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後悔しているから、僕は全部殺す。  作者: 鬼羅
4日目、中央戦線。
30/39

殺意を乗せて、血を巡らせ。







「っらぁぁぁぁぁ!!」


放たれたストレートは一直線に進み、ウィリアムの背後の木を貫く。

進んだ、というよりもそれは……伸びた、と言うのが正しいだろう。

およそ拳九つ分伸びたとウィリアムは間合いを測る。


「いやぁ、真っ直ぐっすね!」

「っち、避けんな!」


ジャックがフックを繰り出すと、拳は分裂し、面攻撃に変わる。

……見えた影は八つ。

三度相手の攻撃を観察し、ウィリアムは無傷で相手のITEMの能力を見破る。


「それっ!」

フックの間合いから逃れたウィリアムは、一息で懐に入り込む。

黒い皮手袋を、ジャックの顔を掴もうとする。


「だりゃぁ!」

スウェーで上体を逸らし、そのまま顔面めがけストレートを繰り出す。

咄嗟に眼前で左腕で拳を掴む。

「ッ、ぐぁ……っと」

パンチ七つ分の衝撃が左手を伝い、そのまま受け止めた手ごと額にぶつかる。




―――『血沸キ肉躍ル(ノックアウト)

―――手甲型 所有者、Jack(ジャック) Jekyll(ジキル)

―――シャドーボクシングをした回数だけ、直列のストレートと並列のフックを繰り出せる




「ビンゴォ!」

額から一筋の血を流しながら、ウィリアムは不敵に笑う。

逆に未だ右手の手袋の正体が分からないジャックは攻めあぐねる。

「いやいや、そう縮こまなくても大丈夫っすよ……あんたのITEMには隙は無いっす」

滴る血をぬぐいながら、ウィリアムは不敵に笑う。


「ただ、それでも勝つっすけど」

「……やってみろや!」




―――★―――




走り出しながら、大きく息を吸う。

そして、黒い手帳を開き……書き込まれている詩を口にする。


「死をも凍てつかせる白よ、世界を彩る冬化粧をもって、白雪の刃を赤く突き立てろ……」


読み終えた途端、周囲の雪がベティに向かい鋭くなり襲い掛かる。

驚愕の表情を浮かべながら、彼女は後ろの木を盾にしてアリベルトを睨む。

(……もう少し、タイムラグがあればよかったんだが……)

透明化の効果が消えたのを察し、雪の刃が生み出されていくのを観察する。


(足元の雪だけを操る……でも、透明化は? もう一人のITEM?)

対してベティは、必死に頭を回転させる。

(じゃあさっきの意味不明な羅列は……?)

木の陰から観察しながら、ITEMの能力を探る。


(……雪に関する詩は後二つ……別の攻撃手段はまだあるが、能力が露見してしまう危険がある)

慎重に次の手を考えながら、距離を保つ。

その間も、足元の雪は刃になり襲い続けるが……徐々に、雪は消費されていく。


(動かない……なんで? あ、私のITEMか……じゃあ、活かさなきゃね!)

ベティは大きく息を吐き、静かに行動に移す。

瞬発力を活かし、横にある木を目指し走り出す。

「ッ!! ぬぁ!」

背中を少し掠るが、問題なくやり過ごす。


(なるほど、照準は追っているんじゃなくて、あの人の前に撃ち出すのか……)

敵の能力を、慎重に探っていく。


(……なるほど、俺の前方に撃ち出す効果か……)

少しだけ驚きながら、アリベルトは冷静に対処していく。


慎重に距離を詰めながら、次の手を考える。

(相手に聞かせなければならない、相手がある程度想像しなければならない……この二つの条件、特に後者は恐ろしいほど俺の思い通りにはならない)

手帳を静かにめくりながら、次はどう攻撃するか考える。

詩の内容を少し変えながら、相手に対し静かに殺意を燃やす。


そして、深く息を吸う。

「終幕させるは我が白雪、吹雪となりて血を凍りつかせる、絶対零度の白刃よ、全ての命の冬をここに」

力強く読み、詩に全神経を注ぎ込む。


(また、何か話し始めた……? 警戒しなきゃ、さっきも雪が飛んできていたし……白刃で、刈り取る……接近するつもり?)

