手から堕ちていく、人形ども。
あー、我が家ってやっぱり良いわぁ。
「あ、マリア……ちょうど良かった……」
「ヨシヤー、ただいまぁ」
……あら。
おやおやぁ?
「だぁれ、その子」
「あぁ……えっとさ……困ってる、らしくて……困ってたんだ」
何二人して困ってるのよ……。
「……誰だそいつ」
「ああザン、なんだか知らないうちに見ない顔のカワイ子ちゃんが困ってるらしいの」
まあ、リーダーはこう言うかもねぇ。
このチームは一応弱いものの集まりだしねぇ。
「それで、どうしたのぉ?」
リンジィちゃんも優しいわぁ。
「それで、どうしたの?」
「え、えっと……私達は三人で助け合っていたんですけれど……お、襲われたんです!」
あらら、物騒ねぇ。
……うーん、うーん……。
「リンジィちゃん、どうする?」
「私は行くよ!」
「……なら俺もだ」
ふむ……となると。
残るは一人なんだけど。
「僕は残るよ……留守番しておかないと……」
「オッケー、任せるわねぇ」
「あ、ありがとうございます!」
とりあえず、急がなきゃねぇ。
「じゃあ、私についてきてください!」
―――★―――
「どうぁぁぁぁ! もう熱いよぉぉぉぉ!!!」
「何百回目なのさ、カリンちゃんてば」
折角オアシスにまで来たのに……。
……まあ、水が熱湯にならないのは便利な炎だよね。
ジンワリ温かくて仄かに光ってる。
どこぞのトナカイさんみたいだ。
「……あれ、誰か来てる」
燃えてるくせに視力は良いんだなぁ。
……ほんとだ、誰か来てる。
「カリンちゃん、私まで巻き込まれるからステイだよ」
「オッケー」
さてと……こっちはこっちで対処しなくちゃね。
……隙があるなら、そのまま殺す……でなくとも、怪しかったら殺す。
「え、えっと……わ、私は……」
「近づかないでね、怪しいから」
正直、カリンちゃんの前で私のITEMを見せたくはない。
自分でも気持ち悪いし。
「……それで、何の用? 水ならもう少ししたら私たちはどくから、その時に来て」
「そ、そうじゃなくて……あの、ピラミッドに行ってみて……反対に、何か人がいっぱいいて……」
人がいっぱい?
……怪しい、けど……。
「そ、それじゃあ……私急ぐから……」
「ちょっと待ったぁ!」
やっぱり食いついたか、カリンちゃん。
「詳しく、聞かせて!」
「罠かも知れないよ、カリンちゃん」
「だったらその時にぶっ飛ばせばいいでしょ! 少なくとも一日戻れる!」
だから……もし本当にいっぱいいたとしても、そのいっぱいいる人相手に勝てる……かもなぁ。
いやいや、だとしてもITEMでどうにかされちゃうかも知れないし。
「ともかくさ! 行こうよユエちゃん! 私はカリン、あなたお名前は!?」
「え、えっと……私はライラって言います……か、カリンさんも生き返りたいんですよね? が、頑張りましょう!」
「……まあ、どうせ止まらないんだろうけどね……はぁ、ここから戻るのかぁ……」
―――★―――
「はいはいはーい、抵抗したら殺すからねー」
「あ、あいたたた……」
「ッ!」
まあ、抵抗しなくても結果的に殺すかも知れないけどさ。
「……5thちゃん、折れちゃう」
骨折ったら都合が悪いかもしれないし、手加減をしてほしいね。
「ッ……」
さてと、インタビューしましょうかね……。
「やっぱやーめた、堕天矢!」
スパコーン! っとね。
呆れるほど素早い解決方法じゃないかな?
「お名前は?」
「……ライラ・サレハ……です」
アラブ系の人かしら?
えっと……そうなると綴りは……Lyla Salehかな?
まあとりあえず、墓碑銘・葬列も重ねたらばっちりね。
「さてさて、なんだか急いでいたようだけど……どうしたのかな?」
「……神様が、言ってたの……裁量次第で、手を直接下さなくても関わっていたら……一日戻してくれるって」
ああ、なるほど……つまり私みたいなITEMの救済措置的な?
