染まらぬ水天、七色の土。
覗き込むように、リサはキューシローの顔を見る。
「な、なんですか……」
「えっとさ……格好からみて、キューシローって……やっぱりサムライなの?」
その言葉に、少しだけ間を置き。
「見習いみたいなものです、未熟者ですから」
照れくさそうに、キューシローは笑う。
「腰が低いなぁ、リーダーはもっと威厳があっても良いと思うよ?」
それをからかう様に笑いながら、ピーターはキューシローの肩を叩く。
そうして三人は笑いながら、和気藹々とした雰囲気で進んでいく。
「………………」
その中で、馴染めないと言う顔で後ろを歩く男が一人。
「…………ったく……」
トーキである。
「どうしたのさトーキ、まだ傷が痛い?」
無神経なそんな質問に、トーキの眉間のしわは更に深くなる。
「あー、わかったよリサちゃん」
合点がいったように、ポンと手を鳴らすピーター。
「リーダーリーダー、ちょいと耳を……」
「ん? 何ですか……?」
「ごにょごにょごにょ」
「いや、ごにょごにょ言われても……」
ピーターとキューシローがじゃれあってる中、トーキもリサをそばに寄せる。
「明らかに怪しいだろ、少しは疑え!」
「えー? トーキってば心配性だなぁ」
それを杞憂だとばかりにリサは笑う。
……一方。
「怪しんでいるんだよ、だってリンジィちゃんの仲裁があったからってさ、急すぎたんだ」
「……なるほど、確かに……正直に話すと彼女達に不利になりますし……」
「ウソと誤魔化しは僕に任せなさい!」
耳打ちを終え、ピーターはいつもの笑顔で二人に向かって歩き出す。
「はははー、まあまあトーキ君。怪しまれちゃあやってけないよ?」
「…………」
ジッと眉間にしわを寄せ、ピーターを睨むトーキ。
「僕らの集まりはね、基本的に最後まで生き残れさえすればいいって集まりなんだよ、皆事故死や災難に巻き込まれちゃった人たちなんだよ」
自分たちの目的を伝えながら、ピーターは懐を探る。
「まあ、信頼できないならしょうがない……なら信用くらいは勝ち取れるように……ほら」
懐から取り出したのは……金メッキを施されたライターだ。
「僕が人質になろう」
そう微笑むと、トーキにITEMを放り投げる。
―――『willo'wisp』
―――装置型 所有者、Peter Knolles 残り時間、71時間59分56秒
―――有機無機を問わず、このライターの炎はどんなものにも着火できる。
―――蓋を閉じることで、火は消せる。
「これで君に僕の心臓を渡したわけだね、どうかな? 信じてもらえたかな?」
いつも通りおどけた調子で、ピーターは笑う。
「心臓?」
言葉のニュアンスに、リサは首をかしげる。
「ん? ああ、気づいてなかったのかな? それじゃあ教えてあげよう!」
咳払いし、胸を張りピーターは話す。
「僕らが脱落する要因は今わかっているので三つ」
指を三本立て、それを一本づつ折り曲げる。
「普通に殺されたとき、ITEMを三日間奪われた時、それからITEMを破壊された時」
「……破壊された時……」
先ほど3rdと戦ったときのことを思い出し、少しだけ冷や汗を流す。
あの時、本当に幸運だけで自分は生き残ったのだと理解する。
「それって、どうやって知ったの?」
「ん? あの自称神様に聞いただけだよ?」
あっさりとそう答える。
「アイツ結構ケチでさ、具体的な質問しか答えないんだよねー」
「……それで、これでお前達を信用しろってことか?」
「うん、正直言っちゃうと僕らが矛を収めた理由は言いたくないんだよね、仲間が不利になるからさ」
いつもの笑顔で、だが目だけは真っ直ぐトーキを見つめる。
