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後悔しているから、僕は全部殺す。  作者: 鬼羅
4日目、中央戦線。
37/39

詩中の暗君、嵐を歩む。




日は大分傾いてきた。

熱砂の最中、トーキは心労で眩暈を起こしながら歩を進める。

……殺人による精神の疲弊かと彼は思ったが、肩にのしかかる異様な疲労感。

「……単純なhow toは、あいつか……」

「呼んだかな?」


肩に乗って現れた自称神。

正しくは自称死神。

「ITEMの使用で、使用者は……疲労するか?」

「そりゃあまあ、異常な環境に置かれれば人は神経が摩耗するよ、それが命のやり取りならなおさらさ」

……力なく睨む。

「まあ、聞きたいのが一般論じゃないなら……人によって、ITEMによって疲労するよ……特に死因がITEMになってる人達は強く設定している反面長く戦えない」

それを聞き、一人で納得する。


「もういい帰れ」

追い出すように手を振り、砂漠を歩き続ける。

背後を照らす日は少しずつ地平に沈み始める。

リサと別れてから一時間は経とうとしている。

……吹き飛ばされて十分も経ってしまった。


焦燥感と疲労感、それらがトーキは重く息を吐く。

思えば、3rdと戦った時でさえ数分も戦っていなかった。

ユエとの戦いは彼女の疲弊による判断力の低下が勝利の大きな一因となった。

だが、程度の差はあるが彼にも同様に、平等に疲労感が蝕んでいる。


「……殺し合いの最中に襲い掛からなくてよかったが……」

息をするのも億劫になる。

徐々に徐々に、目蓋を開けるのすら重労働になっていく。

「あ……ぅお!?」

砂に足をとられ、砂山の天辺から滑り落ちる。




―――★―――




「アァ……アァ……アァ……」


炎は消えていく。

巨人の周りにいる誰もがその理由を知らない。

炎熱で身を焦がす痛みで発狂していたとしても、精神には永遠に狂わせるほどのエネルギーは無い。

融解の雨も、不浄の虹水でも、吸血の刃も全て自分の心を餌に動く。


「アアアァァァァァァア!!」


ボロボロと崩れていく、不滅の炎が、不死の巨人が、みじめに限界を迎える。

周囲にいる三人の内、アリサだけがその原因に思い当たる。

(連続使用か……そうだな、規格外すぎて意識の外にあったが……)

彼女が持っていたコンバットナイフも、掛けている眼鏡も差はあるが限界はある。

(豪く派手に長い間戦ってたせいで考え付かなかったが……さて、さて……)


抱きよせているベディは能力を発動しどうにか炎を突破した、となると残機はあと二回。

(……落ちてる金は拾うに限る、キルスコアを稼いで、ついでにあのITEMを最低でも破壊して二度と使えなくさせる)

そう決めると、視線を落としベディに囁く。

「男の能力、どっちが対応に向いてる」

「あの人は魔法を使うっぽい! なんでもできるからアリサじゃ対処できないかも」

小さく頷き、彼女はベディを離す。


「男は任せた、多分戦闘中だろうから無駄に被弾はするなよ」

「うん!」

徐々に小さくなっていく炎の巨人に、アリサは走っていく。




―――★―――




「だぁっ!?」

突如、ウィリアムの体を燃え始める。

「消せ、『暗君(キング・イディオット)』!」

黒革の手袋を炎に押し当てると、全身の炎は掻き消える。

「…………大丈夫?」

隣に座っているフミエは半分心配そうに、半分怪訝そうに尋ねる。


「僕とリチャード、ベディの残機になってるんす……ほぼ何とかできるっすから」

冷や汗を拭いながらウィリアムは説明する。

「新しい順に被害が及ぶからリチャードは最後っすけど、何もないと基本僕が死ぬんす」

チラリと、遠くに見える炎の巨人を岩陰越しに観察する。

「正直僕は大抵死なないからリチャードまでは滅多に被害は及ばないっすけど」


やれやれ、と言った感じで肩を竦めていると観察していた炎の巨人がボロボロと崩れていくのが見えた。

「……そっちはどうっすか?」

「大丈夫、上手くいってる」

「そっか、リチャードの分僕が熱かったんすからしっかり囮として働いてもらましょっす」

そう呟きながらフミエを見る。


「……ワンと今接触した、もう少し待って……最悪手出しはさせないから」

フミエのその言葉に決意をくみ取り、ウィリアムは満足そうに笑う。

もはやフミエはライラ側に寝返りが許される状況ではない、賽は振られた。

「君からITEMを奪わずに済みそうっすね」

「……しつこいよ」




―――★―――




「ぎあぁぁぁぁ、ぁぁっっ!?」


奇妙な絶叫と共に黒い竜巻は炎色に染まる。

「はぁ!?」

その変化と絶叫に一瞬だけ護衛ライラの動きが止まる。


(クソクソクソッ! 俺に回って来たってことは……ウィリアム死んだか!? それとも……アレにでも突っ込んだのかよ!)

