微睡みと、無意識。
「…………おや?」
キョロキョロと、辺りを見渡す。
「おっはー」
「……あら」
げんなりとした顔で、肩を落とす。
「帰巣本能? って奴? まあなんにしろ、あんた待ちだったしさ」
目の前には弓を構えた、にんまりといやらしく笑うのは2ndことエリナ。
「お疲れー、9thちゃーん」
終始ニヤニヤと笑いながら、肩に手を置く。
「ほいじゃ、次に行こうか」
「どこによ……んん?」
肩を回した途端、視界に何か写る。
……目を上にやると、なんとエリナの光の矢が眉間に突き刺さっていた。
「……なーんかこのまま放置されるの嫌なんだけど」
「へ? ああ、間抜けだしね。オッケー取ったげる」
少しだけ苦笑いすると、溶け出すように光の矢は消える。
「さてと……このITEMを破壊すればあのドアホは脱落させられるんだけどー」
困ったように腕を組む。
……その手には、小さい単語帳のような者がある。
「私と同じ相手を操る系で、しかも私よりも強制力が強いんだよなー」
わざとらしい程に、困った顔をする。
……そして、困った顔のまま。
「しょうがない、アイツ殺そうか」
一言、短くそう言うと弓から二本の矢が放たれる。
「この雨雲を解除して、太陽が出たらアイツんところダッシュね」
「……いやねぇ……この感触……慣れないわぁ」
「ホワホワしてグワングワンして気持ち悪いです!」
口々に不満を言う二人。
「3rdと4thを回収してから私は行くから、二人はアイツを殺したらそのまま南に走ってね」
ニコニコと笑いながら、手をヒラヒラと動かしながらゆっくり歩いていく。
「…………はぁ」
「………………」
残されたのは、戦闘マシーンこと9thと5th。
「……それじゃあ、いきましょ?」
「そうですねー」
意外に仲良く、しかし目的は殺伐としてる二人は歩き出す。
―――★―――
「うっりゃぁぁぁぁ!!」
ドリルが迫り来る木を薙ぎ払う。
「ぁぁぁぁぁぁああああああっっ!」
振り回した勢いをそのままに、ショベルカーのような武器で水を防ぐ。
「……くっそ……疲れるなぁ、これ……力任せとか……嫌い、なんんだけど……」
息も絶え絶えで、シマは愚痴をこぼす。
対する1st……宝玉は、そんな様子を冷ややかに見つめる。
「っち、質量で圧倒できないとは……」
絶対的に有利な地形、天候で圧倒しきれない状況にイラつく1st。
雨はまだ勢いを弱らせることは無いが、ITEMの雨だ。
通常の天候と同じく考えるのはいささか危険だ。
「……っぐぁ!? ど、っりゃぁぁぁぁ!!」
水飛沫をいくらか浴びながらも、ドリルを盾にし直撃を避ける。
「圧倒できなくても、このままゆっくり削り潰してやる……!」
嗜虐的に笑い、放水し続ける。
―――★―――
「……あ」
いきなりの出来事に呆気に取られ、足が止まる。
そして、忌々しげにある一点を睨み付ける。
「っちぇ、つまんないの……不確定要素かぁ……あーぁ、つまんなにの」
口を尖らせ、詰まらなさそうに頭を掻く。
「くっそー、誰か来たのかな? それとも……うーん!」
悔しそうに地団太を踏む。
「こりゃ、多少不自然でも4thくんだけでも回収しなきゃ」
小走りで、四人……いや、三人が戦っているであろう地点へ向かう。
「やれやれ、儘ならないなぁ」
溜息をこぼしながら、苦笑いする。
―――★―――
「舞い踊る―――あぁ!?」
目の前の光景に、ティアゴは愕然とする。
「あ、あのインチキ霧野郎!!」
目の前に相対していたはずの相手がいなくなり、怒りを露にする。
……ティアゴが気付くことは無いであろうが、微かに霧が尾を引いており、その先に件の「霧野郎」がほくそ笑んでいた。
もぬけの空の霧を囮にして、ティアゴとの戦闘から脱していたのだった。
