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後悔しているから、僕は全部殺す。  作者: 鬼羅
4日目、中央戦線。
31/39

踊る人形にこそ、戦いと栄光を。





「……ジャック、遅い」

苛立たし気に、ライラ頭を掻く。

傍にいるライラはジッと周りを警戒し、女性は静かに木に寄りかかっていた。

もうの一人の男性は、寝転がって休息をとっていた。


「アントニアがいて、手綱を握り切れず暴れるってことは、無いはず……」

「……戦っているんでしょう? それで撒こうとしているんじゃない?」

「もしくは、死んだとかだな!」

木の方向と足元から、そんな意見が飛んでくる。


「……く、っそ……アントニアが死ぬのは、困るな……」

「死んだだろ、真っ先に死ぬぜアイツ」

「……まあ、アンは戦闘に巻き込まれたら、逃げられはしないでしょうね」

二人の意見を聞きながら、ライラは頭を悩ませる。

……傍に立っているライラは、その様子に目もくれず警戒を続けている。


「逃げる?」

「それをやると、カミからボーナスが貰えない」

「……まあ、死んだ分を俺らで山分けって話しだからな、分け前が増えたって喜んでおこうぜ」

前向きに努めようとする彼に、ライラは少しだけ納得しかける。

……四人は万が一帰ってくる可能性のある二人を待つため、その場から動けないでいた。




―――★―――




徐々に膨れ上がる虹の球体を見て、ウィリアムは焦りを感じていた。

ジャックとの戦闘で少しくらいは疲労感は感じているが、問題は無い。

問題は、あの虹の対処をどうするか、だ。

(……なんなんだ……あの虹の玉……)


放置するのはマズいのか、それとも下手に刺激するのがマズいのか。

両方か、それともまた別の能力を持っているのか。

とりあえずわざわざ危険を冒すこともないと判断し、アリサと合流をはかる。


「虹の玉っていうより、膿っすね、あの毒々しい見た目は……」

小走りにその場から離れようとする。

……その間にも、その虹の玉は模様を徐々に変えながら膨れていく。




―――★―――




トーキは一瞬虹の玉に目を奪われかけたが、そのまま走るのを再開する。

「絶対無理だ、アレは触っちゃダメな色だ……」

直感にしたがい、リサへと走り出す。

「……離れた方が良いな……」

そんなことを考えながら、微かに見える黒い塊へと走り続ける。


「やっと辿り……おぉ!?」

黒いスライムは接近してきたトーキに対し、鞭の様に触手を振るい叩き潰そうとしてくる。

間一髪でこん棒の様に太い触手の攻撃を躱す。

……抉れた地面の深さを見て、冷や汗を流しながら一歩距離をとる。


「敵意満々、だよな? まさか無差別に攻撃するナニか……っていう可能性もあるか……」

少しだけ自身を無くしながら、西洋剣……『決闘を、そして(エスポワール・)二人に栄光を(ギヨッティーナ)』を構える。

「……おおっ、敵意満々だなぁ!」

ITEMの能力が反応しているのを感じ、ニヤッと笑う。


再び振り下ろされた黒い触手を、幅広の刃で両断する。

触手はそのまま完成の法則で森の向こうへ吹っ飛んでいく。

「このまま叩き切る……のには、これはデカいな……」

黒いスライムを見上げながら、次の攻撃に備える。


「真反対に二人がいるのか……? それだとしたら、ちょっと面倒くさいな……」

そう思いながら、一歩後ろに下がる。


その瞬間、何か鈍く大きな音がその黒い塊から発せられる。


数瞬遅れ、幾つもの飛沫がトーキに襲い掛かる。


「な、あ……っ!?」

突然の意識の外の攻撃に、足が棒の様に固まる。




―――★―――




「……詳しく聞かせてもらえませんか?」

彼の中で完結させていいものではない。

どういう意見なのか、それくらいは聞かせてもらえなければ僕だって頷けない。


「ふふん、聞きたいかな?」

「……君が仲間にしたいなら、言うべきでしょう」

この人は少し回りくどい。

簡潔に話せないものなのだろうか……。


「まず前提から話そうか、このゲームは敵を殺し合うゲームじゃない、期日まで安定して生き残るゲームだ」

「……確かに、『なんとか狂騒』相手がいないのは厳しいですからね」

よほど深刻なものでもない限り、まさか365日戻りたい者などそうはいないでしょう。

「それに何人か寄り添って進めないと、流石に厳しいよ、四六時中警戒するのは」

「そうでしょうか?」


「話しを戻そう、つまり僕たちはなるべく仲間を集め、安全に目標を目指し、そして安全に身を守る」

……なるほど?

