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機動要塞の聖女さま~魔力暴走で廃棄された私、魔導工学の天才に「電池」として再就職しました。~  作者: 朔夜
第3章 空中都市と空飛ぶ請求書

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月の女王は、解釈違いに厳しい厄介オタクです


月面全土を巻き込んだ「文化侵略(電子降臨祭)」により、貴族社会は崩壊した。

統治機能は麻痺。残る敵は、最上層の王宮「ルナ・パレス」に引きこもる、月の女王セレーネのみ。


「ここだ。『玉座の間』」


突き当たりにある、巨大な扉。

アルトはシスター・ワンに目配せする。


『了解。……失礼シマス』


ドゴォォォン!!


ワンのパイルバンカーが、扉を蝶番ごと吹き飛ばす。

土煙の中、アルトたちは堂々と踏み込んだ。


「チェックメイトだ、女王陛下!観念して……あ?」


アルトの言葉が止まる。

そこは、玉座の間ではなかった。

薄暗い空間。

壁一面には、厳重な「時間凍結結界」が張られたショーケースが並んでいる。


その中には、スラムで見かけた「聖典ジャンプ」のバックナンバーが全巻揃い、色あせたフィギュアや、額装された「萌え絵の抱き枕カバー」が神々しく鎮座していた。


「……おい。これ、スラムで売ってた『聖典』の山じゃねえか」

「いえ、社長。これらは……『地球からの漂着物』です」


セレスが呆然と呟く。

星喰いヴォイドの空間共鳴により、数千年の間に地球からランダムに転送されてきたサブカルチャーの残骸。

それを「神の遺産」として収集し、解釈し、崇めてきたのが、この月の王家だったのだ。


つまり、ここは――


「『痛部屋イタベヤ』かよ……!」


神聖なる王宮の最奥が、限界オタクのコレクションルームだったという衝撃。


「――よくも」


その時、部屋の中央にある祭壇から、震える声が聞こえた。

女王セレーネが、タブレット端末(配信画面)を握りしめて立っていた。

透き通るような銀髪と、赤い瞳。絶世の美女だが、その右半身は鉱石化病の水晶に覆われている。


「よくも……我々の『神学』を……!」


彼女が振り返る。その顔は、怒りと涙でぐしゃぐしゃだった。


「ひどい……っ!あまりにも、残酷すぎる……!」

「あん?何がだ?」

「黙りなさいッ!!なんだあの配信は!『猫耳』の解釈が浅すぎる!!」


セレーネが絶叫した。


「古代の文献によれば、『猫耳』とは獣性と理性の融合!内なる野生を制御できぬ葛藤の象徴であるはずだ!なのに貴様らの『ワンちゃん』はなんだ!?ただ媚びているだけではないか!?」

「……は?」

「この聖骸布(抱き枕)を見なさい!この『恥じらい』と『恍惚』が入り混じった表情!これこそが神の多面性を示唆する崇高な芸術なのだ!それを……それを貴様らは、ただの『記号』として消費した!」


大真面目な顔で、抱き枕カバーの表情を神学的に解説する女王。

彼女にとって、アルトたちのエンタメは「解釈違い」という名の冒涜だったのだ。


「許さん……!国を奪うだけならまだしも……私の『推し(聖域)』を汚すことは、許さない!」


セレーネが祭壇の奥にあるレバーを引いた。


ゴゴゴゴゴ……ッ!


