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「妖精の声真似って、例えばどんな風なの?」
にこやかに笑った母がエカチェリーナにそう聞いたので、一切合切夢ではない。奇行の結果は全て自分に降りかかってくるだ。
「エカチェリーナ!婚約解消とは一体どういうことだね!」
食事の時間に遅れてやってきたグランバルド公爵は顔面蒼白だ。昨夜エカチェリーナは人形の姿でずっと泣いていたため、本体が何をしているのかを見ていなかった。婚約解消の件は父に伝えると言いながら何も言っていなかったようだ。思わずエカチェリーナの眉間に皺が寄る。
「お父様、どうぞお座りになってください。食事をしながらになりますがご説明いたしますわ。わたくしが如何に愚かなことをしたのかについて」
両親はエカチェリーナを見て、同じタイミングでお互いの顔を見合わせた。父が席に着くとエカチェリーナは語り始めた。
アリオン殿下がフランテールに惹かれたこと。
それを許せなかった自分は、フランテールにずいぶんひどい真似をしたこと。
殿下や幼馴染はずっとそれを諫めていたが、耳を傾けなかったこと。
そうしてついに愛想をつかれ、婚約を解消したいと言われてしまったこと。
あんなに怒りでいっぱいだったのが嘘のように客観的に話ができる。こうして思い返してみると、家の名に恥ずかしいことをしたものだとエカチェリーナは思う。
グランバルド公爵は黙ったまま難しい顔をしている。王家と公爵家の結婚は本人たちの好き、嫌いの話ではないのだ。
「エカチェリーナ、馬鹿なことを…」
「申し訳ございませんお父様…。こんなわたくしのしたことを、フランテール様は笑って許してくださいました」
「ああ、それは正式に家からもお詫び申し上げよう。だがそっちではなく、婚約解消に承諾したことだよ。だってエカチェリーナはずっとアリオン殿下を好きだったじゃないか」
そう言われると、今だって涙が出そうである。だけど信頼の絆は自分自身で断ち切ってしまったのだ。婚約者として挽回をするのも考えてはみたがやめた。本当に取り返しがつかなくなる前に、どうにか自分を取り戻した。婚約解消はその先に起きたことなのだから、それに沿ってみようと思ったのだ。
「気持ちとしては決まっております。ただ、結婚のお話は本人たちの気持ちだけではないことも理解しております」
「ん?ああ、いいんだよそういうのは。お前がいいようにしたらいい。王家はグランバルド家に一体どれだけ借金があると思っている」
「はあ…?」
初耳である。
「先々代からずっと毎月定額を返済させている借金だ。一括返済させられたら向こうも困るだろうからな。婚約解消の話も国王が随分畏まって話してきたぞ。馬鹿なことをしたのはアリオン殿下だろうな」
そう言うとグランバルド公爵はガハハと笑う。
それを見て安心したグランバルド公爵夫人も笑う。
自分は本当に愚かだ。
こんなにも温かいものに恵まれていて、恋の一つで全てを台無しにしようとした。
「熱いお茶を入れてちょうだい、甘いデザートも。ね、エカチェリーナ、向こうで一緒に食べましょう」
涙を流したエカチェリーナの肩を抱き、グランバルド公爵夫人はソファへ連れて行く。
母親にもたれ掛かったのは何時ぶりだろう。その反対側に父も座る。
その夜のエカチェリーナはまるで子供に戻ったようだった。