しかしそれを理解できないティアゴは、一体どういうことか考える。
「……ええい、面倒くせぇ! とにかく迷ったら走れ、だ!」
自作の座右の銘を咄嗟に作り、巨樹に向い走り出す。
……霧も既にほぼ霧散し、ティアゴが「霧野郎」を追うことは不可能となった。
「……っはん、馬鹿は扱いやすくていいぜ」
件の霧野郎はそう笑いつつ、ティアゴとは違う方向に歩きだす。
「しかし、収穫はゼロか……しかたねぇ、もうちっと粘るか」
巨樹を睨みつけながら、頬を吊り上げティアゴと接触しないように大回りで巨樹に歩き出す。
首にかけたドックタグを弄りながら、挑戦的に笑う。
「さぁって……ド派手に行くか」
体を解しながら、一人歩いていく。
―――★―――
「ちっくしょうがぁぁ!!」
銃口から炎が噴出し、リサを追うようにして木が燃えていく。
だがリサに炎が届く事無く、4thは翻弄され続ける。
……後ろの攻防も拮抗が続いている、助力を求めるのは難しいだろう。
「っちぃぃ!」
痺れを切らした4htは、リボルバーを回転させる。
すると炎が止まり、銃口が若干変質した。
「………………っ!」
木々を飛び回るリサを、集中して観察する。
先ほどまでの無闇矢鱈な火炎放射とは違い、早撃ちガンマンの様な姿勢で狙い続ける。
……乾いた銃声が響く。
「うわっと!?」
咄嗟にジャンプの勢いを止め、眼前を通り過ぎる銃弾を躱す。
「ち……ちょこまかとぉ……っ!」
語気は荒いが、4thは極めて冷静につとめる。
自分のフラストレーションを言葉にして、4thなりに頭を冷やし続けていた。
また、トリガーをひく。
「っひゃぁ!?」
木にぶつかり、弾丸は異常な方向に曲がる。
……リサが隠れていた木を、跳弾により別方向から攻撃したのだ。
「っもう!!」
たまらずリサが木から飛び出し、再び木と木の間を飛び回る。
だが……。
「ひゃっ!?」
「ちぃぃ!!」
リサの金髪を弾丸が掠る。
確実に、4thの射撃の精度は上がっている。
……というよりも、火炎放射器は扱いづらかったのだろう。
使い慣れた拳銃は、徐々に精度を増しリサを狙い続ける。
「よ、っほ!」
しかし、リサは無理に攻めずに木々を飛び回り、時間を稼ぎ続ける。
「させっか!」
しかし、4thは銃口をあらぬ方向に向けノールックで発砲する。
銃撃を警戒していたリサは、反応が遅れる。
「なっ!?」
発砲と共にトーキの刃が砕ける。
リサは驚愕した顔を浮かべるが、それでも即座に次の行動に移る。
「くらええぇぇッッ!!」
足元の石を拾い上げ、3rdのITEMを遠くに弾き飛ばす。
「あ、そうか! 石使えばいいんだ!」
何個か石を手に取り、また木の間を走り出す。
「はん、さっさと行けや3rd!」
次いでトーキを狙撃した4thに対し、リサは怒りを顔に浮かべる。
「なにしてんのさ!」
飛礫を投げつつ、4thを狙い釘付けにする。
「っとぉ、危ない危ない……お返しだ!」
二人の戦いは、弾丸と石が飛び交い更に激しさを増す。
―――★―――
「お」
「ッ!」
「うお!?」
「っち……」
「ティアゴ!」
三人が戦場に集い、五人はITEMを構える。
やや暢気な挙動な5thと9th、イラつきの矛先を見つけたティアゴは凶暴に笑う。
「お前らか、エリナ……2ndの指示か? まあ良い」
鼻をならしながら、シマとティアゴを睨み付ける。
「ううん、あなたを殺せって言われたの」
「ッ!」
にこやかに9thは笑い、5thは宝玉に突貫する。
「な!? クソッ!」
咄嗟に木の幹を盾にし、二人と距離をとる。
その表情には、怒りや驚愕などの表情だ。
(……どう言うこった?)
(仲間割れだろうね……どうする?)
(そりゃあ……首突っ込むっきゃねえだろ!)
