底部――特設された「生体炉心格納庫」へと引きずり込まれていく。


ギャオオオオオッ……!!


怪物が抵抗するたびに、月面の大地が砕け、要塞が軋む。

だが、ラビの重力プレスと、セレーネの分解鱗粉、そしてセレスの祈りによる拘束は、神話級の怪物を確実に追い詰めていた。


ガコンッ!!


ついに、ヴォイドの全身が格納庫に収まり、装甲ハッチが閉鎖された。

捕獲成功。

だが、本当の闘いはここからだった。


「急げ!接続コネクトだ!回路が焼き切れる前に同調させろ!」


アルトがコンソールを叩きまくる。

格納庫内では、暴れるヴォイドに対し、無数の接続プラグが突き刺さろうとしていた。

だが、モニターには無情なエラーメッセージが並ぶ。


『エラー!生体波長、不一致!』

『言語プロトコル、解読不能!……リンクできません!』


「クソッ、やっぱりか!言語が違いすぎる!」


相手は宇宙から来た珪素生命体だ。地球人の魔導規格(OS)で制御できるはずがない。

無理に接続すれば、逆流したエネルギーで要塞ごと自爆する。


「社長!『ベリアルの義眼』を使っても、解析が追いつきません!感情が……ノイズが大きすぎます!」


シスター・ワンが悲鳴を上げる。

義眼の演算能力をもってしても、宇宙怪獣の思考はカオスすぎて翻訳できないのだ。

ただ「暴れたい」「寂しい」「腹減った」という原始的な衝動が、膨大なデータ量となって押し寄せてくる。


「……ッ、ここまで来て、言葉が通じねえってか!」


万事休すか。

その時、セレスが動いた。


「私が……やります」


彼女は操縦席を飛び出し、格納庫へのメンテナンスハッチを開けた。


「おい待てセレス!中は高濃度の魔力汚染区域だぞ!?」

「言葉が通じないなら……『心』を読みます!」


セレスは止まらなかった。

彼女は格納庫のキャットウォークを走り、暴れるヴォイドの頭上へと躍り出た。

そして、躊躇なくそのクリスタルの表皮に、素手で触れた。


「(聞こえますか……?あなたの声を、聞かせて)」


ビシッ!


接触した瞬間、セレスの脳内に、言葉にならない「感情の奔流」が流れ込んできた。

暗い宇宙を漂う孤独。

親にはぐれた不安。

そして、何もかもを喰らい尽くしたいほどの、強烈な飢餓感。


「(……っ、痛い……!寂しいのね……お腹が空いて、怖いのね……!)」


セレスは、その濁流のような感情を、聖女の魂で受け止めた。

拒絶せず、恐れず、ただ受け入れる。

そして、その「感情アナログ」を、彼女自身の魔力で「言語デジタル」へと変換し、義眼へと送信した。


「社長!今です!私が『通訳』します!義眼でデータを拾ってください!」


アルトは目を見開いた。

セレスが、人間と怪物の間を取り持つ「生体変換アダプタ」になったのだ。

聖女の共感能力と、科学の演算能力。

その二つが融合した、奇跡のハイブリッド翻訳。


「……よくやった、副社長!繋ぐぞッ!」


アルトは義眼をコンソールに直結させ、エンターキーを叩き込んだ。


『――生体反応、翻訳完了』

『感情データ、言語化シマス』


その瞬間。

要塞のメインモニターに、ノイズが走り――幼い子供のような文字が浮かび上がった。


【……ママ?……チガウ。ママ、イナイ】

【オウチ……カエリタイ……】


「……あ?」


スピーカーから聞こえてくるのは、ヴォイドの意識と統合された、たどたどしいナビ音声。

それは、世界を滅ぼす怪物の声ではなく、迷子の子供の泣き声だった。


「……へっ。やっぱりガキじゃねえか」


アルトは安堵の息を吐き、マイクを握った。


「よう、迷子。ママはいねえが、新しい『パパ(オーナー)』ならここにいるぞ」


【パパ……?】


「ああ。俺の言うことを聞けば、お家(地球)に帰してやる。……ついでに、腹一杯『ゴハン』も食わせてやるよ」


【……ゴハン!ゴハン、タベル!】


食欲。

その単語が出た瞬間、ヴォイドの敵意が消滅した。

システムがオールグリーンに変わる。

制御成功。

怪獣は今、アルト商会の「従順なエンジン」へと生まれ変わった。


ピピピピピッ!!


