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「はじめましてエカチェリーナ…よろしくね」
はにかんで笑ったアリオン殿下はとても可愛らしく、自分が守ってあげなくてはいけないと思った。
「はじめましてアリオン殿下、お会いできてうれしいです」
習って間もない淑女の礼をする。
お父様が言っていた。私はアリオン殿下のお嫁さん候補に選ばれたらしい。
王子様のお嫁さんってよくわからなかったけど、アリオン殿下となら一緒にいたい。
「エカチェリーナ、アリオン殿下とは仲良くなれそうかい?」
王宮で行われたお茶会の帰りの馬車でお父様が聞いてきた。
「ええ、とっても!」
「それはよかった。エカチェリーナがこれから一生懸命に頑張って勉強をすれば、アリオン殿下のお嫁さんにしてくれるそうだよ」
その言葉に心が決まった。
礼儀作法から算術、地学、教養のための詩や海外の文化、ありとあらゆる勉強をした。大きくなるにつれて全てはこの国の王妃になくてはならない学習だと理解し、更に身を入れて取り組んだ。
貴族のパーティーや王宮は足の引っ張り合いでもあるのは幼いころから理解したので、それに負けないような立ち回りも身に着けた。最初から舐められないように首根っこを掴んでどちらが上かを教えてやるのも忘れずに。
つまらない難癖を付けられぬよう見た目も常に気を遣い、流行りの服やアクセサリーは真っ先に取り入れた。その甲斐あってパーティーでも学園でも常に「一番の令嬢」だった。
「エカチェリーナはすごいね、ボクは尻に敷かれそうだ」
「まあ、わたくしはそんなこといたしませんわよ。殿下も堂々となさってくださいませ」
そんな冗談を言い合って、その横ではドーリスとエルヴァルドも笑っていて。
それなのに学園に入学してから変わってしまった。
アリオン殿下も、仲良しだった幼馴染も、みんなフランテールに惹かれていった。
フランテールは数年前に父親が男爵になったほぼ平民と言ってもいい娘だ。家柄も、教養も、服やアクセサリーだってどれを取っても自分より劣っている。貴族の娘たちはいいおもちゃが見つかったとばかりに陰険な嫌がらせや悪口を向ける。それを自分でどうにもできないなんて、覚悟が足りていないとしか思えない。
彼女が自分でどうにもできない貴族の嫌がらせを、どうしてかアリオン殿下や幼馴染たちが庇うのだ。
「なぜです?あれしきのこと自分でどうにもできないのであれば、この貴族が集う学園でやっていけるとは思いませんわ!」
そう言うと殿下も幼馴染も困ったように笑う。
「まあまあ…あの子は元々貴族じゃないんだし、みんながエカチェリーナみたいにできるわけじゃないからよ」
「ドーリス様、それはどういう意味でしょうか?」
思わず鋭い視線を向けてしまう。騎士団長である父を継ぐべく鍛えだした彼だが、話術の方はエカチェリーナに言い返せるほど身についておらず、ポリポリと自分の頭を掻くだけである。
それからも殿下や幼馴染に庇われ無邪気に笑うフランテールを度々見かけた。そのたび言い知れぬ不快感はあれど、淑女たるもの外には出さない。
だけど、ある日それは決壊した。
夕暮れ時、閉館前の図書館で目当ての本を探していた時のことだ。窓辺に話し声が聞こえ、自分以外にもまだ誰かいるのかと目をやると、アリオン殿下とフランテールであった。声を掛けることもできたが、殿下の楽しげな様子に割って入るのも憚られた。
本は諦め、気づかれないようにその場を立ち去ろうとした時だ。
「フランテールと話していると、一番ほっとするよ」
殿下のその言葉を聞いた時、目の前が真っ赤になった。それは夕焼けのせいだけではない。
努力も何もしていない者がアリオン殿下の心を持っていくですって?