「それで……やる気をなくしていた私に、神様が……中央にたくさん集めたら、サービスしてあげるって……」
ほほーん。
なるほどぉ……つまり、イベントを起こそうと……。
「どうりで私達のキルスコアも増えていたわけね」
「ッ!」
そういえば1stを殺すときに協力して倒したんだっけ、5thと9thは。
「どうなのさ、神様」
「まあね、暇だしさ」
……素直だこと。
まあ、いいけどさ……でもでも、これは利用できるわねぇ……。
「ふふ、じゃあ悪いけど……私も、それに一枚かませてもらうからね」
―――★―――
不意に、ウーヴェがどこかを睨む。
……シンシアも何事かと思い耳を澄ますと、なにやら物音が近づいてくるようだ。
「……TEMPEST!」
危険に備える為、いち早く霧を展開させる。
シンシアも不安そうな顔で、ウーヴェの傍による。
……いつの間にか、周囲には大型の真っ白い狼が何頭も現れている。
「こ、殺すのは……だ、だ、だだだだだ」
「静かに」
シンシアの頬を掴み黙らせる。
……鋭い目つきで、霧の向こうを睨む。
「止まれ、一身上の都合で殺すのは勘弁してやる……Uターンしろ」
威圧的に、接近してきていた人物に警告する。
……数秒の後、接近してきた人物は引き返していく。
「ほら見ろシスター、俺だって別に狂犬でも何でもねえんだぞ」
「ほうへふへ、ふほいへふ!」
「おっと」
頬を掴みっぱなしだったのを思い出し、慌てて手を放す。
「で、なんだって?」
「そうですね、すごいです! やっぱり人殺しの無意味さに気付いたのですね!」
目を輝かせるシンシアに、ウーヴェは笑う。
「これで次はシスターだな」
「はい?」
首を傾げ、何の話だと尋ねる。
「いやいや、俺も譲歩したんだからシスターも譲歩して殺す気になってくれねぇかな、って」
「な、なんでそんな話に!?」
―――★―――
……物音……いや、足音か。
「止まりなさい」
「そうだそうだー……何が聞こえたのさリーダー」
「ピーター、静かに」
…………一人か?
いや、一人だとしても……。
「ゆっくり、出てきなさい」
「手も上げた方が良いよー」
さて、どうでる……?
「た、助けてください……」
一見、無害そうに見えるが……さて。
「あはは、リーダーは優しいから大丈夫だよー」
「無責任なことを言わないでください……」
何でもかんでも助けられるというわけじゃない。
……さて、とりあえず……。
「それで、どうしたんですか?」
「な、仲間たちが……襲われて……」
「おっと、物騒なお話だ事……それで、リーダーはどうする?」
…………。
「無理です」
仲間を危険な目にあわせるわけにはいかない。
誰もかれも助けられるというわけじゃない。
「僕は仲間を危険な目にあわせてまで、君達を助けることは出来ませんので……すみません」
「…………そっかー、まあそうだよね」
「そ、そうですか……」
「では……お達者で」
―――★―――
「釣果は上々かな?」
首に下げているロケットをいじりながら、ニヤニヤと笑う。
……その傍らに、木にぶら下がっている自称神。
「そりゃチョージョー」
「本当にサービスしてくれるんだよね」
疑いの目を、その自称神に向ける。
「ぼかぁ優しいからね、それにエンターテイナーなんだよ、知ってのとおり」
胸を張るその様を見ながら、しかし疑いの視線を向けるのを止めない。
「だっはっは、そもそも騙して何の得があるのさ、君らみたいなやつをさ!」
「…………」
不愉快に笑う自称神を睨みながら、ロケットを胸元にしまう。
「まあまあ、君の釣果は僕もバッチシ見たし、だいじょーぶだよー」
そう言い、高笑いしながら自称神は溶けるように消えてなくなる。
―――★―――
「真ん中ってどうなってるのかな、トーキ」
「そりゃあ……ピザみたいに七つの三角形が組み合わさってるんじゃないか?」
「もしかしたら真ん中は丸い空間になっててさ……こう……特設リングに!」
「なんと……ああ、いや……ありそうだ」
他愛もない雑談をしながら、二人は歩いていく。
「案外ポッカリ大穴があったりしてな」
「ゲームみたいだね!」
同じタイミングで笑い合う。
……すると辺りの木が疎らになり始める。
「そろそろ中心も近いみたいだな」
「だねー……あ、真ん中にあの自称神の家があったりしてね!」