「…………わかった、警戒は続けるがそれなりに信用してやる」
「あははー、良かった良かった」
ケラケラと笑うピーターに、トーキは「だが」と割り込む。
「信用を欲しいなら、お前達も行く理由を言え」
「ああ、君らのお友達を助ける理由? まあ、恩を売りたいからかな? 僕らは助け合いをで成り立っている寄り合いだ、君らも殺害目標を達成したら来たらいいよ」
「ええ、僕らは歓迎します」
キューシローもそう頷く。
それに対し、トーキは少しだけ間を置き。
「分かった、それじゃあ急ぐぞ」
進むのを再開し、四人は二組で進む。
―――★―――
水の鞭が、その場の全員が振るわれる。
地面を抉りながら、土煙が舞い辺りの視界の具合は最悪だ。
「……うわっ!?」
ギリギリまで迫った水の鞭を、咄嗟にしゃがんで回避する。
「くそ、ここも外れか……」
「だな……面倒くさくなってきたぞ……」
渋面しながら、二人は素早くその場から移動する。
……不利が明らかになったと判断した1stは、視界を閉ざすことで連携を取らせないように行動した。
二人は現在水の鞭の根本を目指して進んでいたが、そのどれもが根元には1stの姿はなかった。
「……問題なのは、あの透明二人組か……隙を見て僕らを殺すかも……」
不安そうに周囲を警戒するシマは、砂煙で視界が悪い中警戒を怠らない。
「はぁ、滅入るぜ……隙があったらガブリか……死んでも同じだな」
ため息を吐きながら、電撃でティアゴも牽制する。
「うわ、めんど」
一言、9thが呟く。
「ッ?」
「やぁだね、まったく、これじゃあ数で押しつぶすことも出来ないしさ……しかも、疲れるんだよね」
ため息を吐きつつ、9thは一言呟く。
「……消せ、七色の大罪……ふふっ」
その言葉と共に、周囲が一変する。
「そいじゃ、畳みかけよっか」
ニヤリと口元を歪めさせ、5thに笑いかける。
「なっ!?」
「うわっ!?」
「おぉ!?」
三人の男が、一斉に驚愕の声を上げる。
……周囲の土煙が、いや……地面そのものが、ごっそりと抉られたようにすり鉢状に消失していた。
「お、落ちる……っ!?」
「……っ、落ち着けシマ!」
真っ先に冷静さを取り戻したティアゴが、シマの肩を掴み揺さぶる。
「消されたのは地面じゃない、地面の色だ!」
「な、はぁ!?」
その出鱈目さに、シマは目をむいて驚く。
「実際に感触はある……あの透明にできるITEMは、人間だけじゃないってことだ」
そういい、ティアゴは1stを睨む。
「これって、アイツ等はやっぱり1stを殺したがってるから、俺たちの味方になってるのか?」
「……そう、なるね……」
落ち着きを取り戻し始めたシマは、ようやく立ち上がる。
「警戒は怠らず、あの男を倒すぞ」
「ああ……それが最善かもね」
ITEMを構え、1stへと距離を詰めていく。
「やりやがったな……9th……ッ!」
クソ、本気で殺しに来てやがる……。
微睡の花弁は泥で使えない、神叡水天も単品じゃ手数が劣る……くそ、雨さえ降っていれば……っ!
土煙もふさがれて、連携の邪魔すらできない……。
「ふざけるな、ふざけるなよっ!」
俺を殺せると、本気で思っているのか……?
「神叡水天ッッ!」
舐められてたまるか……ッ、たまるかよっ!
「舞い踊る雷ォ!」
コイツもだ……電撃野郎っ!
この厄介な電撃のせいで、本来の防御力もまともに発揮できない……っ。
「ァァアァッ!!」
もういい、手数が足りないなら無理にでも振り回すだけだ。
纏えないなら近づけさせなければ……クソッ!
「ッ!」
「グァァ!?」
クソ、クソが……いつの間に、クソッ!
