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後悔しているから、僕は全部殺す。  作者: 鬼羅
4日目、中央戦線。
29/39

血沸き肉躍る、暗君の詩。




黒い風の塊が、ピーターを吹き飛ばす。


(マズイね、とってもマズイ)


致命傷は防いだが、彼の両腕の肉は殆どが千切れ飛んだ。

……だが、彼はその事についてはまったく焦ってはいなかった。


(何がマズイって、リーダーとヨシヤとの相性が最悪で……僕しか勝負ができない)


頭から落下しそうになるが、左腕で受身を取る。

骨が折れ、完全に左腕は使い物にならなくなる。

……だが、彼はその事についてはまったく焦ってはいなかった。


(……仕方ない、仕方ないから、頑張ろう)


残った右腕で、絵筆を構える。


「二人とも、ここは任せて先に行け!」




―――★―――




「……あの竜巻男……あっちに移動した?」


マリアは、ジッと巻き上がった二つの黒い竜巻を見る。

その方向に、彼女はほぼ直感的に危機を感じていた。


「ごめんね、ここは任せたわ……」

「何かあったのか?」

「……いやな予感がする……」


その言葉に、少しだけトーキは逡巡する。

しかし、マリアに向かい。

「ザンって奴は任せろ……って言っても、俺にできることは少ないかもしれないけどな」

「ありがとね……」


そう言い、竜巻の方向へ走っていく。

……残ったトーキは、ザン達が走っていた方向へ視線を移す。


「マジで、俺に何ができんだろうな……」


加勢する様に、黒いスライムへと進む。




―――★―――




岩陰に隠れ、ことの経緯を観察していた少年はため息を溢す。


「ライラちゃんも可哀想っすね、見捨てられちゃいましたか」


肩をすくめ、少年……ウィリアムはため息を吐く。

苦笑いしつつ、森へと降りていく黒い竜巻を見つめる。


「嫌っすねぇ、トカゲや獣じゃないのに、殺し合いは何も産まないんす」


「そう思いません?」


「ライラさん」


クスクスと笑いながら、地べたに這いつくばる少女を見下ろす。

すでに絶命しており、返事は帰ってこない。

そんな様子に苦笑いしながら、中央から離れる。


「やっぱり裏切り不意打ち上等っすよねぇ、僕ら結構仲良くやって来たと思ったんすけど」


肩をすくませ、さらに距離をとる。

他の二人の死体は、既に消滅しており、ライラの死体のみがそこに転がっている。


「アリサと合流した方がいいっすね、死ぬのイヤですし、やっぱり拡散は悪手っす」


ポケットに手を突っ込み、静かに奥へと歩く。

しかし、進んでいたウィリアムは、不意にその場で足を止める。

……そして、静かに目を細める。


「……ヤベーヤベー、死ぬかも知れないっすね……」


愉快そうに呟きながら、キツく右手を握り締める。

ギリギリと黒い皮製の手袋が軋みを上げる。




―――★―――




声にならない悲鳴を上げながら、アントニアは岩陰に隠れる。

見張っていた対象と、うっかり目が合ってしまったのだ。


「ごめん、ジャッ君……」

「代われアン……はは、お前は逃げろ」


苦笑いしながら、反対側にいたジャックと場所を交換する。

……確認してみると、確かに敵は真っ直ぐ来ている。

おそらく、右手の黒い皮手袋がITEMだろうとジャックは当たりをつける。


「ライラさん殺してたよ」

「能力は?」

「……木の陰で……」

「うっかりアンめ」


顔を引きつらせながら、ジッと敵をのぞき見る。

確実に、こちらに来ている。