「……ああ、なんだか有りそうだな、それ」
話しが脇道に逸れながらも、二人は進んでいく。
「ああそうだ、昨日お前が寝てた時に変な奴が来てな」
「変な奴?」
「うん、変な女」
―――★―――
ちらりと、ロケットを覗く。
……蓋の裏側は13分割された時計の様な文字盤。
その文字盤がしめす針は、半分ほど……7と8の間の辺りで止まっている。
「……本体の私含めて、今ん所総勢7人……それぞれに2、3人ってところか」
およそ14人から21人。
その数が、全てこの中心へと集まっていく。
「大量得点かな?」
「大量得点だよぅ、わはははは」
どこからか、いつものように不意に出現する。
……大きめの岩に腰掛けている彼を見上げながら、一つ質問する。
「ねえ、真ん中ってどうなってるの?」
「ん? ただの広場だけど?」
あっけらかんと、そう答える。
「とにかく、ちゃんとサービスしてよね?」
「はい? ……ああ、そうか……なるほど」
腕を組みながら、うんうんと頷く。
「さっきのはこっちの話し、気にしなくて良いよ……僕は何にも言えないかな? これは黙っていたほうが面白そうだ」
ケラケラ笑いそのまま消える。
―――★―――
足を止め、男は常々気になっていたことを尋ねる。
「……ところでだ、ライラ女史」
「はい、なぁに?」
「こんなノンビリ進んでいって大丈夫なのかな? 私はその気になれば飛んでいけると思うが」
心配そうに訊ねる彼に対して、ライラは首を捻る。
「…………ふーん、さて……」
少し思案し、そして答える。
「さっきのは嘘なんだ、それで……ここだけの話し……私のITEMは分身を作る能力を持っている」
「ほう、珍妙なITEMだな」
咄嗟に言い返しそうになるが、ライラは寸でのところで止める。
「とにかく、私は分身を作って参加者を中心に誘いこんでスコアをゲットする算段でさ……んで、アリベルト……私を守って欲しい」
「ふむ、なるほど……おそらくあのカミモドキに提案でもされた、と言う辺りか? まあ、あの男は見るからに享楽主義者だからな」
「話が早くて助かる、それでだが……本体の私が倒されちゃ少し困る、だから頼みたい」
アリベルトはさして考える素振りも無く、二つ返事で了承する。
「最初からそのつもりだとも、私は誰かを見捨てられるほど人間ができていないんでね」
ニヒルに笑いながら、艶やかなライラの黒髪を撫でる。
「私も荒稼ぎさせてもらおう、遣り残したことがまだたくさんあるのでね」
そうして、二人は静かに雪道を進んでいく。
―――★―――
「で、想定外ってなんだよ、ボス」
四人の男女が二人の女性を囲む。
……その二人の顔つきは、驚くほど似ている。
「使ってみて分かったんだけど……このITEMの短所が分かった」
その言葉に、周りはざわつく。
「私を除いた13人の分身を召喚するITEMが、この『詐術師の人形』なんだけどね……横のつながりが皆無なんだ」
「……うん、まったくないね」
中心に立っていた少女の説明に、同調するかのように同じ顔の少女が頷く。
「えっと、それじゃあライラちゃん同士は……それぞれが何処にいるとか、まったく分からないわけ?」
ライラと呼ばれた少女を囲いでいた一人が、そう訪ねる。
「そうだね、私もまったく分からない」
ボスと呼ばれたライラよりも先に、隣の少女が答える。
「それにもう一つ……こっちの方が不味いかな? ……縦のつながりが、一方通行なんだ」
俄かに、囲んでいた四人がざわめく。
「つまりだね……今離れている六人は、それぞれが本物のライラとして行動している訳ね……うん、頭が痛くなるよ……本体である私は、だいたいの情報は分かるけどさ」
肩を竦めながら、皮肉気に笑う。
「え、っとぉ……つまり……?」
「ある程度奇襲はできる、でも分身を使ったかく乱はちょっと、難しいかな……この私みたいにずっと傍にいれば別なんだろうけど」
横に立つ分身のライラを見ながら、本体のライラは苦笑いを浮かべる。
「……上等だな、些事だ些事、そこまで期待はしちゃいねぇよ……それに、かく乱たってほぼ素手の分身がどうこうしたってノーダメに決まってんだろ」
その一言に苦笑いしつつ、手を叩き皆の気を引き締める。
「とにかく、中心での戦いは命がけだ、それを覚悟できるだけ私達は有利だからね! 気張っていくよ!」