いてぇ……が、まだ動ける……。
透明だって、足元の水が跳ねたらそれで判断ができる……。
……だが、畜生……5thと電撃野郎は身体能力が向上してやがる、一瞬で間合いを詰められた……今の神叡水天じゃあ袋叩きにあうだけ……。
どいつもこいつも……面白くねぇ!
「舐めるなぁぁ!」
このまま足掻き続けて、叩き潰す!
同時に飛沫で5thと9thを炙り出す……!
「俺をそう簡単に殺せると思うなよ……ッ!」
甘い。
甘いよぉ、1stさん。
これが3rdや4thに5th、一応2ndもか……ならすぐに私がどこにいるか分かっただろうに。
っま、現場を知らないとこうなるんだね。
なんてったって……これで8thを、つまるところその神叡水天を殺したんだから!
「でーでん、でーでんでーでんでーーでんっ!」
さぁ、1stさん! 私はどこにいるのでしょーっか!?
正解はぁぁぁー!?
「うあぁ!?」
不意に、1stの下半身が透明な地面に飲み込まれる。
「な、まさか……9th!?」
「地面の中、でしたぁぁ!」
泥状の地面の中から、くぐもった9thの声が聞こえる。
「ッ!」
「ウオォォォォ!」
その隙を逃さず、ティアゴと5thが隙だらけの上半身に襲い掛かる。
電撃と蹴撃が、そのまま畳み掛けられる。
「ぐ、あ…………ぁ!?」
そのままマウントを5thに取られた1stは為す術なく拳を叩き込まれる。
「やめ、がッ、ぐぁっ!?」
「ッ、ッ、ッッッッッ!!」
無慈悲に放ち続ける拳に、ティアゴもシマも動きが止まる。
……そのまま十数秒間、何度も拳を振り下ろされ続けた。
「が……ひ、ぷぁ……」
顔面を破壊され、血の泡を吐きながら1stは絶命する。
「ッ……」
「これにて、御免ッ!」
微かに泥が跳ね、声が遠くなる。
5thの体も、その役目を終え崩れるように元の影になる。
「……終わった、のかな……?」
疲れきった顔で、シマは膝をつく。
それに対し、ティアゴは難しい顔をする。
「どうだろうな……少なくとも、何か算段があって俺達に手を出さなかったとみるね」
珍しく知性的な顔で、ティアゴがそう呟く。
―――★―――
「つまるところ、私のITEMは持久力が弱い代わりずっと能力が残るんだ」
「つまり?」
「だからね、矢の破片がずっと体の中で存在しているっぽいんだよね」
自慢げに、エレナは笑う。
「だから、頭の中に顔を思い浮かべば大体どの位置にいるか分かるし、射った直後なんかじゃ体調も分かっちゃう」
「そりゃすげぇ」
感心したように4thは相槌を打つ。
それに気分を良くして、さらに話し続ける。
「コレを利用しない手は無いよ、時々私達の邪魔な奴にぶつけてみたり……なんだったら何かの取引材料に使えるし!」
胸を張り、ズンズンと雨でだいぶ被害を受けた森の中を進む。
「リサちゃんは、利用価値がある!」
―――★―――
「トーキ君は、このままの関係を続けよう」
「つまり?」
「彼は思ったより誠実で素直で、なにより頭が良い」
ニヤニヤと、ピーターは小声で話し続ける。
「利用できるなら利用し尽す頭脳があって、恩には恩で返す性格で、相手の事情を慮れる性根だ」
「それは良い人物ですね……しかしよく分かりましたね?」
不思議そうにピーターの顔を見る。
「さっきの僕のITEMについての話しや受け取った後の態度、それから今リサちゃんと話している内容から大体察しがついたんだ」
「……耳がいいんですね」
「目がいいんだ、唇の動きを観察すればいい……幸い日本語と英語の口の動きだ」
何気なく、そう発言する。
「ともかく……彼は僕等の一員になる可能性がある、と」
キューシローの言葉に、ピーターは「ああ」と強く頷く。
「トーキ君は、恩を売る価値がある!」