戦闘は避けられないだろう。


「死ぬかもな……そんときゃ、フミエに仇討ちを頼んだ……っ!」


そういい岩陰にアントニアを残し、ジャックは敵の前に躍り出る。

その様子に少しだけ驚きながらも、敵……ウィリアムは喜びに目を細める。


「カワイコちゃんはお留守番っすか? 別に二対一でもかまいませんが」

「雑魚だからな、あいにく……戦うのは俺の役割なんだ」


そういい、ポケットから真鍮製のメリケンサックを取り出す。

取り付けたとたん、そのメリケンサックは淡く光り始める。


「こいつは『血沸キ肉躍ル(ノックアウト)』って言ってよ、すげぇぞ?」


凶悪に笑いながらジャックはシャドーを繰り返す。

それに対し、ウィリアムは薄く笑い返す。


「そっすか、僕も言いましょうかね……これは『暗君(キング・イディオット)』……まあ、しょっぱいITEMっす」


右手を解しながら、静かに距離を詰める。

心配そうに岩陰から見守るアントニアを見ながら、ジャックも拳を構える。




―――★―――




雪の積もった針葉樹の陰で、一人の少女が声にならない悲鳴を上げる。

そして、青ざめた顔で木の陰にへたり込む。


「うぁ……ま、まあ、私も裏切ろうとはしてたけどさー……ああいう死に方は嫌だなー……」


雪の冷たさに少しだけ震えながら、黒いスライムに巻き込まれる自分の妄想を振り払う。

頬をはたき、自分を奮起させる。


「アリサと合流しよー……絶対ライラちゃん私ら殺す為にバラけさせたなー……迂闊ー」


指先に息を吐き、立ち上がろうとする。

……が、腰が抜けたのかすぐには立ち上がれなかった。


「頑張るのよベティ……アリサに合流して生き残るんだからー……人は孤島じゃ無いんだからー……ひゃっ!?」


少し遠くに聞こえた足音に、息を殺す。

……雪を踏む足音は二人分だと察し、音の聞こえる位置を探る。

すると、足音が急に止まる。


(止まった? 私の位置がバレた?)


目だけを動かし、音をたてないように探る。

ゆっくりと針葉樹を背にしながら立ち上がり、襲撃に備える。


(……私の死角にいるとしたら、やっぱり木の陰……そうだ、足跡)


雪の上にできたであろう足跡を探す。

発見は難しいかと内心思っていたが、それでも運よくベティは見つけ出せた。


(二人分……でも、あれ?)


その足跡は、その場でパタリと途絶えていた。

木に隠れた様子もなく、彼女は頭の中にハテナマークを浮かべる。

接近してきていた二人はいったいどこに行ったのか、と。


(上に羽ばたいた……瞬間移動……透明化……どっち、どっち?)


羽ばたく音や息遣いの音を聞き逃さないよう、耳を澄ませる。

……だが、遠いせいか何の成果も得られなかった。


(最善を期待して、最悪に備えろ……幸運は勇敢な者を好む……行くぞ、行くぞ私、今、三秒後!)


浅く早い呼吸を繰り返し、手のひらは脂汗で湿り周りの温度のせいで悴み始めた。

そして、素早く足跡の地点へと走り出す。




―――★―――




「大分近づいてきたな」

「そうだね……私はどうしたらいい?」

どうしたら、か。

さて、どうしたものかな。


「まあヘタに動かれるよりは良いかも知れないな、分かった、この辺りの木陰で俺を見守ってくれ」

聴衆はいた方が俺も楽しいからな。

死ぬまで陽気に、笑っていよう。


「……分かった……っ! アリベルト、静かに……!」

「むが」

俺から口を奪ったらなにが残るんだろう、ちょっと気になるな。

しかし黙れないのが俺だ、難儀な性格だ……ととと?


(気付かれた、か?)

