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後悔しているから、僕は全部殺す。  作者: 鬼羅
4日目、中央戦線。
34/39

血の雨に、虹を描き。





破裂、また破裂する。

その度に、辺りに虹の飛沫が弾け飛ぶ。


「ああ、不味い!」

その最中、アリベルトは錯乱したように叫ぶ。

目の前には凡そ三メートル四方の大きさの氷塊が鎮座していた。

……その中に、気づ付けない様に半径一メートルほどの空気の層に閉じ込められたベティ。

その氷が今まさに、虹色の浸食を受けている。


氷の檻は壊れるだろう、彼女も解放されてしまうだろ。

彼が迷っていたのは、次の行動だった。

……つまり、距離をとるべきかどうかだ……。


距離をとれば、彼女の能力の対象から外れられる可能性がある。

そう、可能性だ。

もし距離が関係せずどこまでも彼を苛むとすれば……簡単には動けない。


「ああ、不味いなぁ!」


それに……聞く対象を完全に閉じ込めてしまったことが、最大の落ち度となった。




―――★―――




「よし、よし……」

静かに、現在の惨状をユエは笑う。

これで自分とカリンは十分に稼いだだろう。

適当に同行者を集めれば、命の安全は確保されたも同然だ。

「……ちゃんと、私が使う……」


ふと、袖が引っ張られる。

ライラだった。

「……ユエちゃん……」

その指先には……一人の青年が見えた。


「ありがと」

それだけ言うと、腕に巻いた包帯を軽く振るう。

……不浄な液体が染み出し、彼女の腕を覆う。


「……アレの親玉か……!」

そう言い、青年……トーキはITEMを構える。

よく観察し、次の手を考える。

(チラっと見ただけだが……破裂と同時に膨れた体積分だけ消滅……飛沫でさえ危険……?)

そこで違和感に気付く。


(こんな奴が中央に来たか……?)

そう、居なかった。

では……。


「ッぶねぇ!?」

大きく一歩後ろに跳ぶ。

同時に、ゴボゴボと虹色の水溜りが噴き出ていた。

「奇襲、失敗」


残念そうなユエの顔を見て、彼は理解する。

(そうだ、水の潜行で中央を攻撃した……どのくらいの精度かは分からないが、常に足元は気を付けるしかないな)

幸いにも寸前の兆候は感じられた、微かな音と足元の砂が持ち上がる感覚。

砂漠と言うのがトーキを救った状況になる。


(あの水の粘度は高い、腕を振るって飛沫を飛ばすと言うのは攻撃手段にはならないだろう)

腕から滴っている様子を見ながら、得られる情報をできるだけ掬い取る。

それができなければ、トーキの手札では対抗するのに貧弱すぎる。

(考えろ考えろ……くそ! あれ渡さなきゃやりようはもっとあったかも知れん!)


小さな後悔を抱えながらも、彼は必死に脳を回転させる。

(勝てなくはない……が!)

この勝利を手に入れる事よりも、さらに大きな目的があった。

大事、所詮ここで一勝や二勝する事よりも、圧倒的な大事がある。

(リサ……リサは居ないのか……!)

最悪とすれば、この二人に殺されていること。


(……死んでいると仮定し……俺はどうする……取り入るのが次善か……)

だが、ここで彼の思考は一度切り上げる。

「っち!」

「クソ!」

今度は二つ、トーキの左右に水柱が噴き出る。

同時に虹色の液体に包まれた腕がトーキに迫る!

(甘い! 馬鹿か俺は! こいつ等に俺は必要ない! 甘すぎるぞ!)


甘さを捨て、彼は戦意を滾らせる。

(水柱の角度は調整できない、出来ていたらもう少し傾け左右の動きを封じるんじゃなく水柱で挟撃していたはず)

勝つためではなく、負けないよう思考を巡らせる。

(潜行の角度は多分自由……最悪を想定すればだが……射程は分からない、最大はこの地点から中央までと考えていい)

更にユエに切りつけながら、必死に頭を回す。


(量に比例し距離も伸びると仮定……それなら、落ちてく雫を見れば……そうか!)