その時、通信機がけたたましい警報音を鳴らした。

地球からの、緊急SOS信号。


『……こちら、アーク・ロイヤル市長!誰か、誰か聞こえないか!』

『化け物が!地下から巨大な植物が……!街が飲まれる!助けてくれぇぇ!』


モニターに映し出されたのは、地獄絵図だった。

地球の地表が割れ、そこから無数の「黒い根」が噴出し、都市を侵食している。

グリードを取り込んだ「親ヴォイド」が、セレスの歌に呼応して完全覚醒し、食事(捕食)を始めたのだ。


「チッ……!間に合わなかったか!」

「社長!急ぎましょう!このままじゃ故郷が……!」


セレスが叫ぶ。

だが、月と地球の距離は38万キロ。

通常の航行では数日かかる。それでは手遅れだ。


「……やるしかねえな」


アルトは、覚悟を決めた目でモニターを見た。

そして、通信機で叫んだ。


「セレーネ!ラビ!倉庫にある『在庫』を全部持ってこい!……マスドライバーで送りきれてない分、全部だ!」

『なっ!?貴様、正気か!?アレは月面復興のための……』

「つべこべ言うな!地球がなくなれば『続編』も見れなくなるぞ!」


アルトは叫び返した。


「いいか、アガルタ(ガメル)に送った分は『老後の蓄え』として温存だ!……だが、今ここにある『手持ちの現金』は、全部このエンジンに突っ込むぞ!!これが俺たちの旅費だ!」


要塞の搬入口が開く。

そこへ、月面で稼ぎ出した残りの財産――「純度99.9%のミスリルインゴット」や「高純度魔石」の山が、雪崩のように投入された。

国家予算が霞むほどの、天文学的な資産。

それを、アルトは躊躇なく「ヴォイドの餌箱(燃料タンク)」へと放り込んだ。


「食え、ヴォイド!……全部やる!俺の財布を空にしてみろ!!」


ガリッ、ゴリッ、バキィッ!!


格納庫で、ヴォイドが歓喜の声を上げてミスリルを噛み砕く。

超高密度のエネルギーが炉心で炸裂し、出力ゲージが限界突破レッドゾーンを振り切る。


【エネルギー充填率、120%……200%……500%!!】


「すごい……!これなら、一瞬で地球まで跳べます!」


セレスが喜ぶ。

だが、シスター・ワンが、冷静かつ無慈悲な分析結果を告げた。


『警告デス、マスター。……ヴォイドの生理データを解析シマシタ』

「なんだ?」

『コイツ、食ベ過ギルト眠クナル仕様デス。……これだけの量ヲ食ベタラ、地球ニ到着シタ瞬間、消化ノタメニ「完全休眠モード」ニ入リマス』

「……は?」


アルトの動きが止まる。

休眠モード。つまり、エンジン停止。

地球に着いた瞬間、この要塞はただの鉄屑になり、エネルギー残量はゼロになる。


「つまり……帰りの燃料も、戦うためのエネルギーも、着いた時点で『スッカラカン』ってことか?」

肯定イエス。……残ルノハ、予備電源(残りカス)ノミデス』


絶望的なデバフ。

最強の状態で殴り込むはずが、着いた瞬間に最弱になるという罠。

普通なら、作戦中止だ。

だが。

アルトは――笑った。

清々しいほどに、馬鹿げた笑い声を上げた。


「ハッ、上等じゃねえか!!」


彼は操縦桿を握りしめ、前方の青い星を睨みつけた。


「行ってやるよ!……向こうに着いたら出力10%以下、所持金ゼロ!まごうことなき『背水の陣』だ!」


失うことを恐れていては、商売はできない。

全てを賭けて(ベットして)、勝って取り戻す。それがアルト商会の流儀だ。


「聞け、野郎ども!……これは『片道切符』だ!」


アルトの号令が、全艦に響き渡る。


「帰りの燃料なんざねえ!マスドライバーも人間は撃てねえ!……降りたら最後、勝つまで帰れねえぞ!それでも行くか!?」


『『『イエッサー!!』』』


シスターズが、ラビが、そしてセレーネが応える。

セレスが、隣で力強く頷く。


「行きましょう、社長。……私たちの『未来』を、買い戻しに!」


出発の直前。

アルトは外部スピーカーを開き、地上に残る者たちへ最後の指示を飛ばした。


『おいガンド!それに王宮の衛兵たち!……留守は任せたぞ!』

「ボ、ボス!?」

『我々がいない間、ガメル(工場長)がアガルタから遠隔指示を出す!……奴に従ってマスドライバーを撃ち続けろ!地球についても弾切れは許さんぞ!分かったなァッ!!』

「お、おう!任せろ!月中の岩を引っこ抜いてでも送ってやる!」


元マフィアのガンドたちが拳を突き上げる。

これで、補給線ライフラインは確保した。


「よし!……ヴォイド、全開フルパワーだ!地球までひとっ飛びだぞ!」

【アイアイサー!……オウチ、カエル!!】


ドォォォォォォォォォン!!!!!


要塞の底部から、青白い次元波動が噴出した。

重力が歪み、月面が遠ざかる。

視界いっぱいに広がる星の海。そして、その中心で待つ故郷。


ヒュオオオオオオオッ!!!!


閃光。

月軌道を離脱した巨大要塞は、流星となって地球へと墜ちていく。

全財産を燃やし、退路を断った、史上最大の「特攻ダイブ」。

それは、星を救うための、優しくて強欲な「侵略」の始まりだった。

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