身振り手振りで表現するのは案外楽しいものだ。

(静かに、敵、気付かれてない、探してる)

ははは、ライラ女史はチョコチョコ動いて可愛らしいな。


……で、敵か。

どうしたものか。

そしてどう殺すか……正直、あの距離では少しITEMが届きにくい。

と言うよりも、透明だというアドバンテージを捨てざるを得ないからな、難儀だ。


(来たかっ)

居直ったか、だが良い判断だ……そしてマズい。

備蓄があるとは言いづらい、それに……使えばライラ女史が狙われる可能性もある。


「やるしかないな、俺も」

正面からだ、俺が真正面から戦って、ライラ女史に行く隙を与えない。


「『(ゲディヒト)』……行くぞ、アリベルト……っ!」

自分に叱咤か、まるで……はは。

ああ、まるで子供みたいだ……自虐もほどほどにしよう、悪い癖だ。




―――★―――




「おりゃぁぁぁ!」

力強い拳が、黒いスライムを殴りつける。

衝撃が反対側にまで走り抜け、いくらか飛沫が後方に飛ぶ。

「ちぇ、ダメージほぼ無し」

「……リンジィ、離れるなよ」


二人は目の前のスライムに拳を構え、伸びてくる触手を殴り弾き続けていた。

強いショックで飲み込まれるのは防げるのだと察したザンの提案で、打ち寄せる波と戯れる様に二人は拳を振るい続ける。

すでにリンジィの回復で、筋線維が剥き出しの左腕が生えてきていた。

その皮膚も、懸命な治療でピンク色の肌がひじの辺りからジワジワと伸びてきている。


「痛くない、大丈夫?」

「……気にするなウォーレン、殴れ」

いつものようにぶっきらぼうに、黙々と殴り続ける。


「トーキじゃ、厳しいかな……そっちは?」

「この黒いのが呼吸やらしてるんなら……それでも効率が悪いか……」

それじゃあダメかと、リサはため息を吐く。


「ガァァバァァァ!! ボゴガガガァァァ!!」

水に沈んだ様にくぐもった咆哮が、不気味な悪寒としてリンジィを襲う。

それでも、ザンの回復の手を止めない。


「どっちがジリ貧だ?」

「……うぁー……飛沫が元に戻ってるから、こっちがジリ貧かな」

苦笑いを浮かべながら、右から迫ってきていた触手を殴る。

「回り込まれ始めた、また下がろう」

「……リンジィ、掴まれ……移動するぞ」

「わ、分かった」


肩に担ぎ、そのまま後ろに走り出す。

背後で恨めしそうに黒いスライムが吠えるが、完全に無視して走り続ける。


「まさか反対側で襲われてないよね……」

「……今は前だけ見ろ、わざわざ助けないからな」

「ザン! 意地悪言っちゃだめだよ!」




―――★―――




急いで木々の間を走り、仲間の安否を心配する。

(離れすぎた……あの黒いの……どこだ、そこまで離れてはいなかった筈……)

視界の悪い森の中を息を切らせながら走り続ける。


その時、木々をへし折るような轟音が鳴り響く。

何事かとその方向を見て、そして見上げる。

「竜巻……っ、よりにもよってこの方向か……っ」


接触する順番を間違えれば、危険な目にあうと自覚しながら走る足を止めない。

(死ぬなよ……っ! 絶対、踏ん張れ!)

仲間を思いながら、全速力で木々の間を駆ける。


少し先に、黒いスライムが誰かと戦っているのが見えた。

だが、まだ遠い。

さらに加速しようとしたとき、黒いスライムのせいでできた、狭いが開けた場所で、見知らぬ男と出会う。

(敵か……こんな奴に時間を取られるのは痛い……どうにか、やり過ごせないか……)

そう思いながら、自らのITEM……刀身の白いコンバットナイフをかまえる。




―――★―――




敵がITEMをかまえるのを見て、トーキもかまえる。

(……黒いのは……っち、離れていくか……)

歯噛みしながら、敵を観察する。

(こいつは黒いのに行く気配はないが……だが、目的地は大方竜巻の方向だろうな……)

敵の視線を観察しながら、西洋剣を相手に向ける。


(マリア達やリサのところに行かせない……まあ、俺のできる事と言えばこれくらいか)