その瞬間、トーキは行動を起こす。

「おおおお!!」

今までの切りつけ攻撃とは違い、大きく一歩を踏み出した上段からの振り下ろし。

「うわっ!」

ユエは辛うじて回避を成功させ、大きく三歩後退する。


踏み出した彼は砂に染みていく雫の辺りを刃で突き刺す。

「……思った通り」

引き抜くと微かにその刃には虹色の水が付着していた。

彼の予想通り、ユエは水を小出しに足元に溜めていた。


(となれば、攻略法は一つ! 一所に留まらせない!)

先程の仮定を踏まえれば遠距離での対処は困難になり、トーキの離脱は容易になる。

だとしなくとも、物量攻撃を防げるのは大きい。

「はぁぁぁ!!」

「く、ぅ!」


そうと決めれば、トーキの行動は早い。

せめて重傷、それならば遠くのライラを警戒しながらでも離脱は出来る。

そうでなくても逆にユエに諦めさせられれば目的は達せられる。

あくまで合流、あくまで救出がトーキの目的。


「うおおお!」

裂帛の気合と共に、連続で切りつける。

だが……。

「あ、ぶね!」

それを取り止め、トーキは一度刃を消す。

と同時に、刃を覆っていた虹色が砂に落ちていく。


「あの時か……」

先程調べる為に突き刺した刃に付着していた虹、気付かなければもしトーキの目の前で弾けていれば危険だった。

「…………ばぁ、か」

微かに、彼の耳にそんな言葉が届く。




―――★―――




「…………リンジィ、まだ離れるなよ」

コートの中で小さく返答が返ってくる。

巨大なスライム、そして炎の巨人。

その二つから離れる様に、ザンは森の中を歩いていた。


……巨人はスライムを消滅させたのち、緩慢とした動作で中央へと歩き出している。

「今回の戦闘はこれで終わりだろうな……」

「そう、だね……流石にこれを倒せる人は少ないよ……」

リンジィとほぼ同意見ながらも、ザンは自分ならどうするか考える。


このゲームは90日の生存の方が、一人を殺すよりもずっと重い。

もしザンのITEMがあの炎の巨人を倒せる物だとしたら、この状況で攻撃はしない。

生存を選ぶために、あえて見逃す。

(……炎の巨人は無茶苦茶強いが無敵じゃあないだろう……だとしたら、排除のために狙われる危険性がある以上俺はしない)

つまり、ITEMの効果の隠蔽と警戒されることの回避。

……ザンの考えからすれば、黒いスライムを倒す必要も無い。


それ程に他者の警戒対象になるのは、よほどの者ではない限り避けるのが定石。

「……ザン?」

「考え事をしてた、なんだ?」

「ううん、皆と合流したいねって、それだけだよ」

「……ああ、そうだな」




―――★―――




9thは息を殺しながら、戦闘を眺める。

些事を任されたと不満げだったが、それでもこの状況は愉快に相違ない。

ITEMで記憶は奪われたが、それでもこのスリルに身体は熱を帯びる。

自分は以前スリルを楽しむ性格だったんだろうとふと思う。


氷から脱出した少女と、対峙する青年。

先程見た通り、なにか大きなことを少女は狙っている。


(それはそうと……すこぉし、変だ)

当初9thはあの本の詩を読み上げることで効果を発動するものだと予想していた。

だが、氷に閉じ込めた途端追撃を行えないような焦りをしていた。

そこであのITEMの重要なファクターとして「聞かせる事」が重要だと思ったのだが……。

(何故今さら詩を……? 態々待つ必要は)


未だに少女は氷の檻の中、音は聞こえないだろう。

その状況で詩を読み上げるなら、先程の仮定は破綻する。聞く者がいないのだから。

先程まで彼女(9th)も一応聞いてはいたが、それに気付いたというわけでもない。

いつも通り彼女は透明で活動しているのだから、発見は容易ではない。


(…………もう一人仲間がいる?)

