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機動要塞の聖女さま~魔力暴走で廃棄された私、魔導工学の天才に「電池」として再就職しました。~  作者: 朔夜
第3章 空中都市と空飛ぶ請求書

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アルト商会は、銀河を目指す超優良企業です


アガルタ中枢タワー「バベル」。

メサイアからオーナー権限を強奪(M&A)したアルトは、眼下の床に埋め込まれた、腐りかけた「星の心臓」を見下ろした。


「今の心臓はもう限界だ。……止まる前に、もっと上等なエンジンに『載せ替える』ぞ」

「載せ替える、だと?……まさか」


メサイアが目を見開く。

アルトはニヤリと笑い、自らの腹部に手を当てた。

アガルタへの墜落の瞬間に飲み込んだ、最強の「隠し資産」。

胃酸の海の中で、絶縁ゲルに守られながら眠り続けていた種銭だ。


「出すぞ、セレス。……少し離れてろ」


アルトは腹部にグッと力を込め、喉の奥に指を突っ込んだ。

嘔吐感ではない。食道を無理やりこじ開ける、焼けるような激痛。


「ぐっ……!があぁぁッ……!」


胃の中でゲルと共に硬化した「異物」が、内臓を押し広げながらせり上がってくる。

脂汗が吹き出し、視界が滲む。

だが、アルトは躊躇わない。これは汚物ではない。世界を救うための「心臓」だ。


「(出ろ……!俺たちの未来だろ……ッ!)」


喉が裂けるような熱さと共に、口内が鉄錆(血)の味で満たされる。

彼は咳き込みながら、口から溢れ出ようとする「それ」を、震える手で受け止めた。


コロン。


乾いた音と共に、一つの球体が床に転がり落ちた。

胃液など付着していない。体内で高熱を発していたため、ゲルはガラス質の結晶となって表面をコーティングし、神々しく輝いている。


「……はぁ、はぁ。見ろ。俺の腹の中で温めておいた、とびきりの『宝石』だ」


アルトは血の糸を引く口元を乱暴に拭い、湯気を立てる結晶を拾い上げてメサイアに見せつけた。


「こいつは『第3世代・永久機関ロスト・ジェネレーター』だ。……ヘカトンケイルから引っこ抜いた、神話級の遺物だぜ」

「な……!?あれを、体内に隠していたのか!?」


メサイアが絶句する。

アルトは躊躇なく、その結晶を部屋の中央にある「融合炉」の投入口へ放り込んだ。


ガリッ、ゴリッ、ガチンッ!!


融合炉が唸りを上げ、異物を飲み込む。

だが――反応がない。


『エラー。炉心温度、低下。……再点火、失敗』


「チッ、やっぱりか。数千年放置されてた『在庫品』だ。冷え切ってやがる」


永久機関は理論上無限の動力を生むが、最初の「火」が入らなければただの石だ。

そして、この巨大な都市を動かすための初期点火には、雷撃にも等しい莫大なエネルギーが必要となる。


「ガス欠なら押しがけだ!……おいシスターズ!在庫を持ってこい!」


アルトが懐の通信機(義眼直結)に叫ぶ。


『了解!お届け物デース!』


天井のハッチが開き、新型ボディのシスターズたちが抱えたコンテナがドサドサと投げ込まれた。

中身は、カジノの武器庫から強奪した、数百個の「軍用高純度魔力セル(バッテリー)」だ。


「ここにあるバッテリーを全部『直列』に繋げ!……電圧を限界まで上げて、無理やり心臓マッサージしてやる!」


アルトとセレス、そしてシスターズが総出でケーブルを繋いでいく。

部屋中を這うケーブルの山。即席にしてはあまりに危険な、爆弾のような回路。


「接続完了!……ですが社長、これだけの数を同時に放電させたら、タイミングがズレて暴発します!」

「そこは『ソフトウェア』の出番だ。……おい、義眼の中のニートども!起きろ!」


アルトが左目の義眼を叩く。


『起きてまーす!』

『計算開始!放電タイミング、1000分の1秒単位で同期シンクロさせます!』


義眼サーバーの中にいる数百人の「量産型聖女の魂」。

彼女たちの並列演算能力が、数百個のバッテリーの放電トリガーを完璧に制御する。


「カウントダウン!……3、2、1……点火イグニッションッ!!」


バチチチチチチチッ!!!!!


数百個のバッテリーが一斉にスパークした。

極大の電流が奔流となって、冷え切った永久機関へと叩き込まれる。


ドクンッ!!


炉心が跳ねた。

神話の光が灯り、無限の回転が始まる。


『出力、安定!……永久機関、覚醒シマシタ!』


ズズズズズズズ……ッ!!


アガルタ全体が、巨獣のように咆哮を上げる。

腐りかけた心臓から、若々しく力強いエンジンへの換装完了。


「行くぞ!……『抜錨リフトオフ』ッ!!」


アルトが操縦桿(玉座)を押し込む。

都市の底部から、青白い光が噴出した。

だが、それはただの噴射ではない。

地上の汚染マナ(ヘドロ)を掃除機のように吸い上げ、推進力として燃焼させているのだ。


「地上のゴミ掃除ついでに燃料補給だ!……エコな乗り物だろう?」


シュゴオオオオオオッ!!


吸い上げられたマナの柱に乗って、アガルタは弾丸のように加速・上昇していく。

マナ・ライディング。

雲を突き抜け、空が暗くなり、星々が輝き始める。


「大気圏離脱、30秒前!」

「今だ!……『光の天蓋キャノピー』、展開ッ!!」


アルトがスイッチを叩く。

都市全体を包み込む「光の膜」が形成され、空気を密閉する。


フワッ……。


重力が消えた。

窓の外には、見渡す限りの星空と、眼下に広がる青い地球。

地球の衛星軌道。ついに、彼らは辿り着いたのだ。


「……すげえ」


アルトは席を立ち、窓枠に手をついた。

かつて見上げた空の、さらに上。

ここが、新しい「戦場マーケット」だ。


「ここが俺たちの『本社ビル』だ!地上の汚染ゴミを吸い上げて燃料にし、宇宙のクリーンエネルギーを地上へ送る!」


彼は地球と月、そしてその先に広がる銀河を見据えた。


「俺は星を治しながら、全宇宙をテナントにする『銀河の大家』になるんだよ!」


壮大な野望。

だが、今の彼になら、本当にできそうな気がした。

セレスが、隣で微笑む。


「大家さん、ですね。……ふふっ、素敵です」

「……ああ、そうだ」


アルトは、少し照れくさそうに頭を掻き、コンソールを操作した。


ピロン♪


セレスのスマホ(端末)に、一件の通知が届く。


【認証完了:最上階ペントハウス・オーナー権限】

【登録者:セレスティア・ルーメン】


「えっ?これは……?」

「このタワーの最上階。……『ペントハウス』のマスター権限だ」


アルトはそっぽを向いたまま言った。


「一番眺めのいい部屋だ。……お前のために空けといた。鍵なんざいらねえ、お前の目(網膜)と魔力が鍵だ」


それは、物理的な鍵よりも確かな、彼女の存在そのものを肯定する贈り物。

副社長としてだけでなく、パートナーとしての特別な席。

セレスは端末を胸に抱きしめ、涙ぐみながら満面の笑みを咲かせた。


「はいっ!……ありがとうございます、社長!」

「おう。……さあ、仕事だ!」


アルト商会、銀河進出。

強欲な商人と、最強の聖女の旅は、ここからが本番だ。

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