自嘲しながら、相手の出方を伺う。


「……なぁ、アンタ、私は仲間を助けないといけないんだ、黒いのに向かいたいなら見逃すから、どけ」

「生憎、どっちにも行かせるのはマズイんだ、竜巻もあの黒いのにも」

我がままだなとも思いながら、相手をジッと観察する。


「どうにも、ナイフじゃあ間合いが短いか……なら、こうだ」

そう呟くと、いつの間にか半透明の棒状らしいものを手に持っていた。

「時間、取られたくないからな……少し力技で行かせてもらう」

赤縁眼鏡の位置を腕で直しながら、ため息交じりにそう言う。


いっそう警戒するトーキに対し、相手……アリサは、ジリジリと間合いを詰めていく。

「最後だ、どけ」

「断る」

トーキが返した直後、アリサが半透明の棒を振り下ろす。

即座に西洋剣て受け、コンバットナイフの追撃を警戒する。


「なぁ!?」

だが、右腕は手首から先が消失しており、代わりにトーキの脇に白い刃が襲い掛かってきていた。

「!? っく!」

だが攻撃は何かに防がれ不発に終わる。

奇襲を失敗したアリサは、後ろに跳び距離をとる。


「隠し持っていたのか……っち」

完全に出鼻を挫かれアリサは舌打ちをする。

逆にトーキは自分の本来のITEMにまた助けられ、心の中でガッツポーズをする。

(このITEMで両手が塞がっていて良かった……でなきゃ死んでた……)

冷や汗を流しつつ、気持ちを切り返る。


(手首から先をどこかに出現させるITEMか……じゃあ、あの半透明はいったい……)

ジッと相手の出方を見る。

(刃物のITEMはわざと軽く斬られるのもアリか、それじゃああの透明な棒は……?)

西洋剣を相手に向けながら、距離を測る。


(……やり過ごすことを考えているのか……この剣が能力を発動している様子はない……やりづらいな)

苦笑いし、剣を強く握りなおす。

「そう言えば……」

ふと、昨日戦った3rdの事を思い出す。

(あいつは……こんな風に構えていたっけ……)

見よう見まねの構えは、わずかにトーキから隙を消す。


「……殺す気で来い」

「こっちは最初から、そのつもりだ」

アリサのそんな答えを内心笑いながら、すぐさま気を引き締める。




―――★―――




「鬱陶しいんだよぉぉぉ!!」

咆哮とともに、両腕の竜巻がピーターを吹き飛ばす。

そのまま木に激突し、肉片が散らばる。


「痛い……ってのは、錯覚なんだよねー、痛覚まで作ってないし」

ヘラヘラ笑いながら、欠損した腕を修復する。

同時に、相手の頭上に巨石が出現する。

「その竜巻の小石の足しにしたら?」

「っちぃぃ、ぃぃ!!」


胴体を竜巻化して最大風速で回転し、一瞬だけ押し返しその場を離脱する。

間一髪で圧殺を免れた相手を、おかしそうにピーターはケラケラ笑う。

「やっぱりね、風の動きを止めたら殺せるみたいだ」

「くそがぁ、ぁぁ……っ!」

全身を竜巻化させ、両腕の竜巻をまとめ一つの大きな竜巻に変える。


「ぶち殺す!」

「無理だよ、君はリーダーやヨシヤと同じ点での攻撃しかできない、ははは、不平等だけど不公平じゃあないんだよね、このゲーム」

クスクスと笑いながら、更に筆を振るう。

竜巻の中に異物が混ざり、唸り声と共にそれを竜巻で吹き飛ばす。

「クソッ、クソクソ!」


ピーターは相手を嘲笑しつつも、焦りを感じていた。

初撃を躱され、相手には警戒をさせてしまった。

先程の大岩が一度に出せる限界、それでさえ最大風速で吹き飛ばされる。

異物を混ぜても、すぐ吐き出され無効化される。

(千日手か……ああ、いや……)

ピーターは相手が起こすアクションの内、最悪を想定する。


(あの大竜巻に巻き込まれれば、僕の体どころかITEMも破壊される……ははは、足の速さだと、負けちゃうな)

内心冷や汗をかきながら、ピーターはさらに言葉を紡ぐ。


「来なよ、いくらでも食らってあげるからさ」

「てめぇぇ、ぇぇ……っ!」





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