そう言い、ティアゴの体を雷が包む。
「行くぜおい!」
「まあ、稼げるときに稼いどくか……」
溜息を吐きつつ、シマも後に続く。
「来い……蹴散らしてやるッ!」
左前方から迫るシマとティアゴの二人と、左側をジグザグに詰め寄ってくる5thの三人を相手取る。
「……何? くそッ!」
素早く違和感に気付き、宝玉は一瞬早く攻撃を仕掛ける。
「おっとっとぉ、やーれやれ……気付かれちゃった」
何も無いはずの空間から、女性の……9thの声が響く。
「もっとこっそりしかけよーっと」
クスクス笑いがあたりに響いたかと思うと、5thの拳が飛び込む。
「ッ!」
幹にひびが入りはじめる。
「舐めるなっ!」
だが宝玉も亀のように篭もるのではなく、幹から生えた棍棒のような枝で反撃し5thを弾き飛ばす。
「もらった!」
その隙を見逃さず、シマの右手のドリルを前に突き出す。
「ッ、ッ!?」
ドリルの凹凸に5thの肉体が巻き込まれ、そのまま背後の木に叩きつけられ磔の様な状態になる。
そのままドリルの凹凸は血肉や骨や内蔵等を当たりに撒き散らされ、彼女はだらんと腕が垂れ下がり動かなくなる。
「ティアゴ!」
「ラジャー!」
迫ってきていた木の枝を雷で焼き切り、シマへの攻撃を遮る。
「…………無識界……」
その光景を確認しながら、右耳のイヤリングに触れる。
途端に、9thを中心に一気に周囲が変容し始める。
「ち……ッ!」
「な!?」
「うおぉ!?」
自分の足元が不安定な泥状に変化し、咄嗟にその場から移動する。
「くそ……」
操っている木が泥状になってしまい、攻撃力や防御力を著しく低下し微睡の花弁での攻撃を諦める。
代わりに、今度は宝玉の周りを蛇のように水が彼を中心にとぐろを巻く。
(今使ってんのは泥と透明化……あとは口と……ああ、くそッ!)
記憶の中の情報とすり合わせ、咄嗟にその場から距離をとろうと走り出す。。
「―――金蠍銀蛇ッ! あっはっはぁ!」
何も無い空間から、彼女の大笑いが響く。
―――★―――
「たはは、やられちゃった」
5thは頭を掻きつつ、あぐらを組む。
「まあでも、お日様燦々ですぐに行動に移せるのはいいよね」
そう暢気に笑い、手を地面に添える。
……すると、ちゃぽんという水音とともに影の中に手が沈む。
「いくらキリングマッシーンでも、孤立無援じゃあ可哀想だもんね、がんばろっと」
影を救い上げ、それを手の平で捏ねはじめる。
それは段々肥大化し、やがて拳大ほどに膨れ上がる。
その影の塊を日向に放りり投げると、それはグングンと肥大化し……。
「ッ」
そうして、それは彼女そっくりに育つ。
「健やかに育つんだよ……その前に急ぐんだ!」
にこやかに微笑みつつも、厳しい態度で9thがいる方向を指差す。
「ッ!」
力強く頷き、駆け足で向かう。
「……さて、頑張ってねぇ」
―――★―――
重いね、まったく。
足も気分もへビィだよ、まったく。
やっぱり、どんな奴でも死んじゃうのは嫌だなぁ。
あいつ、嫌いだったけど……死ぬことはなかった。
「……エゴだなぁ、今さっき一人殺せって命じたのにさ」
嫌だね、女の子って言うわがままな生き物は。
「さて……感傷はここまでにしよう」
4thまで失うのは駄目だ。
なあに、私が到着さえすれば切り抜けられる。
後は7thと8thのITEMをもったあの阿呆を殺せれば万々歳。
「やれやれ、私ってばわがままなんだから」
でも、仕方ないよね。
生き残りたいし、生き返りたい。
なんてったって、後悔しているんだから。
―――★―――
遠目で、4thはその光景を目撃していた。
油断か……いや、違う。
隙もなく、間違いのなかった行動だったはずだ。
だが……3rdは死んだ。
コレだけは変えようの無い真実だ。
「リサァ!」
「トーキ!」
敵は互いに名を呼び合い、無事を確認する。
4thは先ほどと同じようにトーキを撃ちたかったが、今回はそうは行かない。
油断ならないリサの飛礫攻撃は、4thを釘付けにしトーキへの攻撃をさせまいとしていた。
(っち、ええい、まずい、まずいぞこれは)
彼が来た時には三対一で圧倒的に有利だった。
だが様々な要素が絡みつき、こんな結果になった。
9thの暴走、想定外のリサとの合流、天候による5thの援護ができなくなったこと、そして謎のITEM。
「ああ、畜生が!」
「はっはっはっは! もう大丈夫!」
突然、三人の耳にそんな声が響く。
「ッ!?」
その声に、リサは思わず体を震わす。
(さてさて! どう切り抜けるか! 腕の見せ所だぁ!)
内心では大量の汗を掻きつつ、2ndは……エリナは、不敵に笑って敵を睨み付ける。




