白き狼と、嘆く女。
「……ん、真っ直ぐ9thが近づいてる」
不意にエリナが呟く。
「あぁ? ……いや、いねえけど」
辺りを確認した後、4thはそうツッコミを入れる。
「じゃじゃーん!」
陽気な声と共に、9thとおんぶされている5thが顔を出す。
「えっと、ITEMは回収できませんでした……」
申し訳なさそうな顔をしている5thに、特に興味なさそうにエリナは返す。
「別にいいよ、欲しかったのはこのITEMだしねー、後は別に」
単語帳を弄びながら、エリナは笑う。
「これを自由に使えてたらあいつを殺していたんだけど、上位の奴には使えないからねー」
だから殺したと、エリナは笑う。
「とりあえず、私等はもう移動しよっか、敵もいっぱい来たし」
エリナの発言に三人が賛成し、エリナの後に続く。
「あ、そうだ……流石に4thに5thに9thだと味気ないし、拠点を見つけるまでに皆の名前を考えよっか」
「は? 本名で良いんじゃねぇの?」
「そうよそうよー」
不思議そうに首を傾げる4thと、不満げに頬を膨らませる9th。
「っま、本名でも操れるっちゃぁ、操れるしねぇ、まあ……第一候補として考えといてあげる」
―――★―――
「あ……ここに居たんだ……」
疲弊しているシマに、二人は駆け寄る。
「大丈夫か? ……なにがあった」
4thと5thがトーキの元に来た為、こんな疲弊しているとは考えてもいなかった。
「えっと、俺はあの二人と戦った後……霧野郎と戦って、透明二人組みと戦って……とにかく戦って俺たちゃ疲れたんだ」
身振り手振りでティアゴはそう説明する。
すると、何か違和感にティアゴは気付く。
「……誰だお前」
キューシローとピーターの顔を交互に見る。
それに対し、トーキが説明する。
「ちょっと俺達に恩を売ろうとしていたんだ」
率直な発言に、ピーターは愉快そうに笑いキューシローは苦笑いする。
「っま、無事なら無事で良いんだよ、それに越したことは無いさ」
ケラケラと冗談っぽく笑う。
そして、その場にあった倒木に腰掛ける。
「それにさ……恩は他にも売りようはあるんだよ」
―――★―――
「……あー…………」
乾いた、そしてつぶれた声で首を回す。
巨樹の根本に腰かけながら、頭上を恨めし気に睨む。
……頭上には、赤み始めた太陽が照らされていた。
そのまま、地面に寝転がるように唸りながら仰向けになる。
「あー……クソが……」
上半身だけの力で起き上がり、そのまま辺りを見渡す。
……人の気配はせず、静かな森の環境音しか聞こえない。
風が木々を揺らし、聞くものにとっては疲労した心を癒せるだろう。
「クソ、あー……クソ」
だが、その男にはそんな事とは無縁らしく、ひたすら罵詈雑言を垂れ流す。
「外れか、外れか畜生……だから俺は駄目だな、運がねえ……あー……」
頭を掻きながら、ガックリと項垂れる。
……そのまま、今度は愚痴を吐き始める。
「なんだろうな……死んでも俺は駄目だな……すぐ頭に血が上るしよ」
今までの短い人生を振り返り始める。
生まれてからのこと、彼の青春、彼の死まで。
長い事彼は自分の陣営を振り返る。
「……まあ、そう悪くはない人生だったな……」
なぜか達観した表情で、彼は立ち上がる。
「後悔はあるが、またやり直せるなんてな……あの神様も粋な事をする」
「そいつぁ、どーも!」
地面から首だけだして、自称「神」が顔を……顔だけを出す。
「おう、お前か」
特に動じることもなく、彼は返事をする。
「知ってのとおり、僕はエンターテイナーな訳だ、知らないと思うけどね」
「初耳だ、そうだったのか」
意外そうに驚く。
「さて、そんな僕はファンにはサービスをしてこそアイドルだと思う、アイドルじゃないけど」
まくし立てる様に続ける。
「まあファンじゃなくてもさ、君みたいな戦闘屋には手を貸してあげようと思う」
「お、なんかくれんのか?」
期待が混じった目で、そう聞き返す。
「ああ、僕ってばエンターテイナーなんだ、知らないと思うけどね」
―――★―――
「さて、これがあそこの巨樹だ、いいね?」
写実派なのか、随分簡略化はされているが特徴をとらえた絵を描く。
「それでね……この森事態はこんな全貌だ」
巨樹を下側に配置する様に、二等辺三角形を描く。
「で、あの巨樹から見えたんだけど……こんな感じの二等辺三角形が六つ、ここを入れて七つのエリアがあるっぽい」
二等辺三角形の底辺で円を組み立てる。
「そんな感じかな? 詳しくは分からなかったけど、右の三角形には砂漠、左側は草原……丘も少々」