「それじゃあ、彼は信用足る人物で、仲間に入れても良いと?」

「そう、しかも彼は……人を多く殺せるほど悪人じゃない、小物さ」

確かに、立ち居振る舞いは……虚勢だと言われても、納得は出来ますね。


「だからさリーダー、彼が満足いくまで殺したらさ、保護する名目で戦力を確保しよう」




―――★―――




色付きの、浅葱色の風が弾幕の様な黒い飛沫の中を走る。

そのままトーキの襟をつかみ、飛沫の弾幕から避難させる。

「……危なかったですね、安住さん」

一先ず危険地帯から脱したキューシローは、静かに笑いかける。


「お前……キューシローだったか……マリアとは?」

「いえ、丁度すれ違いになってしまったみたいですね……」

黒いスライムには目もくれず、自分が来た道を見つめる。

……少しだけ逡巡し、歩き出す。


「ザンと合流する前に、仲間を拾います……その間、何をしたいか聞いても?」

「ああ……このITEMを届けたいんだ、試し切りして、有効だと分かったからな……」

その言葉を聞き、チラリとトーキが持っている西洋剣を見る。

小さき頷き、視線を黒いスライムに移しながら歩調を早める。


「おそらく今の攻撃は、反対側にいるザン達三人の攻撃の衝撃でしょうね……触手でうまく誘導されていました」

自分が上手いように誘導させられていたと伝えられ、少しバツが悪そうな顔をする。

「四人……まあ、実質三人を多角的に処理できる、あの黒い水の方を褒めるべきですね……」

トーキを少しだけ励ましながら、目の前に見えて来た仲間に駆け寄る。


「リ、リーダー……誰、だい……そこの人……」

「ヨシヤ、この人は安住さんです……ピーターが行きすがら説明した……」

「……あ、ああ……言ってたね……よ、よろしく……」

オドオドとした印象の少年に対し、トーキも頭を下げ挨拶をする。


「……それでは……ヨシヤ、念のためマリアとピーターを回収してきてください……連れて帰るなら、僕より適任です」

その言葉を聞きながら、ふとトーキはキューシローの腰に佩いてある刀に視線を落とす。

(高速移動が能力なのか……? 連れ帰る……さっきの俺を助けるのが限界だとしたら、持てる人数や重さ……それに発動時間が問題なのか……?)

敵になるかもしれない者に対し、警戒を怠らず観察や考察をする。


「わ、分かった……遠くから、回収するよ……戦闘には、巻き込まれたくないしね……」

そう言ったヨシヤは、草を踏みながらマリヤは先程の女性……アリサが走った方向に向かう。

「さて、これなら余計な警戒をする必要はありませんね?」

ニコニコとそう言ったキューシローを見て、トーキは冷や汗をかく。

「……警戒を解くには、まだだ……」

「ふむ……流石に一対一程度では心を許してはくれませんか……まあ良いでしょう、僕は少し離れます」

笑顔を崩さず、刀の間合いから遠のく。


「僕は、貴方に信頼される仲間になりたいです……まあ、貴方が僕に頼りたくなったら来てください……待ってますので」

そう言うと、早速走り出す。

「このまま沿って走れば、ザン達に会えるでしょう」

「……そうだな……」

少し後ろを、トーキは距離を保ちながら走る。




―――★―――




アリベルトは劣勢に陥っていた。

徐々に、徐々に。

アリベルトだけが押されていた。


(マズいな……私の『(ゲディヒト)』が効かない……いや、それよりも……っ)


バックステップしながら、雪の刃をベティに振るう。

それに対し、ベティは手の平で受けて致命傷を避ける。

……ほぼ同時に、アリベルトの手の平に一筋の切り傷が出来上がる。


(どう攻める……外傷を伴う攻撃では、この女史には太刀打ちできない……っ)


