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機動要塞の聖女さま~魔力暴走で廃棄された私、魔導工学の天才に「電池」として再就職しました。~  作者: 朔夜
第3章 空中都市と空飛ぶ請求書

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星喰い(ヴォイド)の孵化


月面王宮「ルナ・パレス」は、崩壊の最中にあった。

女王セレーネとの「解釈違い戦争」は、和解(という名のオタク仲間入り)によって幕を閉じた。

だが、その余韻に浸る間もなく、月全体を揺るがす異常事態が発生していた。


ズゴゴゴゴゴゴ……ッ!!


足元の床が、いや、月の大地そのものが、内側から悲鳴を上げている。

爆発の振動ではない。もっと深く、星の芯から湧き上がるような、重苦しい胎動。


「……ッ!?なんだ、この揺れは!?」


アルトが体勢を崩しかけ、鉄パイプを杖にして踏ん張る。

隣でへたり込んでいたセレーネが、青ざめた顔で床に耳を当てた。


「まさか……嘘だろ?早すぎる……!」

「おい新入り(支店長)。何が起きている?」

「『星喰い(ヴォイド)』だ……!我々の祖先が恐れ、地下深くに封印し続けた、滅びの神が目覚めようとしている!」


ドォォォォォォォォォン!!!!!


セレーネの言葉を証明するように、王宮の中庭が爆ぜた。

巨大なクレバスが走り、そこから「七色の光」が噴出する。

噴煙の中から、ゆっくりと、だが確実に、それは姿を現した。


美しくも、おぞましい姿。

半透明のクリスタル――いや、もっと不安定なものだ。

高密度のエネルギーが凝縮され、半流動体(スライム状)の白光を放ちながら、巨大な「根」のような触手がうねっている。

それは一本、また一本と、月面を突き破り、宇宙空間へと伸びていく。


【TargetID:VOID(StarEater)】

【Status:Awakening(孵化)】


「あ……あぁ……」


セレーネが、ガタガタと震えだした。

彼女の顔から、先ほどまでの熱狂が消え、絶望的な恐怖だけが残る。


「終わった……。奴は星のエネルギーを喰らい尽くすまで止まらない。……この月は、砕け散るぞ!」


ヴォォォォォォン……♪


その怪物は、鳴いた。

物理的な空気振動ではない。魔力波による、直接脳に響く歌声。

それは悲痛で、どこか切なく、聞く者の精神を削り取るような旋律だった。


「ひぃぃっ!『滅びの詩』だ!聞くな!魂が吸われるぞ!」


セレーネが耳を塞いでうずくまる。

だが。

アルトとセレスだけは、その歌を別の意味で捉えていた。


「……滅び?違います」


セレスが、不思議そうに空を見上げる。

彼女の目には、怪物の殺意は見えなかった。


「これは……『泣き声』です」

「ああ。……それも、迷子のガキが親を探すような声だ」


アルトは懐から「ベリアルの義眼」を取り出し、解析データを睨みつけた。

ヴォイドの触手は、無差別に暴れているのではない。

すべての先端が、ある一点――頭上に浮かぶ「青い星(地球)」だけを向いている。


「こいつ、腹が減ってるだけじゃねえ。『帰りたがってる』んだよ」


ヴォイドは、元々地球に寄生していた生命体だ。

かつて古代人が月へ逃げた際、その「卵(胞子)」が付着し、この不毛な大地で飢えながら孵化を待っていたのだろう。

セレスの歌(Ep.40)が地球まで届き、地下の「親」が覚醒したことに呼応して、こちらも目覚めたのだ。


「でも、どうして急に暴れ出したんでしょう?」

「腹が減ってるからだろ。……赤ん坊が泣き叫んでるのと一緒だ」


アルトは舌打ちし、セレスの肩を叩いた。


「それに、ちょうどいい」

「え?」

「俺たちは今、地球へ帰るための『強力なエンジン』を探していたところだろ?」


アルトは、暴れるヴォイドを指差した。


「あいつは地球に帰りたがってる。俺たちも地球に帰りたい。……利害は一致してるじゃねえか」


セレーネが顔を上げる。


「な、何を言っている……?まさか、あの怪物を……」

捕獲ゲットする。……要塞に直結して、ブースター代わりになってもらうぞ」


神を、エンジンにする。

その発想の冒涜的かつ合理的な飛躍に、古代人の常識が追いつかない。


「しょ、正気か!?あんなエネルギーの塊、触れただけで蒸発するぞ!それにどうやって捕まえる!」


ズゥゥゥン……!


