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機動要塞の聖女さま~魔力暴走で廃棄された私、魔導工学の天才に「電池」として再就職しました。~  作者: 朔夜
第3章 空中都市と空飛ぶ請求書

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世界の真実は、サーバー室の底にあります


アガルタ中枢タワー「バベル」。

その最上階にある「教皇の間」への扉は、重々しい駆動音と共に開かれた。


「……静かすぎるな」


アルトが警戒しながら足を踏み入れる。

そこは、一度訪れた(そして追い返された)場所と同じ、無数のモニターとサーバーに囲まれたドーム状の空間だった。

だが、以前とは決定的に違う点があった。


部屋の中央。

床がガラス張りになっており、その下に――「巨大な心臓」が埋め込まれていたのだ。


ドクン、ドクン、ドクン……。


直径10メートルはあろうかという、赤黒い肉塊。

そこから無数のパイプとケーブルが伸び、アガルタ全域へとエネルギーを供給している。

だが、その鼓動は不整脈のように弱々しく、表面はどす黒く変色し、腐敗が始まっていた。


「ようこそ、アルト商会。……ここまで登ってくるとはね」


心臓の上に座っていた教皇メサイアが、ゆっくりと振り返る。

その表情には、敵意も焦りもない。

ただ、数千年分のデータを処理し続けてきた、深い疲労の色だけが浮かんでいた。


「教皇……。あんた、そこで何を……」

「見ての通りだよ。……『延命措置』だ」


メサイアは、足元の心臓を愛おしげに、そして哀れむように撫でた。


「君たちは、アガルタが何で浮いているか知っているかい?」

魔素マナだろ?地上から吸い上げた」

「半分正解だ。だが、その魔素はどこから来ている?」


メサイアが指を弾くと、周囲のモニター群に「地上の解析データ」が表示された。

そこに映し出されたのは、アルトたちが知る世界ではなかった。

緑豊かな大地?青い海?

違う。

地殻はひび割れ、海は干上がり、星全体が灰色に死に絶えている。

まるで、中身を吸い尽くされた果実の皮のように。


「……これが、現実リアルだ」


メサイアが静かに告げる。


「この星の寿命は、千年前に尽きている。……我々が吸い上げているのは、星に残った最後の『生命力ライフ』そのものだ」


セレスが息を呑む。

足元の心臓。それは、この星の「コア」だったのだ。

アガルタは、死にかけた星の心臓に直接パイプを突き刺し、最後の血を啜って生き延びる「延命装置(人工心肺)」だった。


「残酷だと思うかい?だが、これが唯一の『解』だった」


メサイアの声に、苦渋が滲む。


「星は死ぬ。放っておけば人類も全滅する。……だから余は、人類の一部(アガルタ市民)だけでも生き残らせるために、地上を切り捨て、星の残りを燃料にして空へ逃げた」


彼は、自分自身の首筋にあるバーコードを指差した。


「余は、そのシステムを維持するためだけに作られた『管理AI』だ。……千年間、毎日毎日、減り続ける燃料(星の命)と、増え続ける人口(負荷)のバランスを調整し続けてきた」