木の幹の陰からアリベルトを観察し、ベティは備える。


「……っと……」

いきなり手に現れた氷の剣を見て、思わずため息を溢しそうになる。

と同時に雪の攻撃はとまり、辺りは静寂に包まれる。


(もう少し使いやすい方が良かったが、やるしかないか……)

雪を踏みながら、剣を構える。

対する彼女も、アリベルトが接近するのを慎重に伺う。

……己のITEMを握りながら。




―――★―――




アリサは眼鏡の位置を直しながらコンバットナイフを構える。

(相手も二個持ち……しかも、形状すら分からない……分かっていることは、結構硬い)

冷や汗かき、苦笑いを浮かべる。

今は傷は無いものの、長引くのは不利だと認めていた。


何度も巨大な竜巻があがっている……つまり、あの竜巻ですら仕留めきれないなにかと戦っているのだと判断していた。

……だが、敵も相性が良いとはいえない。

(引いて戦うタイプ……接近戦でこそ『懐中殺意(マリス)』は真価を発揮できるんだが……)

渋面しながら、静かに思考を巡らす。


(一刀を浴びせて、さっさと合流するか……)

倒す事を諦め、一旦殺意を抑える。

敵の背後に見える竜巻をみながら、ルートを探る。


一方、トーキも相手の機微を感じ取る。

(効果が薄れた……と、なると……竜巻に急ぐのを選んだか)

ITEMの能力を活かし、相手の目的を推理する。


(ここで無理に攻めて形勢逆転されるのも馬鹿馬鹿しい……なら!)

意を決し、行動に移す。


「っは! じゃあな!」

そう言い、トーキは黒いスライムに走り出す。

アリサは一瞬迷うが、それでも当初の目的通り仲間の下へ走り出す。




―――★―――




「やあ、マリア……丁度良かった、アイツを煙で包んでくれ」

合流した彼女に、ピーターはそう頼む。

「みんなは?」

「あれ、行違ったのかな? まあ良いや、あの嵐燻ろう」

いつもの調子に苦笑いしながら、細いパイプを加える。


「てん、めぇ、ぇぇぇっ!」

憎々しげに叫びながら、薄い紫色の煙を掻き消していく。

「さすがの馬力だ! もっと落としていこう!」

満面の笑みで筆を滑らせ、巨石を生み出し落としていく。


「石で風を止めようとするって、結構無茶じゃない?」

「ああ、石が有限ならね」

ケラケラと笑いながら、空間に筆を走らせる。

「声がグルグルと回転している、だから見えないけどあれには口や喉……そして肺があるんだろう」

意地悪く笑いながら、黒い竜巻を見る。


「風は切れない、じゃあ止めてしまえば良いんだ」

「……それが、あの石落しってわけねぇ……えげつなぁ」

風で散らされながらも、煙の包囲網は量で圧殺しに来る。



「リィィチャァァドォォ! 生きてるなぁぁぁ!?」



「な、ぁぁ!? アリサ、ァァ!?」



「ぶん殴りに来た! 逃げるぞ!」



赤縁眼鏡でショートボブを揺らす少女が、マリアとピーターの目の前に現れる。

そして、一直線にピーターに向かい走り出す。

「―――ッッ!!」

「や、ばっ!?」


胸を狙ってきたナイフから身を守るため、咄嗟に左腕で防ごうと伸ばす。

だが、不意に視界がぐらつく。

「……あ、れ……?」

深々と右から喉に突き刺さっている白い刃が、傾いた視界の端に映った。


「ピーター!」

地面に落ちかけた首を拾い身体を引きずり、桃色の靄を周囲に展開しながら森の中に下がっていく。


その場に残った二人は、ゆっくりと警戒を解いていく。

「リチャード、お前何でライラを裏切った」

「あそこから引きずり出すのは無理だ、俺の安全と天秤にかけただけだ」

平然と悪びれもせずリチャードと呼ばれた男は答える。


「……ライラが死んだ以上この中央の戦いに首を突っ込む理由も無くなった、他二人拾って離脱する」

怒りを抑え、アリサは静かに次を考える。

そこで思い出したかの様に、リチャードはコートから指輪を取り出す。

「遺品だ」

「三個目なんかいらない」

「俺も使えねぇんだよ、コートだとよ」

そう言いながら、コートに指輪を戻す。


「で、どっち回収すんだよ」

「……弱い方からだな、死ぬかもしれないし」

「じゃあ、ウィリアムからだな」

適当にお互いの意識を確認し、歩き出す。


「……ちょい待ち、そういや……これ、拾ってこうぜ」

「へぇ……いいんじゃないか?」




―――★―――




思考を巡らせながら、トーキは走り続ける。

「見つけたぞ、俺の仕事……っ」

やや興奮しながら、トーキは音のする方へ目指す。


手に持つは『決闘を、そして(エスポワール・)二人に栄光を(ギヨッティーナ)』……このITEMを、彼はリサに渡そうと走っていた。

「何の役に立つかは分からないが……無いよりはましなはずだ……」

嵐の方も気になるが、トーキは考えない様にする。


(……このゲームは殺す事よりも生き残ることが重要だ……俺の判断は間違いじゃあない……俺お役割は、リサとザンを助けるだけ)

自分に言い聞かせるように、誰かに言い訳するようにトーキは心の中で語り続ける。

(で、この剣を渡したらどうする……逃げるか? 距離をとるか? ……マリアのところに……行くべきじゃないな)

思考を並列させながら、息を切らせながら走る。

(クソッ、シール一枚くらい借りとくべきだった!)


