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後悔しているから、僕は全部殺す。  作者: 鬼羅
4日目、中央戦線。
32/39

走れ奔れ、黒の群れ。





歌え(笑え)詠え(笑え)唄え(笑え)謡え(笑え)謳え(笑え)

即席で編集したが、これは強いぞ。

……強いと良いが、ちゃんと理解してくれるだろうか。


「霜は檻、雪は枷、氷の錠、冬の刑」

はは、人の為に改稿するとは……死後の世界は新鮮な事ばかりだ。

楽しい、楽しいぞ。

人を思う……ははは、あはははは!

もはや、可笑しすぎるな!


「雪花六花の断罪者、雪魄氷姿の執行者、冬月赤足の代行者」

せいぜい心に響け!

ついでに称賛の言葉をくれ!


「薪を凍てつかせ炎を掻き消せ、来たれ冬の時!」

もう出鱈目だ、理論などない。

思うまま、心のままに叫び詠ってやるとも。


(ゲディヒト)』……思う存分、暴れてやろう。




―――★―――




静かに息を吐く。

「きっつぃ……」

滝の様に汗を流し、リサは袖で汗をぬぐう。


疲労からものではなく、極度の緊張から疲労を隠せずにいた。

少しでも拳を撃ち間違えば、そのまま持っていかれるという緊張感。

リンジィの回復も、ザンに見捨てられれば危ない。


「ねえ……逃げない?」

「……下策だ、二人……三人がかりで何とかできる相手だ、散ったら確実に一人は飲み込まれる」

静かに、ザンは却下する。

「そうだね……」

「致命的な失敗をしない限りは凌ぐのは簡単だ……打開できるとしたら、キューシローとヨシヤ……ピーター辺りでも良いが、加勢が必要だ……アズミはどうだ、期待できるか?」