酸素税。食料配給。幸福管理。そして顔の削除。

それら全ての非人道的なシステムは、限られたリソースで一日でも長く人類を生存させるための、苦肉のトリアージだったのだ。


「だが、もう限界だ。……心臓エンジンが止まる」


ドクン……。


足元の心臓が、一際大きく痙攣し、嫌な音を立てた。


「あと数ヶ月。……それでこの星は完全に死に、アガルタも墜落する。……『ゲームオーバー』だ」


すべてを諦めたような教皇の告白。

だが、アルトは感傷に浸ることなく、部屋の構造を、そしてアガルタの設計図ブループリントを鋭い目で観察していた。


「……へえ。そういうことか」


アルトは鉄パイプ(魔改造スタン・ロッド)で、壁のパネルを叩いた。

カンッ、と硬質な音が響く。


「このタワーの構造、そして都市全体のフレーム強度……。これ、ただの浮遊都市じゃねえな」

「……?」

「これは『船』だ。それも、星の海を渡るための『恒星間移民船アーク』だろ?」


アルトの指摘に、メサイアが目を見開く。


「な、なぜそれを……!」

「見りゃ分かる。この街の浮遊機関は、大気圏内じゃオーバースペックすぎる。……本来は、死んだ星を捨てて、宇宙へ脱出するために作られたモンだ」


アルトは呆れたようにため息をついた。


「立派なロケットを持っていながら、燃料がないからって地上にしがみついてたのか?……宝の持ち腐れだな」

「……行けないのだよ」


メサイアが首を振る。


「燃料の問題ではない。……『権限』の問題だ」

「権限?」

「この船の発進コードは、私の権限ではロックされている。……『自由意志を持った人間アウトサイダー』の承認がなければ、地球圏を離脱できないようにプログラムされているのだ」


AIの暴走を防ぐための、古代人の安全装置。

だが、それが今、彼らを縛る呪いとなっていた。


「アガルタの市民は、全員がシステムの一部として登録されている。……彼らに承認権はない。私と同じ『内側の存在』だからだ」


メサイアはアルトを見た。


「だが、君は違う。……システムからBANされ、それでも戻ってきた『異物バグ』だ」


彼の瞳に、かすかな期待の光が宿る。


「君なら、この膠着した世界を動かせるかもしれない。……だが、そのためには証明が必要だ」

「証明?」

「君が完全に『システムの外』にいること。……その偽装IDを捨て、何者でもない『個』として、私と対峙できるか?」


アルトの手元の端末に、警告が表示される。

現在使用している「ガメル」のID。これを破棄すれば、アルトはこの世界で「透明人間」となる。

アイテムボックスへのアクセスも、市民としての権利も、全て失う。


「……なるほどな」


アルトは迷わず、端末を操作した。

だが、削除ボタンは押さなかった。


「おいガメル。聞こえるか?」

『は、はいオーナー!必死に働いております!』

「IDは返してやる。……工場が止まったら困るからな」


アルトは偽装リンクを切断し、権限を正規ユーザーであるガメルへ返還した。


ピロン♪


アルトの手元から、ID表示が消える。


「よし。これで俺は『名無し(NoName)』だ」


彼は端末を放り捨て、真っ直ぐにメサイアを見据えた。


「俺は『アルト』として、神に挑む」

「……よろしい。認証プロセスを開始する」


メサイアが手をかざそうとする。

だが、アルトはそれより早く動いた。


「認証だァ?……まどろっこしいんだよ!」


ズドォッ!!


アルトは左目の「義眼」を引き抜き、メサイアが座る玉座メインコンソールに深々と突き立てた。


「なっ……!?」

「俺を管理できると思うな。……俺はユーザーじゃねえ」


義眼から伸びた侵食コードが、アガルタの中枢システムをどす黒く染め上げていく。

ハッキング。いや、もっと暴力的な「上書き」。


「俺は『客』だ。そしてお前は『商品』だ」


アルトは、ガスマスクの奥で獰猛に笑った。


「対等な『パートナー(あるいは新オーナー)』として契約しろ!……さもなくば、この場でスクラップにしてやる!」


メサイアのシステムに、エラーログと警告が溢れる。

だが、その混沌の中で、彼は生まれて初めての感情――予測不能な存在に対する「恐怖」と、それを上回る「歓喜」を覚えていた。


「……ははっ。本当に、無茶苦茶な男だ」


メサイアは抵抗を止め、システムを開放した。


「いいだろう。……全権限を譲渡する。君が、新しい船長オーナーだ」


【OwnerTransfer:Complete】


システム音が響き渡る。

アガルタの管理権限が、神の手から、商人の手へと渡った瞬間だった。


商談成立ディールだ」


アルトは義眼を回収し、再び眼窩に嵌め込んだ。

都市の全てが、彼の視界とリンクする。


「さあ、準備は整った。……あとは『燃料』を入れるだけだな」


彼は、足元の腐りかけた心臓を見下ろした。

もう、こんな古いエンジンはいらない。

彼には、月面で手に入れた――いや、地上で手に入れ、腹の中で守り抜いた「最強の心臓」がある。


「今の心臓はもう限界だ。止まる前に、もっとデカいエンジンに『繋ぎ変える』ぞ」


アルトは叫んだ。


「セレス。……『投資』の時間だ」

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