……不意に、視界の端に異物が目に飛び込む。


トーキの思考の隅に、虹が連想された。


「虹ッ!?」


そう、虹があったのだ。

地面に、虹のような、何かが……生えていた。




―――★―――




ジィッと、ユエは目を凝らす。

(頃合を見計らって、掻き乱された時に、カリンちゃんを有効的に使う……)

静かに、静かに、息を殺すように砂の陰に隠れ、タイミングを見計らう。


「……汗止まんないんですけど」


背後のライラはそんなユエのサポートの為、全方位を警戒する。

(流石に、自分の身の危険が迫っているなら、協力せざるを得ないはず……)

未だに完全には信用していないが、彼女はこの距離なら勝てると判断していた。


「ねえねえライラちゃん、熱くない?」


……もうじき、発動するはずだ。

心の中で、狡猾に慎重に、機が熟すのを待ち続ける。

発動して三分、それが一番場を掻き乱せる。

彼女は静かに、狩人のように砂漠の中に身を潜ませる。


「て言うか熱いんですけどー」




―――★―――




ウィリアムは、一方的にジャックを叩きのめす。

「く、そッ、がぁぁッ!?」

我武者羅に攻撃しても、ひたすら回避され続ける。


「そのITEM、長期戦向きじゃないんすよ、わかります?」

嘲るようにウィリアムは笑う。

「シャドーを混ぜさせないよう着かず離れず、んで本命は見切って躱す」

ペラペラと、挑発し続ける。


「振りで分かるし、シャドーは隙だらけっすしね、ITEMを使う必要もないっす」

「て、めぇぇぇッ!」

直列の拳を放ち、ウィリアムの胴体を狙う。

だが、薄ら笑いを浮かべながらジャックの攻撃を躱す。


背後の木は、音を立てて倒れる。

「次で仕留めるっす」

木の枝を一本手折り、見せ付けるかのように弄ぶ。


頬を吊り上げて笑うウィリアムに対し、ジャックはその顔に焦りを浮かべる。

数度のITEMの使用で、弾切れ寸前まで追い込まれていた。

(シャドーを徹底的に妨害……くそ、あんな短時間で攻略法を思いつくのかよっ!)

ウィリアムの洞察力に舌を巻きながら、次の手を考える。


(アン……駄目だ、戦えない……そうだ、フミエ!)

一瞬だけ振り向き、アントニアに叫ぶ。

「アン! フミエ連れてこい!」

力強く頷き、アントニアは後ろに走り出す。


「余所見、したっすね?」

ニタリと、ウィリアムは狂笑する。

「覆せ……『暗君(キング・イディオット)』……ッ!」

ジャックの視界が、一瞬暗転する。


「な、あぁッ!?」

暗転したのはITEMの能力ではなく、ジャックの顔面を皮製の手袋が握っていた。

「はな、せぇぇ!」

なんとか振り解き、睨み返す。

「てめぇ……何をしたっ!」

「え……?」


敵意を更に剥き出し、拳を強く構える。

接近しながらシャドーを行い、ITEMに力を補充する。

「っらぁぁぁぁあああ!!」

容赦なく、拳を振るう。


「ッ、な、ぁ……ッ!?」

漸く、ジャックの攻撃がまともに命中する。

縦に伸びる拳が腹部を抉り、そのまま背後の木に叩きつける。

(十分にチャージは出来た! このまま殴り殺すッ!)

容赦なく、ジャックは何度も何度も殴りつける。


一撃を当てれば、連続で数度の拳撃が敵を気に押さえつける。

徐々に拳の数も減っていくが、お構いなく殴り続ける。

(ここである程度痛みつけておかねぇと、マズイッ!)

メリケンサックの攻撃を容赦なく腹部に当てる、


「あはは、その子、死んじゃうっすよ?」

冷や水を浴びたように、ジャックは驚愕の表情を浮かべる。

振り返ろうとした瞬間、足を払われ地面に組み伏せられる。

「よい、しょっとぉ!」

頭を押さえつけながら、枝を頚椎に突き刺す。


「あ、ぎぁ!?」

もう一本念の為拾っておいた枝を、止めとばかりに傷口に追加しさらに深く突き刺す。

……しばし痙攣し、動かなくなる。

視線を横に移すと、既にアントーニアの死体は消滅していた。

「……ITEMのドロップは、無し……先に武装解除させるべきでしたっすね」

残念そうに言葉を漏らし、大きく息を吐く。


「さて、と……合流しますかね」

踵を返し、合流を目指す。

……ふと、視線が中央の空き地に目が行く。

「虹……あー……良くは無い色合いっすね……距離、取りましょうかね……」





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