ヴォイドの巨大な触手が、王宮の塔を薙ぎ払う。

触れた物質が、飴細工のようにねじ切れ、吸収されていく。

物理攻撃も魔法も通じない、宇宙的災厄。


だが、その時。

アルトの背後から、小さな影がゆらりと進み出た。

月兎族の用心棒、ラビだ。

彼女は愛用の巨大なきねを引きずりながら、うっとりとした目でヴォイドの触手を見つめていた。


「……ん。……すごい」


ラビが、口元からツーっと涎を垂らす。


「白い。……とろとろ。……すごく、よく伸びる」


彼女の目には、世界を滅ぼす怪物が映っていない。

映っているのは、半流動体で輝く、宇宙最大級の極上素材――「つきたてのお餅」だ。


「ちょ、ラビさん!?何を言ってるの!?」

「……つき甲斐が、ある」


ラビは聞く耳を持たない。

彼女は杵を構え、バーサーカーのように跳躍した。


「――いざ、餅つき」

「待て貴様!あれは神だぞ!?食材ではない!!」


セレーネの制止も虚しく、ラビは空中で重力制御を発動。

杵のヘッド部分に、ブラックホール級の重力を圧縮させる。


「――ぺったん(物理圧殺)」


ズドォォォォォォォォォン!!!


ラビの杵が、ヴォイドの触手のど真ん中に叩き込まれた。

空間が歪むほどの重圧。

光の粒子となって霧散しかけていた半流動体の触手が、物理的に「伸された」。


『ギ、ギャオッ……!?』


怪物が悲鳴を上げる。

神話級のエネルギー体が、餅のように平べったく伸びて、地面に張り付いている。


「……ん。いい粘り腰」


ラビは満足げに頷き、さらに追撃の構えを取った。


ドスン!ドスン!


惑星を砕くはずの触手が、職人技のリズムで叩かれ、こねられ、無力化されていく。


「……ひっくり返す。……手水てみず、お願い」


ラビが杵を振り上げた瞬間、無意識にそう呟いた。

餅つきにおいて、杵が餅にくっつかないよう、タイミングよく水を打つパートナーが必要不可欠だ。


「だ、誰がやるかァァァッ!!」


セレーネがツッコむ。

だが、彼女の体は長年の「リズムゲーム(地球からの漂着物)」で培われた反射神経によって、勝手に反応してしまっていた。


「(いかん!ここで水を打たねば、コンボが途切れる……!)」


オタク特有の、完璧なリズムへの執着。

セレーネの手が勝手に動き、水属性魔法を詠唱していた。


「ええい、ままよ!……喰らえ、『聖水スプラッシュ』!!」


バシャァッ!!


絶妙なタイミング。

ラビが杵を上げたコンマ数秒の隙間に、セレーネの放った水魔法がヴォイドの表面を潤し、粘つきを抑えた。


「……ん。ナイスアシスト」

「くっ……!なぜ体が勝手に……!屈辱だ……!」


ラビとセレーネ。

物理最強と魔法最強による、奇跡の餅つきコラボレーション。


ドスン!(杵)バシャッ!(水)ドスン!(杵)バシャッ!(水)


その完璧なリズムに、ヴォイドは抵抗する術もなく、ただ美味しく練り上げられていく。


「……ははっ。頼もしい社員だ」


アルトは爆笑し、通信機を取り出した。


「見たかセレーネ!神だろうが何だろうが、物理で殴れば凹むんだよ!」

「物理の概念がおかしいだろ!!」

「つべこべ言うな!そのまま押さえ込んで『殻』を割るぞ!月光蛾を使え!」


アルトは、呆然とするセレーネの背中を叩いた。


「初仕事だぞ、支店長。……俺たちの『推し(世界)』を守るために、一肌脱げよ」


セレーネは、餅つきをするラビと、ニヤリと笑うアルトを交互に見た。

そして、涙を拭い、決意とヤケクソの表情で叫んだ。


「……ええい、もう知らん!やってやる!……勘違いするなよ、にわかオタク!これは『共同戦線コラボ』だ!」

交渉成立ディールだ。……行くぞッ!!」


アルトが通信機に叫ぶ。


「総員、戦闘配置!……ターゲットは星喰いヴォイド!殺すなよ!『生け捕り』だ!」


アルト商会、月面編最終ミッション。

神話級の怪獣を相手取った、史上最大規模の「餅つき大会(捕獲作戦)」が始まった。


「……ん。いい餅になった」


ラビが、完全に伸びきって動かなくなったヴォイドを見下ろし、満足げに杵を置いた。

そして、空に浮かぶ地球(青い月)を見上げて、ポツリと言った。


「……これ、お供え(鏡餅)にする」

「やめろ!罰が当たるぞ!!」

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