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機動要塞の聖女さま~魔力暴走で廃棄された私、魔導工学の天才に「電池」として再就職しました。~  作者: 朔夜
第3章 空中都市と空飛ぶ請求書

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独占市場は、ペンキで塗り替えます


「消毒!消毒!汚染源を完全焼却せよ!!」


クレーター街は、白炎の海と化していた。

ラビとシスターズによって先鋒のドローン部隊は壊滅したが、月面商業ギルドの衛生管理官ブランは、さらに狂気じみた増援を送り込んできた。


ズズズズズ……ッ!


スラムの上空に、巨大な影が差す。

現れたのは、全長100メートルを超える純白の飛行戦艦。

その底部には、都市一つを焦土に変えるための巨大な「ナノマシン焼却砲インシネレーター」が懸架されていた。


「あ、あれは……『大掃除グランド・クリーン』用の戦艦だ!」

「スラムごと焼き払う気か!?」


住民たちが悲鳴を上げる。

モニター越しに、ブランの絶叫が響き渡った。


『汚らわしい!貴様らは私の秘密を見た!……菌だ!貴様らは全員、排除されるべき病原菌なのだァァッ!!』


秘密(泥の密輸)を暴かれた羞恥と、保身のための証拠隠滅。

彼はもう、商業ギルドの利益など考えていない。ただ、自分の聖域(清潔さ)を守るために、全てを無に帰そうとしている。


「チャージ開始!……灰になれ!ゴミ共め!」


焼却砲の砲口に、眩いばかりの白い光が収束していく。

あれが放たれれば、スラムは一瞬で無菌の焦土と化す。


「あーあ。……とうとうキレちまったか、潔癖症サン」


だが、アルトは要塞の甲板で仁王立ちになり、その破滅の光を見上げても動じなかった。

むしろ、待っていたと言わんばかりにニヤリと笑う。


「せっかくの商圏を焼き払われちゃ敵わん。……ここからは『リフォーム』の時間だ」


ガシャンッ!!


要塞の側面ハッチが展開し、そこから無数の「放水砲」のような砲塔がせり出した。

だが、接続されているタンクには、水ではなく、毒々しいほどカラフルな液体が満たされている。


「社長!敵のエネルギー充填率、90%を超えました!」

「構わん、引きつけろ。……ギルドの連中は色がつくのを何より嫌う。なら、これがお似合いだろ?」


アルトはマイクを握り、叫んだ。


「総員、装填完了!……弾種『極彩色フルカラー』!派手にブチまけろォォォッ!!」


ドォォォォォォン!!!


アルト・ワークスが一斉に火を噴いた。

飛び出したのは、実弾でもビームでもない。

赤、青、黄、紫、緑。

目が痛くなるほど鮮やかな「液体の塊」だった。


バシャッ!ベチャッ!ドリュウウッ!


着弾した瞬間、液体が爆発的に飛散する。

純白だった戦艦が、ドローンが、そしてブランのいる指令室の窓が、一瞬で毒々しいマーブル模様に染め上げられた。


『ピ、ピピ……!?センサー異常!視界不良!』

「な、なんだこの汚らしい色はァァァッ!?」


ブランが絶叫する。

彼らの神聖な「白の世界」に、最も忌み嫌う「原色」がぶちまけられたのだ。

生理的な嫌悪感が、彼らの思考回路をショートさせる。


「効いてる効いてる。……だが、本番はここからだ」


アルトは不敵に笑った。


「このインクはただのペンキじゃねえ。地球から持ってきた『雑草の種』を混ぜてある」

「雑草……?兵器じゃないんですか?」

「ああ、ただのタンポポやツタだ。……だがな」


彼が指を鳴らすと、インクに濡れた戦艦の装甲やドローンの表面で、異変が起きた。


ポコッ。ニョキニョキニョキッ!


インクを培地にして、爆発的な速度で「緑」が芽吹き始めたのだ。

ツタが絡まり、葉が茂り、極彩色の花が咲き乱れる。

無機質な機械が、瞬く間に植物に浸食され、動く空中庭園へと変わっていく。


「月面のナノマシンは『高純度エネルギーの塊』だ。飢えきった地球の植物にとっちゃ、極上の『肥料』に見えるらしい」


アルトは肩をすくめた。


「俺も驚いたぜ。まさか、肥料ナノマシンを過剰摂取して、ここまで巨大化(突然変異)するとはな。……地球の『生命力カオス』をナメんなよ?」


『け、警告!駆動系に異物侵入!』

『植物!植物デス!ナノマシンガ、吸ワレテイマス!』


ドローンたちが、絡みつくツタにプロペラを止められ、次々と墜落していく。

アルトが開発したわけではない。

ただ、環境ナノマシンと異物(雑草)が出会った結果、制御不能の捕食関係が生まれただけだ。


「ヒィィッ!?バ、バイオハザードだ!野蛮な植物兵器め!」


ブランが半狂乱で叫ぶ。

戦艦の砲身にもツタが絡みつき、発射口を塞いでいく。


「ええい、構わん!撃て!色も植物も、全て焼き尽くせ!」


ブランが発射ボタンを叩く。

焼却砲が火を噴こうとした、その瞬間。


ボフッ……!


