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機動要塞の聖女さま~魔力暴走で廃棄された私、魔導工学の天才に「電池」として再就職しました。~  作者: 朔夜
第3章 空中都市と空飛ぶ請求書

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泥団子は、宝石よりも高価です


月面下層スラム「クレーター街」の片隅。

廃材とネオン管が乱雑に積み上げられた薄暗い路地裏に、あまりにも異質な「店」がオープンしていた。


看板は、要塞の装甲板を切り出した一枚板。

そこにスプレーで殴り書きされた文字は――


【ALTOCLINIC&FARM(アルト診療所兼・農園直売所)】

【本日の特効薬:地球産・泥付き焼きイモ】


「……社長。本当にこれで客が来るんでしょうか?」


セレスが不安げに尋ねる。

彼女が店番をしている屋台の上に並んでいるのは、黒い泥で固められた、無骨な土塊つちくれの山だ。

見た目は完全に、子供が作った「泥団子」。

無機質で清潔な月面の美学とは対極にある、不潔の塊だ。


「来るさ。……ここじゃ『土』はダイヤモンドより希少だ」


アルトは即席の窯(要塞のエンジン廃熱を利用したドラム缶)の前で、団扇を仰ぎながら不敵に笑った。

彼が窯の蓋を開けると、強烈な「土の匂い」が路地に爆発した。

それは、無機質な月面では絶対に存在し得ない、濃厚な「生命の体臭」だ。


ガシャ、ガシャ、ガシャ……。


路地の奥から、重苦しい足音が近づいてくる。

現れたのは、先日アルトたちを襲ったサイボーグギャングのリーダー、「鉄腕のガンド」だった。

鉱石化病に冒され、片目が潰れた彼は、殺気立った目で屋台に近づく。


「ヨコセ……!全部ダ!ココニアル薬、全部置イテ失セロォッ!!」


ガンドが油圧駆動の拳を振り上げ、アルトに殴りかかろうとする。

だが、アルトは眉一つ動かさず、トングで熱々の泥団子を一つ掴み上げ、ガンドの口にねじ込んだ。


「ほらよ。……『試供品サンプル』だ」


ガブリ。

ジャリッという砂の音。だが、その直後。

ガンドの顔を覆っていた紫色の結晶に亀裂が入り、ボロボロと剥がれ落ちた。

現れたのは、血の通ったピンク色の肌。


「う、おおおおおぉぉぉッ!!治った……!俺は、石じゃねえ!人間だ!!」


その奇跡ビジュアルを見た瞬間、スラムの経済が狂った。


「や、薬だ!本物の特効薬だ!」

「ボスだけズルいぞ!俺にもくれ!」

「殺してでも奪えぇぇ!!」


暴動寸前の熱狂。だが、ラビが巨大な杵をドンッ!と地面に突き立てると、全員がピタリと静まった。

物理的な整列指導。


「……並べ。金が先」


ラビの一言で、我に返ったスラムの住人たちは、慌てて懐を探り始めた。

ガンドが、自分のパワードスーツの腕パーツを引きちぎり、さらに隠し持っていた「古代のメモリーチップ」や「高純度シリコンの延べ棒」を、カウンターに山積みにした。

地球の価値基準なら数億円。だがここでは、イモ一個と等価だ。


商談成立ディールだ」


アルトは資材を受け取り、新しい泥団子を渡した。


「毎度あり。……ちなみに、こいつはあくまで『サプリメント』だ。定期的に摂取しねえと、また石化が始まるぞ?」

「か、買う!予約する!毎日買いに来るから確保しとけぇぇ!」


定期購入サブスクリプションの確約。

たった数キロの土とイモが、月面に眠る最新鋭の機械部品や貴金属を、ブラックホールのように吸い上げていく。


「(……チョロいもんだな)」


アルトは積み上がる資材の山を見て、舌なめずりをした。

ふと、隣の露店に目をやると、奇妙なものが売られていた。

ボロボロになった、分厚い紙の束。

店主が「古代の聖典だ!読むと心が震えるぞ!」と叫んでいる。


「……ん?あれは……」


アルトが手に取ってみると、それは数千年前の地球の雑誌――『週刊少年ジャンプ(20XX年合併号)』のなれの果てだった。

真空パックされていたのか保存状態は良いが、紙は黄色く変色している。


「(……マジかよ。こっちじゃ漫画が『聖典』扱いか?)」


アルトはパラパラとめくり、「友情・努力・勝利」の文字を見て苦笑した。

月面人(古代人)たちは、この娯楽に飢え、神話として崇めているらしい。

この文化的な歪み……あとで何かに使えるかもしれない。


「社長、もう倉庫がいっぱいです!これ以上積めません!」


セレスの悲鳴で、アルトは現実に引き戻された。

カウンターの後ろ、要塞の周囲には、すでにジャンクパーツの山脈ができている。要塞内のコンテナも満杯だ。


「おいセレス、集金だ!……あーくそ、置き場が足りねえな」


アルトは通信機を取り出し、天空アガルタにいる工場長を呼び出した。


「おいガメル!現場がパンクしそうだ!『受け取り』の準備をしろ!」

『む、無理ですオーナー!!』


通信の向こうから、悲痛な叫びが響いてきた。

アガルタ墜落後、上空で待機しながら工場エリアの復旧を任されているガメル(生首ロボ)だ。


『すでに倉庫は満杯です!これ以上送られても……だいたい、どうやって月からアガルタまで荷物を上げるんですか!?転送ゲートは故障中ですよ!』

「甘えんな!ゲートがねえなら『物理』で投げりゃいいだろ!」


アルトは要塞の甲板に設置された、巨大なレールガン――「電磁投射機マスドライバー」を起動させた。

本来は艦載機を射出するためのカタパルトだが、出力を上げれば物資を宇宙空間へ放り投げる輸送砲になる。


「コンテナを『砲弾』に詰めろ!アガルタの重力圏に向けて、片っ端から撃ち込むぞ!」

『はあ!?撃ち込むだと!?受け止め損ねたら大惨事だぞ!!』

「安心しろ、計算は完璧だ!……ただし、中の商品はミンチになるかもしれんがな!」


ドォォォォン!!


轟音と共に、物資を詰め込んだポッドが音速で射出される。

強烈なGがかかり、ポッドは火の玉となって空の彼方へ消えていく。


「(……へっ。便利な宅配便だが、これじゃあ『生身の人間』は帰れねえな)」


アルトは射出されるポッドを見上げ、独りごちた。

マスドライバーの射出Gは数十Gに達する。人間が乗れば即死だ。

物資は送れても、自分たちが地球へ帰るには、もっと別の「まともな乗り物」が必要になる。


「さあ、もっと持って来い!……俺の『泥』が尽きるか、お前らの『財産』が尽きるか……勝負だ!」


アルト・クリニック、大盛況。

だが、その熱狂と異臭は、この街を管理する「白い組織」の鼻を、確実に刺激し始めていた。

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