その言葉に、リサは間髪入れず答える。

「打開は出来ないかもしれないけど、トーキは来るよ、優しいから!」

「そ、そっか! やったねザン!」

「……ああ、そうだなリンジィ」

黒いスライムの触手を拳ではじきながら、また後退し距離を保つ。


殴られた黒いスライムの表面には激しく波打ち、そのまま反対側に飛沫として衝撃が逃げていく。

何度も何度も、浜に打ち上げあられる波の様に二人の剛力は逃げていく。

何十回目の攻防で、傷はともかく二人の精神力が削られていく。

積まれた石を横からの風で崩されるように、無駄だ無駄だと宣言されるように消耗していく。


「……く、そがッッ!」

伸びてきた触手を手刀で叩き落す。

……だが、切り落とされた触手は土を飲み込み大きくなりながら本体に戻っていく。

「切り落としても駄目、か……」

「ほぼ無敵だね……いや、熱とか試してないけど、パンチキックじゃあ無理かもね……」


そうしているうちに、黒いスライムは鎌首を擡げ触手は一転し静かに三人を狙う。

「……ウォーレン、死ぬ気で躱せ……できれば、リンジィを守ってくれ」

ザンのそんな言葉に、リサは少しだけ笑う。

「オッケー……生き残るよ……ッ!」


「がぁばぼぉぉぉおおおおっっっ!!」

太陽を背に、三人に向かい凄まじい勢いで黒い触手は襲い掛かる。

それとほぼ同時に、リサが地面を蹴る。

「おおおおおっっっりゃぁぁぁああああああああ!!」


いの一番に飛び出したリサに、ザンは一瞬行動が遅れる。

「―――ッ!」

だが、意図を察しリンジィを抱き距離をとる。

「リサちゃ―――ッ!?」

一気にザンとリサの距離はなれていく。


「だぁぁっっっりゃぁぁぁぁ!!」

渾身の一撃が、黒い触手と衝突する。




―――★―――




「あれ、は……っ!?」

トーキは、何度目かのスライムの攻撃の瞬間、よく効いた掛け声を耳にする。

……間違いなく、リサの声だった。

そして、一秒にも満たない後、轟音と共に何かが衝突した音がする。


「……思い切り吹っ飛ばされましたね」

「あの、あのっ、あの……あの馬鹿っ!」

あまりの出来事に、トーキは思わず大声になる。

そんな様子に、キューシローは思わず噴出しそうになる。


「……ど、どうする……トーキ、くん……」

ヨシヤの言葉に、トーキは目を細め思案する。

「俺は追う……暫くはお互いバラバラだろうな」

少しだけ笑い、二人から離れようとする。


「……マリアとザンによろしく言っておいてくれ」

「ええ、また今度」

短くそう言い、マリアが吹っ飛ばされた方向に走っていく。

……途中で足を止め、二人に振り返る。


「これ、いるか?」

彼が持っている西洋剣を掲げる。

「黒いの倒してくれるんなら、俺も嬉しいんだが」

「……では受け取ります……またお会いしたら、返しますよ」

キューシローがそう笑うと、トーキは彼等に投げ渡す。


「上手くやれよ! 後返せよな!」

「ええ! それでは!」

二人が走り出したのを見て、トーキも走り出す。

「……駄賃にしては、少し気前が良かったな……」




―――★―――




「ぅぅぅぅぅうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!?!?」

回転する天地の端に、徐々に地面が近くなっていこくとが分かる。

「ああぁぁぁあああああああっっっ!?!?」


森のエリアから砂漠のエリアまで吹き飛ばされ、そのまま砂地にクレーターを作る。

「あ、へぶっ、ぷぎゃっ!?」

そのままゴロゴロと三回ほど転がり、やっとリサは停止する。


「げほっ、げふっ、ごほっ!」

36倍にも強化された肉体でも、ぶち当たった右手の拳が折れ呼吸も困難になる。

「げっ、げほっ、ごっほ!」

綺麗な金髪は砂だらけになる。


「い、たい……痛い……う、ぐぅぅっ!」

呻くように辺りを転がりながら、決して意識を手放さない様に歯を食いしばる。

歯が咬合力で罅が入るが、素早く修復されていく。

拳も徐々に治っていくが、激しい痛みが鈍く伝わっていく。


「あ、っぶな……かった……」

もしもう少し遅く衝突していたら、加速が完了し腕が千切れるか上半身が吹っ飛んでいただろう。

涙が止められず、砂まみれの顔を濡らしていく。


……痛みに負けないよう、様々な事を考える。

ザンの事、リンジィの事、トーキの事、あの黒い液体の事。

遠くに木々の折れる音が聞こえるが、何が起こっているのかは分からない。


「痛い……痛い、よぉ……う、ぐすっ……」

だが、麻痺していた痛みが激しく彼女を襲う。

「とぉ、キ……トーキ……痛いぃ……」

助けを求める様に、小さく呻きながら子供の様に丸まる。




―――★―――




……ライラの傍らで、少女……フミエは半眼で思案する。

おそらくジャックとアントニアは死んだ、もしくは裏切った……それかそれに近い状態だろう。

そう仮定すると、現在の戦力を考える。


踏ん反り返っているライラ、特に戦力にはならない……だが、この中央の戦闘の恩恵を受ける為に生かしておく必要がある。

その傍にいる警護用のライラ、一つITEMを持たせているらしい……正直戦力としては未知数でちょっかいを出しにくい。

そして寝っ転返っているワン……本気でやれば相性勝ちできる、協力関係なら少し精神的に余裕が持てる。


踏ん反りライラにITEMを使うのを迫られた時には庇ってくれるし、性格に問題ない。

(……問題は……)

護衛ライラのITEMとその精神性が、彼女に一抹の不安を抱かせていた。

勿論事が終われば離脱するつもりだ、多くの者にライラは恨みを買っているから。

……だが、それを護衛ライラが許すだろうか。


(…………面倒くさいな……)

フミエは小さくため息を吐き、今後を憂う。

(いざとなったら、ワンと別の方向に走れば……何とか?)