砲口に詰まった巨大な花が開き、大量の「金色の粉」を噴出した。

花粉だ。

それが逆流し、戦艦内部や、地上に展開していたギルドの兵士たちへと降り注ぐ。


「げほっ、ごほっ!……毒ガスか!?」


兵士たちが花粉を吸い込む。

だが、彼らを襲ったのは苦しみではなかった。


ピキ、パキーン……。


兵士たちの体を蝕んでいた紫色の結晶が、花粉に触れた瞬間に砕け散ったのだ。

植物がナノマシンを食って生成した、高純度の「有機マナ粒子」。

それは、泥団子以上の即効性を持つ、強力な治療薬だった。


「……あれ?体が……軽い?」

「痛くない……。石化が、治ってる……?」


兵士たちが、自分の手を見つめて呆然とする。

戦意が消えていく。

自分たちを救ったのは、上司の白い炎ではなく、敵が撒いた「雑草」だったのだから。


「な、何をしている!撃て!殺せぇぇ!」


ブランが孤立無援で叫ぶ。

だが、もう誰も従わない。

戦艦は植物の重みに耐えきれず、ゆっくりと高度を下げ、スラムの広場へと不時着した。


ズズズ……ン。


着地した戦艦は、もはや兵器ではなかった。

極彩色の花々が咲き乱れる、巨大なオブジェ。

無機質な月面世界に突如現れた、生命のジャングル。


「……勝負あったな」


アルトは要塞から飛び降り、花に埋もれた戦艦のハッチを鉄パイプでこじ開けた。

中から、泥とインクと花粉にまみれたブランが這い出てくる。


「あ、あぁ……私の白が……」

「どうだ?綺麗だろ?」


アルトは、極彩色の森を見下ろして笑った。


「お前らが排除しようとした『色』と『生命』だ。……お前の自慢の焼却砲より、俺の撒いた雑草の方が、よっぽど人を救ってるぜ?」


皮肉な現実。

汚染こそが救済であり、清潔こそが死だった。


「ひ、ひぃぃ……!くるな、野蛮人……!」

「安心しろ。殺しはしねえ」


アルトはブランの胸ポケットから、隠し持っていた「泥の小瓶」を抜き取った。


「だが、この密輸の証拠と、今回の騒ぎの責任……。ギルド本部にはきっちり報告させてもらう」

「そ、それだけは……!失脚してしまう!」

「知るかよ。……『退場』の時間だ」


アルトが指を鳴らすと、元・酸素中毒者のギャングたちが、ニヤニヤしながらブランを取り囲んだ。

彼らの手には、たっぷりと泥がついたジャガイモが握られている。


「へっへっへ。……管理官様よォ、そんなに泥が好きなら、腹いっぱい食わせてやるよ」

「や、やめろぉぉぉ!!」


ギャングたちが、ブランの口に強引にイモをねじ込んだ。

皮ごと、泥ごと。


「んぐッ!?……オェッ……!」


ブランが涙目で拒絶する。

だが、口の中に土の香りが広がった瞬間、彼の目がカッと見開かれた。


「ん……?……う、うまい……!?」


拒絶していた手が止まる。

体が、細胞が、歓喜していた。

彼は無我夢中でイモを貪り始めた。顔中を泥だらけにしながら。


「うまい!なんだこれは!もっとだ!もっと寄越せぇぇ!!」


そこに、かつての潔癖症の面影はなかった。

あるのは、本能に屈服し、泥にまみれる哀れな中毒者の姿だけ。

完全なる敗北。


「……ふぅ。片付いたな」


アルトは鉄パイプを肩に戻し、上空を見上げた。

スラムの騒ぎを聞きつけ、上層エリアから無数の光が降り注いでいる。

だが、それは軍隊のサーチライトではなかった。

上層の窓という窓から、退屈した貴族たちが顔を出し、この騒動を見下ろしていたのだ。


『な、なんだあの色は……?』

『見たことがない……毒々しい、けれど……』

『美しい……』


漏れ聞こえる感嘆の声。

数千年の「白」の世界に飽き飽きしていた彼らにとって、この極彩色の爆発は、恐怖ではなく「極上のエンターテインメント」として映っていたのだ。


「へっ。……いい反応だ」


アルトは確信した。

市場マーケットは飢えている。

泥だけじゃない。もっと刺激的な「コンテンツ」を求めている。


「行くぞセレス。……観客は温まった」


彼は要塞の放送タワーを見上げた。


「この派手なステージを使って、次は全月面に『宣伝』してやる。……世界を丸ごと、俺たちの色に染め上げてやるぞ」


色彩によるテロル。

それは、次なる作戦「文化侵略」のための、ド派手な前夜祭プレイベントだった。

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