人ひとりの命ではアレ……巨人の炎に数秒も耐えることは出来ないだろう。

(だがアレに突っ込んだならまだいい、許容範囲外の奴が俺に来ただけだ……くっそ……!)

思考を乱されつつも、巻き込んだ炎を護衛ライラに向ける。


「う、わッ!?」

「ぎょぉぉぉぅ、こぉぉぉぅ、ぅぅ!」

まさしく、この状況はリチャードにとって僥倖であった。

彼女の『矛盾(Paradox)』は『DISASTER(黒嵐)』の石の射出攻撃を防げる。

だが、炎熱はその鉄壁ともいえる防御を掻い潜る。


「このっ!」

咄嗟に突き出した拳を引っ込め防御の姿勢をとる。

同時に、黒い竜巻は殴られたように横に吹っ飛ぶ。

「んだぁぁ、ぁぁっ!?」

嵐化した身体がくの字に曲がり、炎もいくらか掻き消える。


(正直ビビりはしたが問題はねえ、風をぶん殴ることは出来ても殺すことはやっこさんじゃあ無理だってのが分かった)

思考を乱すことなく、ただただ淡々と状況を考える。

本来ならば護衛ライラとリチャードは互いに千日手にしかならない。

だが、人を三人焼いてもまだ足りない炎の巨人の炎熱がリチャードにまで回ってきたことによって、戦況は彼優位に傾く。


「しょべぇぞおらぁぁ、ぁぁっ!」

凶悪に笑いながら、護衛ライラとライラを狙う。

「この……っ!」

背後にライラを寄せながら、護衛ライラは拳を突き出し石を止める。

だが、飛ばされた火の粉は不動の姿勢をとらなければならない護衛ライラは髪を焦がす炎に顔を歪める。


(……炎、嵐、礫……どれも同時には対処できない……)

そして、護り切るにも限界が来る。

だが、自分の身を省みなければ……。

判断を下した彼女の行動は早かった。

(ライラ)!」

「うっわぁ!?」


背後の礫や炎を無視し、足を止めず走り続ける。

「な、にげるの!?」

「うるさい!」

護衛ライラはライラを叱責しながら、背中にいくら被弾しようがその手を引く。


(…………来た、良い展開だ)

嵐と化した彼の顔は、凶暴な笑みを浮かべる。

このライラ討伐作戦、最高の展開はリチャードがライラを殺害する事。

次善の策は……。




―――★―――




「殺す! 殺してやるぞ!」

男は叫ぶ。

充血した目は炎の様に赤く、その怒りは炎の様に熱く、向けている殺意は炎の様に狂い盛る。


(……炎ならウィルもリックも大丈夫、だからあの炎は怖くない)

ITEMの特性上、ボンヤリとだがベディは腕輪でつながった二人の無事は分かる。

流石に一人分では済まない死を経た以上、ウィリアムそして最悪リチャードにまで影響は及んでいると考えるは自然だった。

だがその無事を確認した以上、再度の死も二人が対処できるだろうと考える。


(なら最悪は……殺し損ねる事だけ!)

そう考え、アリベルトの傍による。


「死ね売女ッ!」

「死なないぞっ! うが―――っ!?」


一瞬で下半身が爆風に散り飛ばされるが、瞬時に復活する。

(下半身なら大丈夫っ! それにせいぜい一人分の死、ウィルで止められる!)

そのまま新しく生えた足で顎を蹴りあげると、喉を潰そうと右手を強く握る。

感覚と推測で彼のITEMの起点を見切る。


(多分だけど言葉と感情が大きなファクターなんだ、ITEMは持っているだけで良いからもう懐に隠している! 喉か舌! そこを叩く!)

