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せっかく母上殿が選んでくれた絨毯に魔法陣を描くのはよくないということで、今日は庭で挑戦だ。


『あなたが描いたらどうなの!?』

「魔法を使うのはあなたでしょうが。ほらほら頑張って」


人形が持つと箒のように見える筆で必死に魔法陣を描く。まるで書道パフォーマンスのようだ。ちなみに美しく並べられた白タイルにばっちり黒インクで描いてるわけだが、この掃除は召使いにお願いしていいものだろうか。


『はあ…はあ…できたわ』


人形が息を切らせて筆を放り出す。お行儀が悪い。人形が描いたので最初に見た魔法陣よりもずいぶんミニサイズだ。これなら割と楽に掃除ができそうでほっとする。


『じゃあ、やってみるわ』

「どうぞ」


魔法陣の前に立ち、傍らに本を置く。手順を確認してから人形は魔法陣の中へ踏み出した。


『成功したら友人のライラとして紹介してちょうだい』

「ライラって人形の名前です?」

『そうよ』

『もし…稀なことが起きて私が消えてしまったら…お父様とお母様を大事にしてね』

「へえ」


基本、魔法が発動する前提で話すお嬢さんである。初心者のくせに。

魔法がどうにかなってここに二人でぶっ倒れることになったらどうしようかと考えていたが、夕飯前なのでメイドが探しに来るだろう。すぐに発見されるはずだ。特に備えることもなさそうなので、人形が白魔法を実行するのを見ていた。

人形が両手を上げて呪文を唱えると、黒く描かれた魔法陣は七色に輝いた。どうやら発動したらしい。このお嬢さん、魔法の天才なんじゃないだろうか。


・・・


「う…むぅ…」

「エカチェリーナ様、どうしたのですか!?」


庭の石畳に倒れている屋敷の令嬢にメイドが急いで駆け寄る。


「あら…わたくし、一体何を…」

「どこかお加減が悪いんですか!?それともお怪我を?」


むくりと起き上がった自身の目の前には直径30cmほどの魔法陣が描かれている。それはさっきまで見ていたものだと思うのだが、随分違って見える。それが見下ろす高さのせいであることにエカチェリーナは気付いた。

自分の体を見てみると人形ではない。白魔法が成功したのだ。


「わたくしやりましたのねー!」


唐突に飛び上がって喜ぶエカチェリーナにメイドは後ずさったが、最近の奇行のせいもあってさして驚きはしない。


「お元気なようで何よりです。エカチェリーナ様、お夕食の時間でございますよ」

「あら…」


人形が人間の体になったと思うのだが、そんなに元の自分と瓜二つなのだろうか。そういえば本体はどこにいるのだろうと見渡すと、足元に人形が転がっていた。


「まさか入れ替わりましたの!?」


そんな魔法は使っていないのだが、何かをどうにか間違えてそうなったのであれば儲けものである。


「ちょっと!返事なさい!」


エカチェリーナは人形を手にしたが、それはただの人形であった。


「え…?」


石畳に広げた本をメイドが片付け、エカチェリーナを屋敷に促した。


「エカチェリーナ様、参りましょう」


あれは夢だったのか。

夢だとしたらどこからどこまでが夢なのか。


わからぬまま、エカチェリーナは歩き出した。


・・・


普通に考えて、白魔法が黒魔術を打ち消したら元の状態に戻るではないか。

まったく、やはりどこか抜けたお嬢さんだ。


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