床が割れ、地下から巨大な影がせり上がってくる。

蛾の羽を持つ巨大な人型兵器。古代文明の最終兵器「月光蛾ルナ・モス」。


「粛清します!にわかオタク共め!永遠に続く『考察』の彼方に消えなさい!」


セレーネが兵器に搭乗する。

月光蛾の羽が輝き、全てを分解するナノマシンの鱗粉を撒き散らし始めた。


「ちょ、社長!ヤバいです!あれ、触れたら分解されますよ!?」

「知るかよ!なんでオタクの喧嘩で世界が滅びかけなきゃならねえんだ!」


アルトは鉄パイプを構えたが、相手は浮遊している上に、触れるだけで即死のバリア持ちだ。物理攻撃が通じない。

シスターズの弾幕も、鱗粉に阻まれて届かない。


「死ねぇぇぇ!貴様らごとき、『逆カプ撲滅のリバース・サンダー』で……!」


セレーネがトリガーに指をかける。

万事休すか。

その時、アルトの脳裏に閃きが走った。

相手は、数千年前の「続き」を知らないまま、断片的な情報だけで妄想を膨らませてきた古代オタクだ。

ならば、現代人(転生者)である自分には、最強の武器がある。


アルトは懐から、一枚の黒い板を取り出した。

それは、ガメル工場長が「ゴミ」として仕分けていた漂着物コンテナの中から、アルトがこっそりくすねておいた「大容量電子書籍端末タブレット」だった。


「待てェェェッ!!撃ってみろ!!」


アルトが絶叫した。


「俺が死ぬ瞬間に、あの大人気ミステリー漫画の『真犯人の名前』を叫んでやる!!」

「な……ッ!?」


セレーネの動きが、ピタリと止まった。

月光蛾のチャージ音が、不自然に途切れる。


「そ、その端末……まさか、全巻データが入っているのか……!?」

「ああ、入ってるぜ。完結までな。……ガメルがゴミだと思って捨ててたのを拾っといて正解だったぜ」


アルトはニヤリと笑い、タブレットを人質のように突きつけた。


「いいか?俺を殺せば、お前は永遠に『続き』を読めなくなる。……それだけじゃねえ。俺は死ぬ間際に、全月面回線を使って『犯人はヤス』レベルの特大ネタバレを拡散してやる!」

「き、貴様ァァァ!!」


セレーネが操縦席で頭を抱え、悲鳴を上げた。


「人の心がないのか悪魔め!!それだけは!それだけは人間のすることではないぞ!!」


彼女にとって、数千年の推察と妄想が、たった一言のネタバレで無に帰すことほど恐ろしいことはない。

死よりも深い絶望。それがネタバレだ。


「総員!!聴覚センサーを切れぇぇぇ!!聞くな!聞いたら死ぬぞ!!」


セレーネが錯乱して部下(無人機)に命令を下す。

攻撃の手が止まった。

完全な膠着状態。いや、情報的優位マウントを取ったアルトの勝利だ。


「……へっ。話を聞く気になったか?」


アルトはタブレットを指で弄びながら、悪魔の取引を持ちかけた。


現実リアルに戻ってこい、セレーネ。……そうすりゃ、死ぬまで『新作』を供給してやる」

「し、新作……だと……?」

「俺たちは地球から来た。……つまり、お前の知らない『続編』も『スピンオフ』も、山ほど持ってるってことだ!」


アルトはタブレットを放り投げた。


「アルト商会に入社しろ。福利厚生で『週刊誌のフライングゲット』を認めてやる」


パシッ。


セレーネが、月光蛾のマニピュレーターで、震えながらタブレットをキャッチした。

その瞬間、彼女の「王としてのプライド」と「オタクとしての欲望」が天秤にかけられ――

秒速で欲望が勝った。


「……分かった。降伏する」


月光蛾のハッチが開き、セレーネが出てくる。

彼女は涙目で、しかし期待に満ちた顔でアルトを見上げた。


「勘違いするなよ……!私は貴様に屈したのではない!『公式供給』に屈したのだ!」

「はいはい。……ようこそ、アルト商会へ」


アルトが手を差し伸べる。

だが、セレーネはその手を握る前に、血走った目で食い下がった。


「……で、でも!待て!」

「あ?なんだよ」

「そのデータには……アニメの二期は含まれているのか!?円盤ブルーレイの特典映像はあるのか!?教えてくれ、それだけが私の生きる糧なのだ!!」

「……知るかよ。めんどくせぇ客だな」


こうして、月面最強の戦力は、「ネタバレ回避」と「円盤特典」という餌によって陥落した。

解釈違い戦争、終結。

勝因は、アルトの性格の悪さだった。

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