対してベティは、青い顔をしながら距離を詰め続ける。

いつ攻撃を行われるか分からない恐怖を押し殺しながら、どうにか歩き続ける。


(痛い痛い痛い痛い痛い……っ、は、早く……移さなきゃ……っ)


涙目になりながら、手の平での防御の構えを続ける。

実際に涙は流れ、本当なら絶叫しているところをどうにか押し殺す。


(常に接近を図る、痛みを伴わない傷、傷が消えるが悶える表情……十中八九、痛みは接触で移されるだろうな……)


流れる血や開いた傷を眺め、苦悶の表情のベティを見る。

消耗で言えばアリベルトだが、精神面では優位に立っている。

ITEMの性質、そして自らのITEMの奥の手。

この二つの優位性をもって、劣勢だがアリベルトは冷静さを保っていた。


(攻撃は続けなければならない、痛みで怯むのは彼女だけ……怯える表情は可哀想だが、精神的に折れてくれれば……詩を読める……)


外傷を伴わない攻撃ができる詩の頁を開き、いつでも読める様にする。

雪の刃の間合いに来れば、彼の致命傷にならない程度に刃を振るう。

ベティの肩に切り傷ができ、その直後にアリベルトに傷が移る。


(い、ぃぃぃっ!? 痛いっ、すっごく、痛いぃぃ……っ!?)


脂汗を流しながら、ベティは絶叫をかみ殺す。

痛みで歩みの速度は落ちるが、それでも諦めず進み続ける。


(あの白い刃を別の……良くは分からないけど、雪を他の用途に使われたら、マズい……)


涙を流しながら、アリベルトへ手を伸ばす。


(……諦めの悪い……詩を詠うには、雪の刃を解除するしかないが……絶叫を噛み殺せなければ、コッチの負けだな……)


油断なく、距離をとり続ける。




―――★―――




「ねえねえユエちゃん、そろそろかな?」

「……そろそろだねカリンちゃん」


子供の様に話しかけるカリンに対し、ユエは静かに中央を見つめる。

……一メートル程に膨れ上がった虹の球体は、今にも破裂しそうだ。


「ふふふ……カリンちゃん、こっからさきはショッキングな映像をお送りするからね」

「……こ、怖くなってきちゃった……」

今さらになり、カリンのITEMの怖さを思い出し顔を青くする。


「あんまり見せたくないんだよね……あの使い方、ちょっとだけだけどね?」

少しだけ顔をうつ向かせた後、ユエに笑いかける。

「……うん、監視は任せるよ……」

そう言った彼女の複雑さを察し、ライラの方を見る。


「ライラちゃん、私も見張るよ……熱くない?」

「……大丈夫です」


……背後の二人を見ながら、カリンは虹の球に視線を戻す。

(多分一番被害が出るのは……気が結構生えている雪のエリアと、森のエリアかな……)

砂漠の地点から、出来るだけ周りの状況を観察する。

静かに、だが確実に。

遅々と、しかし徐々に。

毒々しい虹色は膨れていく。


(……最適なのは、破裂後にカリンちゃんか……)