木の枝で細かく描き、そして満足気に描き終える。
その絵に、キューシローを含めた五人がじっくりとみる。
「信じて、いいのかな?」
横からのシマの問いかけに、トーキは素早く答える。
「俺達で確認すれば真偽は確かめられる、恩を売りたい連中がそんなつまらないウソをつくとは思えない」
「なるほどー」
リサがうんうんと納得したように頷く。
そして、全員が絵から目を離したのを確認し、ピーターが話し始める。
「それで、僕らはしばらく森エリアにいようと思う……僕らの所に入りたいならいつでも歓迎する」
にっこりとピーターは笑う。
「勿論強制はしません……来るものは拒まずですけどね」
キューシローがそう付け加える。
……ふと、シマの顔が険しくなる。
「……どうかしたか?」
「いや……僕はここに行こうと思う」
そう言い、草原エリアを指さす。
「元から僕はここは苦手でさ……ITEMが振り回し辛くてね……砂漠は遠慮したいから、僕はここを目指したい」
「そっか、じゃあ君らもついていくのかな?」
その言葉に、一瞬間を置き。
「ごめん……ティアゴと僕らはここで別れようと思う」
その発言に、少しだけトーキは驚いた顔をして……。
「そうか」
一言、そう返した。
「……そっか、まあお二人さん、殺し飽きたら来てみてよ」
ピーターが朗らかに笑うと、キューシローを連れてどこかへ行く。
「えっと、じゃあね二人とも……また会う機会があったら良いね」
シマが別れを告げ、先程の二人とは違う方向へ歩いていく。
若干遅れて、ティアゴも手を振り森の中に消えていく。
……残ったのは、トーキとリサだけになる。
「さて、リサはどうしたい?」
少しだけ首をひねり、そして答える。
彼女らしく、単純明快に。
「一人じゃ寂しいだろうし、付き合ってあげるよ」
……その答えに、トーキは思わず吹き出す。
「うん、ありがとう」
「それほどでもないよ」
―――★―――
初日の朝に遡る。
「…………」
そのまま昼に移行する。
「…………」
そうして、夜になる。
「ねえ、君さぁ」
不思議そうに自称「神」が尋ねる。
「なんだって殺し合わないのさ、チャンスなんだよ?」
「チャンス、好機、良き機会」
「利用しない手は無いよ?」
まくし立てる様な彼の言葉に、短く返す。
「……悲しい」
漸く、一言話し始める。
……か細く、小さな声で続ける。
「自分の無力さ加減が、まったくまったく恨めしい」
「おやおや」
お手上げだとでも言いたそうに、彼は肩を竦める。
「ああ、神よ……なぜ私にこんな試練を与えるのですか」
その言葉を投げかけられ、彼の表情は冷たいものになる。
「神のせいにするなよ、それは君達が徹頭徹尾つくった悲劇なり喜劇なんだろ? 神は死んだ、は誰の言葉だったかな……とにかく、神様が手を加えたのは君達のずっとずっと昔のご先祖様だ、君達の悲劇は人間が人間に与えた試練だぜ」
……切り捨てるかのように言ったかと思うと、途端に優しい笑顔を浮かべる。
「まあでも、僕が責任をおっ被ってあげることもできる、言葉巧みに心を弄んでね」
肩を組むように、耳元で囁く。
……口元を歪ませながら。
「君みたいな方向性の無い力も、きっと面白いファクターになれると思うんだ……あは、だから、頭数が揃うまでちょっとだけ手を貸してあげよう」
そういい、自らの背後に黒い穴の様な物を作る。
「今回はうんと手を加えよう、君等対僕達、人が人に与える試練を演出しようと思うんだ」
そういい、手を引き二人でその場から消える。
―――★―――
「神は試練を与えるけれど、随分前にその看板は下ろして今はもっぱら人間の専売特許な訳だ」
にこやかに指を一本立て、愉快に笑う。
「まあでも、神は賽を振らない……は誰の言葉だっけ? とにかく手を下さないってのは否定されて久しい、僕は勿論振るよ、賽だろうが腕だろうが」
そういい、立てた指で空中に円を描く。
「だからさ、僕はセッティング使用と思うんだ、出会いを」
描いた空中の円は、まるで切り取られたように黒い穴が開く。
……その穴は広がり、やがてそれなりの大きさになると……一人、人間が落ちてくる。
「頑張ってくれよ、僕は今回はこれ以上手を出すことは無いからさ」
そういい、溶ける様に消えていく。
「…………あー…………」
エンターテイナーがどうとか言って、いきなり人間を降らせやがった。
突拍子も無いことをしやがる……。
「まあいいや、何考えてるかわかんねぇーけどよ……やるこた一つだな、おい!」
先手必勝!