そう思案しながら、一つ提案してみる。


「……ねえ、全員で近くまで行ってみない?」

おずおずとした声の調子を作り、三人に聞いてみる。

「駄目」

「素気無く断るねぇー」

ライラに即座に断られ、ワンは愉快そうに笑う。


「じゃあ、私が行く……数はこっちでそろえれば良いし、なんなら一人置いて行こうか?」

畳み掛けるかのように、本命の提案を切り出す。

「……それなら……」

「いーんじゃねーの? アンはともかくジャック完封できる奴には、程度によるが任せられるだろ」

ワンの援護射撃を内心喜びながら、平静を装う。


「……しょうがない……三分ね、三分で帰ってきて」

指を三本立てると、護衛ライラも三本指を立てる。

「分かった、それじゃあ」

スカートを翻し、中央へ向かう。

「少し、様子を見てくるわ」




―――★―――




ヒュルルルル、と何かが風切り音を鳴らしながら頭上を通り過ぎる。

「……金色の毛虫が飛んでった……」

「何言ってんだアリサ……」

阿呆を見る目でリチャードは呟く。


若干険悪な様子でいると、森が開いていく。

……砂色の地面が見え始め、反射した陽光が三人の目を焼く。

「ってて……目いてぇ……」

「……ちっ」

ライラの目を押さえながら、アリサは進む。


「やべぇな、あの真っ黒消えてチラホラ戦闘を始めてやがる」

「それよりもここは開きすぎてる……岩場のエリアまで走るぞ」

ライラを抱き寄せ、砂漠の砂を踏み歩く。


……するとそこで、三人は中央の何かに目を取られる。

しかし、二人は足を止めず走り抜けようとする。

「見たかアリサァ!?」

「見た!」


一拍おいて、リチャードは叫ぶ。

「なぁんであんなところに陽気な虹色のバランスボールがあるんだよ!」

「バランスボールにしては少し大きいな……何にせよ、綺麗な虹色じゃない……絵の具を混ぜこぜにした黒い極彩色の何かだ……っ!」

砂漠を駆けぬけ、三人は走る。


どこからかやって来た巨岩を黒い嵐で弾き飛ばしながら、どうにか無傷で踏破する。

「……内側のギリギリまで寄っていて助かったな」

「おーぅ、ホントは中央突っ切ゃぁ早かったんだけどな……流石に、きっついな、凌ぎ続けるのは」

息を一つも切らせていないのを見て、ライラは肩で息をしながら愕然とする。


「ご、ごめん、なさい……」

「ぁん?」

不思議そうに、首をかしげる。

「や、役に立てなくて……せっかく、ITEM、もらったのに……」

詫びるように、頭を下げる。


「……ウィリアムよりゃマシだな、頭下げられるのは」

「だな、ベティより働かねぇ癖にえらそーだからな、あはは!」

励ますようなアリサの言葉と、茶化すようなリチャードの笑顔に、少しだけ脱力する。


「おっとぉ? なんだか僕の悪口が聞こえたようっすけど?」


突然の接近に、ライラは身構える。

……だが、二人は構えない。

頭に疑問符を浮かべていると、岩陰から黒髪で茶色のジャケットを着た少年が現れる。


「新しいライラちゃんっすね? ウィリアムって言います」

人懐っこそうな笑みで手を差し出す。

「よ、よろしくお願いします……」

おずおずと手を伸ばし、彼の手を握る。

「……わー、なんか、失礼っすけど……その顔で小動物みたいな言動だと、キモイっすね」


パーン、と軽い音が鳴る。

「ウィリアムよぉ……言葉選べないんならその口引き裂くぞ」

「やー、暴力反対っすアリサちゃん……悪かったっす!」

「……ふふっ」

そんな、場違いに明るい彼に少しだけ笑みがこぼれる。

「さて、僕を回収してくれましたし、残りは……そう言えば今までのライラちゃんはどうしたんすか?」

不思議そうにリチャードとアリサに尋ねる。


「黒い変なのに飲み込まれて死んだ」

「これから私達はベティを回収する」

二人は簡潔に説明する。

自分が死んだ、という言葉に少しライラは動揺する。


「このままグルッと雪原まで歩く、引き返すのは遠慮したい」

嫌そうな顔でアリサはウィリアムに説明する。

「了解っす、行きましょうか」

陽気に、ウィリアムが先導する。




―――★―――




「ぎゃはははは! ぶっ飛んだなぁぁぁ、おぉぉぉいっっ!」


黒く濁った視界の中で、弾き飛ばした少女を嗤う。


「ひっ、ぎゃははっ! あはひゃはははは!!」


狂笑していると、ふと冷静になりあたりを見る。

球状に辺りの風景が映し出されているが……金髪の少女に気をとられ、小さい女の子といかつい顔の男が消えた。


「あぁっ!? はぁぁ!? ざけんなおらぁぁぁぁっっ!!」


癇癪を起こしたように、黒い触手を木々に打ち当てる。

視界の端に奇妙な服装の少年が二人映るが、激昂した彼の目には入らない。


「ああぁぁぁぁ!? うおおぁぁぁぁっっっ!!」


獣のように、化物のように。

彼は狂気と暴力を撒き散らす。


……『有象無象の黒群(レギオン・ブラック)

彼の血の代わりに体内に流れている粘性の高い下水が、悪臭と暴食を持って死を振りまく。

木も土も肉も血も、触れれば何でも飲み込める。

だが高い粘性で防御力を得た代わりに、衝撃に弱い特性を持っている。


以上が彼の知りうる特性であり……この狂気は、彼の生前の仲間達の持つ、狂気に近い生の渇望と飢えの恐怖の付与。

それが、彼を異常なまでに蝕み、彼はそれを振りまいた。

故に、一つ目の異常には気づかなかった。


「……ぁぁぁあああ!?」


目の前に、火柱が現れる。

目の前と表現したが、彼の黒い下水からの視点であり、実際にはかなり離れている。


「あぁぁぁっっ!? なぁぁんだぁぁ、てんめぇぇぇぇっ!!」


一人、威嚇する対象には水に沈んだ様な声でしか届かない咆哮を行う。


……徐々に火柱は太く、長くなっていく。

炎の先は五つに枝分かれし、まるで手の平の様に変形する。


「じょぉぉぉぅぅぅううううとぉぉおおおおだぁぁぁ!!!」


めい一杯黒い下水の触手を伸ばし、絡め、太くする。

地面を食い、木を食い、肥大化させる。


彼は気づかない。

その変化は、二つ目の変化だと。

背後の一つ目の変化に、もっとも広い視野を持つ彼は気づかない。


「ぶっ殺してやんよぉぉぉぉぉっっっ!! 『有象無象の黒群レェェェギオォォン・ブラァァァッック』」






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