どこか悩まし気に、最適解を想像する。




―――★―――




「ピーター……ッ、ピーターってば!」

千切れかけた首を、絵筆でつなぎ合わせる。

……だが、マリアの呼びかけに一切反応を示さない。


肩を揺すり、呼吸を確認する。

……どうやっても、反応は無い。

「この……ッ!」

パイプから気つけ薬の様な刺激臭の放つ桃色の煙を作り出す。


……だが、それでもピーターは動かない。

「う、そ……っ!?」

手で口を抑え、声にならない悲鳴を上げる。

「嘘、嘘でしょ……ピーター……ピーター!?」


その身体にいくら触れても、彼の名は浮かび上がらない。

明らかに異常な状態に、彼女の頭の中には最悪な答えが浮かぶ。


「死んでるよ、ピーター君は」


朝の挨拶の様に軽く、自称神がそう告げる。

「ITEMがその死体に干渉しているから、消滅していないだけだよ」

ニコニコと笑顔を崩さず、冗談でも言っている風に話し続ける。

「……使わないなら消そうか?」


「貴方が消えて!」

肩を竦めながら、自称神はその場から消える。

……残されたマリアは、涙を拭いながら地面に穴を描く。

「……さようなら……ピーター……」


ゆっくりとその身体を穴の中に入れ、絵筆を振るい土をかぶせる。

「…………ザンと合流しなくちゃ……」

涙を拭いながら、ゆっくりと遠くに見える黒いスライムに向かう。




―――★―――




森を大回りに進み、敵を避けて歩く。

「アリサよぉ、ウィリアムは生きてるかね」

「……しぶとさは評価できる、後は相手との相性だ」

冷たくそう言いきり、ライラの手を引きながら警戒を続ける。


「にしてもいい拾い物だよな」

ニヤニヤと笑いながら、リチャードはライラの髪を乱暴に撫でる。

「や、やめてくださいぃ……」

ビクビクと怯えるライラを見て、手を引いているアリサは気持ち悪いものを見るような顔つきになる。

対して、リチャードは可笑しそうに笑う。

「私はライラのこと……気味の悪い奴だとは思ってたが……気味悪くは無いが気持ち悪いな」

辛辣なアリサの言葉にライラは涙目になる。


「……そうそう、ライラだライラ」

「あのクソ女……」

怒りが沸々と湧き出し、アリサは見るからに不機嫌になっていく。

そんな様子に、ライラだけでなくリチャードも冷や汗をたらす。


……しかし臆することなく、彼は話を続ける。

「なあライラよ、お前のそのITEMの効果を言ってみろ」

胸元のロケットを指差す。

意図が分からないまま、彼女は説明し始める。


「えっと、分身を作って私を13人に……」

その言葉とともに、アリサもリチャードも思わず噴出す。

またもや意味の分からない状況に、オロオロとする。

「ひひひ、だーめだ、笑いがとまんね、ひひひひひ……ッ!」

笑い声を抑えながら、近くの木をドンドンと叩く。


「私達にも同行していたライラが居た、そいつの説明ではこうだ」

笑いが止まらないリチャードを尻目に、唇を引く着かせながらアリサが代わりに答える。

「分身を13人作るITEM……つまり、14人目がいて、それこそがライラってわけだ」

「え、へ……え?」

その言葉に、ライラは唖然とする。


「私達のライラはな、別のライラが死んでるのを見たそうなんだ……それで、ロケットを確認した」

少しだけ顔色の悪くなったライラを無視して、嗜虐的に笑いながらアリサは説明を続ける。

「……お前らは現在の分身の数だと、何故か思い込んでいるらしいけどな?」

アリサはライラからロケットをとりあげ、中の13分割された文字盤を開く。

……針は5をさしている。


「私達のライラは12をさし、死んでたライラは13をさしていた……く、くく……」

笑いを堪えきれず、喉が鳴る。

「……っく……つまり、お前は5番目に作った分身だ……分かったか?」

「……え、え……あ、ぁ……な、にを……」

現実を受け入れられないまま、口をパクパクと開閉を繰り返す。


……笑い終えたリチャードが、慰めるように切り出す。

「まあ落ち着け、俺たちは聞いたんだ、自称神にな? 本体が死んだら分身のこいつはどうなる? ってな」

ポンポンと、肩を叩く。

「死んだら分身は道連れ……だが、分身が殺したのならスコアを受け継いで本物に挿げ替えられる」

希望を示す司祭のように、薄っぺらい慈愛の表情をリチャードをライラに向ける。


「ライラの阿呆は主従交代よりも自分のスコアを優先して俺達を殺しにかかった、お前はどうする?」

耳元で、囁くように提案する。

反対に、アリサは淡々と言い捨てる。

「ライラ本人は契約したんだ、この戦闘を起こしたボーナスをな? それで私達にこう言った」

どこか怒りも含んだ声色で、アリサは続ける。


「本人がいる集団にあげる約束らしい……言いたい事はわかるな?」

「お前を本物にしてやる、ついでに俺達がそのボーナスを奪う」

二人の凶悪な表情に、ライラは飲まれかける。

……だが、その顔はゆっくりと変わっていく。


「……わ、私……本物になりたいです……」


「いい子だ、ライラ……お前こそ、本物に相応しい」

まるで婚姻を契約するかのように、彼女の指に指輪をはめる。

「やろうぜ、俺たちと一緒によぉ」





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