「TEMPESTッ!」
まず霧で敵ごと辺りを包んで、そのままガブリだ!
「……ああ、なんと言う……ああ、悲しい」
……あ?
「おい、何で抵抗しねぇんだよ」
興がのらねえからって手を止める気はねぇが、なにか引っかかる。
「私は、あのまま死ぬべきだった……それを、神は試練を与えたもうた……私に、そんな資格など無いのに……」
……随分陰気くせぇのが現れたな。
「資格があったらお前は殺すのか?」
戦う気があるんなら少しくらいは待つけどよ。
「……ッ!? な、なあ、なんと……ああ、ああッ!」
「あ?」
「私は、私は、なんと……罪深い……例え神の試練に挑める資格があったら、私は……他人を殺すなんて……ああ、そんな……ああ!」
随分とめんどくせぇ奴だな。
それに忙しい奴だ。
「う、うぅぅ……うぁあああん!」
な、はぁ?
「泣くか、そこで……いい年こいた女がよ」
「わ、た、わたく、しはっ、ひぐっ、なんと、罪、ぶかっ、いっ!」
しゃっくりで殆ど聞き取れねえ……。
……流石に俺と関係ないところで泣いてる奴を殺せるまで外道じゃねぇし……あー、面倒だな。
「何が罪深いんだよ、姉ちゃん」
あー……これか、出会いをセッティングだのは……こうさせる為の出会いか、クソっ。
「わたく、しっ、はっ……ひ、人、をっ、殺す、なんて……っ」
「全員死人だぞ」
俺に至っちゃ殺されてここにいるからな。
「迷える、たま、しい、でもっ、手を、かけるっ、なん、てっ」
「少なくとも殺すことに迷う奴は少ないと思うけどなぁ……それに殺すことに罪悪感を抱くのはいいとして、殺されるがままってのはえっと……神の意思には背くんじゃねえかな」
あの男は、多分殺し合いが見たいだけなんだろうけど。
……ああ、なるほど。
つまり、妄信的に神を信じるこの女が誰かを殺すところを、あの神野郎は見たいわけだ。
それを俺に任せたってなると、なるほど。
「ちょっと、ITEMを出しな」
「え、は、はい」
「…………はは、あははは!」
そのITEMを受け取り、大声で笑う。
「なるほど、こりゃあ人殺しには最適なITEMだ……!」
腹を抱えながら、自分のドッグタグを弄る。
「な、なにを……?」
「なあ、姉ちゃん」
真っ直ぐに彼女を見ながら、男は語りだす。
「この試練、気が向かねえならよ……俺を手伝ってくれや」
「え、へ?」
凶悪な笑みをこぼしながら、彼は続ける。
「その代わり俺がお前の変わりに殺してやるからよ、な?」
その言葉に、彼女の顔は真剣なものになる。
「例え死んだとしても、人を殺すのは駄目です……資格があろうと、なかろうと」
その言葉は、先ほどの彼女からしたら想像もつかないほど強い意志を宿していた。
……殆どの者が、殺すことの罪悪感を無視し、吹っ切れ、忘却し、恭順したのにも関わらず。彼女だけは、真っ向からこのゲームの悪意を跳ね除ける。
「私は、誰も殺しません、傷つけません、殺させませんし、傷つけさせません」
死ぬ直前の自分の行動をから跳ね除ける。
「人を殺すなんて、間違ってます……!」
自らの前に立つ、暴力を振るってきた男の誘いを跳ね除ける。
「……はは、ああ……いいね、さっきの泣き虫は殺せたみたいだ」
にやりと笑い、ITEMを投げ渡す。
「俺はあんたに人を殺させるたい……あんたは俺に人を殺させない、そう言いたいんだな?」
「はい……! 私は、たとえどんな理由があろうと赦させるとは思いませんから!」
そう言って、彼女は傲慢にもそう言い切る。
このゲームの参加している、全ての人間を否定する。
「ああ、じゃあ……あんたはどうする?」
その言葉に、まっすぐに言い返す。
「私は……止めてみます、私ができる精一杯を振り絞って、こんな殺し合いを!」
彼女の言葉は、決して軽くは無いが……しかし、重く響くことは無い。
二日以上戻りたい者からしたら、それは綺麗事に過ぎないからだ。
だが……。
「ああ、ならまず俺を止めなきゃな! なんたって俺は殺し殺されるエキスパートだ!」
彼の心の中に、その健気で無知な言葉は軽く弾む。
「なら……止めてみせます! 私の二度目の命をかけて!」
既に夜の帳は落ち、星が輝き始めた夜。
二人は、このゲームでは異質な同行を始めることになった。
「名前は?」
「シンシア・レンフィールドです!」
「俺はウーヴェ、お互い邪魔しあおうぜ、シスターシンシア」