そう、彼のITEM『(ゲディヒト)』は彼の放つ言葉を聴者がどう捉えたのかを具現化するもの。

怒りの籠った叫びを彼女は爆発し続ける何かをイメージし、それが具現化された。

タネが分かれば意図的に妨害、それどころか反撃にも転用されてしまう。


「足掻くなぁぁぁっ!」

「五月蠅い!」


能動的な能力ではなく受動的だと分かってしまえば彼女の最善手は耳を塞いで止めを刺すことになる。

それを察せさせずITEMの正体を隠蔽し曲解させ続けているのはアリベルトの慎重さによるものだ。

例え狂乱したとしても思考の枷は働き続ける。


ITEM本来の能力は彼の言葉から想起させられる内容を実現させるという能力であり、本を持つことも書かれた詩を読む必要も無い。

だが発言するだけでは弱い、それ故に行った演技(ポーズ)であった。

しかしもう必要ない、怨嗟を伴った言葉に彼女は実際炎のような殺意を感じたのだから。


相手の心を動かしたのなら、もはや彼のITEMの攻撃は『完了』している。

胸を刺す様な言葉に心臓を刺させられれば殺せる、胸を焦がす様な言葉に臓腑を焦がせられれば殺せる。

発せる事ができれば、聞かせる事ができれば、感じさせる事ができれば攻撃は出来る。


「死ね! 死ねッ! 惨たらしく焼かれ死ね!」

殺意の炎が敵を焼く。


「んんんがぁぁああ!!」

何度も何度もベディは焼かれる。

先程の氷や雪と違い一瞬で命が消費される為『これにて御仕舞い(SHOW DOWN)』の副次的な能力は発動しない。

つまり炎の熱も火傷の傷もアリベルトではなくウィリアムやリチャードに流れていく。

対処しきれない類の攻撃を食らえば、彼女は簡単に吹き飛ばされるだろう。


「ふがッ―――うぐあぁぁぁ!!」

心臓が吹き飛ばされるが、即座に治され立て直す。

たとえ狂乱していたとしても両手を触れる事だけは避け続けていた。

……おそらく、殺されることはないが倒しきることができない。




―――★―――




「いったた……まじ、なに……かんがえてんすか……」

本気で弱ったような声を振り絞りながら、ウィリアムはフミエに膝を借り傷を素早く治し続けていた。

「……大丈夫なの?」

「問題は無いって意味なら無いけど……大丈夫ではない、っす」


熱を持ち始めた心臓に手を添え、破裂と共に治す。

「配給がパンで良かった」

「お疲れみてぇだな?」

隠れていた岩の上から二人に声をかける者がいた。


「いようフミエ」

「ワン……違う、違うからね」

膝を貸しているウィリアムを見おろし笑みを浮かべるワンに、フミエは抗議の目を向ける。

「グロッキーなんす……借りてるっす……終わったらお返しします」

「そっちでもないわよ」


冷たい目で、彼女は二人を見る。

「こういう怒り方するタイプなんだ」

「気を付け―――ほぶッ!?」

ヘソの辺りが爆発し、辺りに臓物をまき散らす。

「……き……んぐ……『暗君(キング・イディオット)』……ぶへぇ……!」

翳した手を離せば、いつの間にかフミエの顔にぶちまけられた内臓が消えていた。


「はは、いいねぇ」

「よくないんすけどね……」

「……パンで良かった……」


岩から飛び降りワンはフミエに話しかける。

「俺も抜けたしライラ二人は死ぬ、次はどうする?」

「あぁ、えっと……確かアリサの作戦は……」




―――★―――




「ひゃっはっはっはっはっは!」

嵐がまるで殺意を孕んだように炎を纏い襲い掛かる。

時折爆裂し内蔵している石を飛礫のように飛ばしながらライラ二人を襲う。

飛礫や暴風は防げても、熱という現象だけは防御を貫く。


「死ね死ね死ね死ねぇぇ、ぇぇ!!」

狂乱する様に笑いながら二人を追い掛け回す。

(完全に後手に回った……打つ手を間違えた……)

ライラの手を引きながら護衛ライラは舌打ちする。


防げるからと立ち向かい、そして庇ってしまった。

自分が囮になれば、あるいは早々に『詐術師の人形トリックスター・ジャグリング』を奪い主人格を自分にしてしまえばよかった。

懐中時計を首から奪いとるにも二手に分かれるのも、もはやこの炎嵐には遅いだろう。

(……となると、打てる手は連れて逃げるくらいか……)

「ら、(ライラ)ぁ! 来てるってぇ!」

「知ってるよ……ッ!」


攻勢に出るには足を止め防御の姿勢をとらなければならない、防勢に打つためにはこちらも足を止め攻撃の姿勢をとらなければならない。

(奪った時は良い防御用だと思ったのに……衝撃以外は防げないなんて……過信しすぎた!)

自分を戒めながら次の手を考え続ける。

(……『詐術師の人形トリックスター・ジャグリング』は分身が全滅して再発動ができる……なら、私が死ねば13人の偽物を……いやまてまてまて!)

(ライラ)! 残りは!?」

「……二人」

懐中時計は分身は自分の作られた順番を、そして本人は残りの分身の人数が分かる。

……つまり……護衛ライラの犠牲はもう一人のライラの生存のせいで無駄に終わる。


(クソ……! これも過信しすぎたのか……!?)

後頭部を狙ってきた石を躱し、岩の陰に入り更に走る速度を速める。

(ワンの阿呆……逃げたのか……フミエも、ジャックも、アントニアも……私は過信しすぎたのか……?)

岩を削る石の音を背で聞きながら、護衛ライラは死に際の走馬灯めいて今までの行動を反芻していく。





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