そこからの理論の展開は早かった。

あの詩はある程度効果を操作できる、他者の透明化も難しくは無いのだろう。

戦う前に戦闘能力の無い仲間を透明化で逃がしたのち、援護の為に近くに寄らせた。

(てことは、その子は消していいよね?)


彼女に与えられた役目は戦闘要員の補充と、ライラと言う少女のITEMの奪取ないし誘拐。

そのどちらにも入らないなら、潜んでいる一人は殺害しても問題はないだろう。

(……持たされたのは二本、欲張りは駄目だよねぇ)

エリナに持たされた『堕天矢(フォーリンラブ)』の桃色の矢は二本。

流石に敵同士を仲間に引き込むのは今後軋轢が生まれる、余計なリスクを負うのは避けたい。


(……さて……汎用性は男の人だけど、未知数なのは女の子か……触るのを狙ってるみたいだけど、どんな効果か知りたいところだなぁ……)

目を細め様子を見る。

(そうだ、一人いい感じの実験台がいるじゃん)

ニヤリと笑い、無影の暗殺者は立ち上がる。




―――★―――




「……ライラ」


アリサ、リチャード、ウィリアム、ライラの四人の目の前に、一人の少女が立つ。

「……知り合いか?」

「し、知りません……」

アリサの言葉に首を振り、リチャードの背後に隠れる。

リチャードは攻撃の邪魔なのでウィリアムの方に押し付ける。


「待った」

戦闘態勢に入っていたリチャードは目を細め警戒する。

「私は文枝、貴方たちに耳よりの情報を持ってきたの」

この多人数相手に、一切動じることなく交渉を始める。


「地獄でやってろ」

その言葉に聞く耳を持たず、左手首から先を嵐に変換する。

「……ライラを知っているのか?」

リチャードを右手で制しながら、アリサは尋ねる。


「ええ、知ってるわ……本物をね」

その言葉に四人の顔つきはそれぞれ違う風に変わる。

対してフミエはその様子に内心笑いをこらえるのに必死だった。

「この中央での戦いはライラが仕組んだもの、神様にご褒美をもらうためにね」

「そこまでは聞いている」

「そう? じゃあご褒美がもらえるのは本物がいる陣営だけって言うのは?」

更に張り詰めた雰囲気に変容する。


「……でもね、ライラ一人一人性格にバラつきがある。本物の性格はお世辞にも良いとは思えない」

その言葉にライラ以外の三人は納得する。

素から仲間だったライラと今のライラ。

同一人物と言うには、外見以外少しも頷けるところはない。


「だから、ライラを挿げ替える」

「……てめぇも知ってんのか」

リチャードの発言にフミエは頷く。

以前リチャード達の仲間だったライラ曰く、複製ライラが本物を殺すことで挿げ替えが行える。

……そのライラは本物の為に彼等を分断し抹殺を狙っていたが。


「前にライラが……こっちは護衛にもう一人ライラがいるのだけれど、そのことを神様に聞いていたのを盗み聞きしたの」

「二人のライラ……なるほどな、それは本物っぽいっすねぇ」

ヘラヘラとウィリアムが笑いかけ、一歩ずつ歩み寄る。

そのまま、フミエの肩に手を寄せる。

黒い手袋のつけた方の手でだ。


「怪しい動きしたら僕が倒すっすよ、乗ってみません? ライラちゃんの為にも」

普段のウィリアムなら頷く者はいなかったが、ライラを持ち出してきたからには皆頷かざるを得ない。

「……あたしはベディを拾ってくる、岩場のエリアから出てくるなよ」

「おう、早めに戻れ」

アリサだけはベディを優先し、雪原へ歩き出す。


「それじゃあ、挿げ替えましょうか!」

そう笑いながら、ウィリアムはフミエの肩を抱きながら彼女が来た方向に歩き出す。

「……ったく、仕切りたがりが……」

すこしだけ毒吐きながらリチャードはライラと一緒に後をついていく。






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