雨は彼女が降らせ、青天は彼のみを照らす。
……決着は一振り。
天秤は、大きく傾く。
「―――ッ!?」
「……ふっ……」
トーキの刃が、3rdの肩を切り裂く。
「な、この!」
反撃にと、咄嗟に剣を振るう。
「遅い!」
それを軽やかに躱しながら、後方に大きく跳躍する。
(……どういうことだ……)
異変にいち早く気づく3rdは、思考をめぐらせる。
(気付かないうちに悪意を出しすぎた……? 少しこの状況を打開するのに躍起になりすぎたか?)
だが、それでも真実に辿り着かない。
(……落ち着け……相手は所詮は喧嘩闘法だ……型にしたがっていれば対処は難しくない)
精神状態の平静を保ちつつ、まっすぐに敵を睨む。
「本当に終わりだ、このメガネ」
「……口が減らない方ですね……」
互いに敵意を出来るだけ抑えつつ、睨みあう。
―――★―――
「この……っ!」
木々の間を飛び回るリサにイラつきながら、銃口を向け続ける。
「……ちぃ! 頭にきた!」
大きく舌打ちをしながら、リボルバーを回す。
……同時に、銃口が変形する。
「燃えちまえッ!!」
撃鉄をおろし、トリガーを引く。
「うわぁ!?」
「ひゃーっはっはァ!」
銃口から出てきたのは、銃弾ではなく炎。
一直線に放たれる炎は木々を焼き、リサを追う。
「逃げろ逃げろ! はーっはっはっはぁ! 腹がよじれるぜぇ!」
「悪党ー! 三下ー! 小悪党ー!」
「好きなだけ言ってろ! 心地良い負け犬の遠吠えだぜぇぇ!」
凶悪な笑みを浮かべながら、徐々にリサを追い詰めていく。
―――★―――
「……いやぁ……この泥、どこまで続くんだろうねぇ……」
こうもり傘をクルクル回しながら、軽い調子で尋ねる。
「さぁな……」
対照的に、暗く重い調子で興味なさそうに応える。
「でもさ、なんで巨樹に向かったと思うのさ」
「……何でもくそもあるかよ、逃げる奴が自分がどこに向かったかを教えると思うか? 戻ったんだよ、敵に邪魔されねぇように辺りを泥にしてな」
「あー……なるほどねー、この泥の川も誘い込むものって可能性か」
うんうんと頷く。
「…………なんにしろ、巨樹には向かうのは決定事項だろ、そうでねえとマリア達にも合流できねえ」
「だね」
お互いに歩を進めながら、巨樹をめざす。
―――★―――
「……お前か……敵は……」
「っ!」
背後に現れた敵に対し、シマはITEMを構える。
「俺の名は白 宝玉……今は1stと名乗っている」
「ど、どうも……」
突然の自己紹介に、少しだけ面食らう。
「あの巨樹はアジトとしては優秀なんでな……ここで、死んでもらう」
そういうと、金色の細工が施されたグラスを取り出す。
「……神叡水天……!」
空の筈のグラスは、溢れ出すほどの水を湛える。
「微睡の花弁……!」
指輪が微かに光り、周囲の木々が騒めく。
「……ここで、死んでもらう」
「はは……ティアゴ早く来てくれないかな……」
冷や汗を流しながら、ITEMを構える。
―――★―――
「ぐぁぁっ!?」
深く、刃が肩に突き刺さる。
そのまま刃が抜かれ、鮮血があたりに飛び散る。
「……そろそろ、この辺の葉っぱも駄目だな……」
攻撃した側であるトーキは、心配そうに頭上を見上げる。
それを、傷を負った3rdが睨みつける。
「なぜ……そうか、あの……女性か……」
チラと、横目で戦っている二人を見る。
それに対し、あくまでトーキは余裕な風に笑う。
「そういうこと、女の声援ほど力になるものはないな」
滅多に冗談を言わないトーキだが、目の前の勝利に浮かれたのか笑みをこぼす。
……それに対し、3rdは必死に活路を見出そうとする。
「…………っ」
そうして、活路は拓かれる。
「さて、リサに加勢しないといけないんでな……本当に、これが最後だ」
刃を振り上げ、止めを刺そうとする。
「させっか!」
「―――ッ!?」
不意の狙撃により、トーキはITEMを弾かれる。
「っく……!」
「はぁぁ!」
好機を逃さず、3rdは剣を振るいトーキを追い詰める。
数倍の身体能力を得ている彼も、徒手空拳では不利と感じたのか手放したITEMを意識しながら後退する。
一方的な攻撃により、形勢逆転したかに思われたが。
「くらええぇぇッッ!!」
「ぐぁっ!?」
飛礫が、3rdの右手に直撃する。
先ほどと同じように、3rdも剣を落とす。
「ッ!」
「なっ!?」
それを確認したトーキは、いち早く3rdが持っていた剣に走り出す。
先ほどの狙撃で刃を砕かれとっさの反撃が難しいと判断したほかに。それぞれが落としたITEMとお互いの位置関係、そして二人の身体能力の差を冷静かつ迅速に判断した結果だ。
「く……ッ!」
トーキの思惑を理解し、そして自分では辿り着けないと判断した3rdは、やや離れたトーキのITEM……青天を目指し走り出す。
「っが……! この……ッ!」
突如、トーキの肩を弾丸が打ち貫く。
「はん、さっさと行けや3rd!」
4thからの狙撃に舌打ちしつつ、体制を崩しながらも3rdのITEMを手にする。
「おぉぉぉぉッ!」
剣を振るい、3rdに向かい剣を振り下ろそうとする。
「……ッ!」
3rdも間に合い、折れた刃で受けようとする。
―――★―――
「なんだったのかしら、あれ」
不思議そうに、首を傾げる。
「ああいう輩なんでしょう……刀を持った野盗と同じ、器に対し力が見合っていない者かと」
短く、そして冷たく切り捨てる。
それに、マリアは苦笑いする。
「リーダーってば冷たいのね」
「敵の過去や心情なんて言うのを態々慮る暇はないですし、慮れば情ができ隙になります」
刀に目を落としながら、少年は歩を進める。
「ふーん……それにしても、まだ雨止まないわねぇ……流石に、こう長時間ITEMを出し続けるのって疲れるし、肩凝っちゃうわぁ」
肩をゆっくり回しながら、嘆息する。
周囲の煙も、少しだけ薄くなっているようにも見える。
「……僕の刀と違って、マリアのは広く効果が及びますからね」
「そうねぇ……さっさと雨も止んだら引っ込められるんだけどなぁ……」
愚痴を吐きつつ、上部のより厚い煙を見上げる。
その煙の向こうには、かすかに巨樹が見えた。
「ザンはともかくとして……あのピーターのお馬鹿はどこ行ったのかしら……」
どこか心配そうに腕を組むマリア。
「そうですね……ザンには彼女がいるからどうにかなると思いますが……ピーターもザンと合流していれば良いんですが……」
同じように、少年も心配そうな顔をする。
……マリアよりも少年の方が比較的心配そうに見える。
「他にも、何人か戦っているようですね……」
耳をすませ、周囲の音を聞き取る。
……銃声なども、かすかに聞こえる。
「二人も気になるし……早く巨樹に向かいましょ? 多分あのお馬鹿二人でもどこに行く予定だったかは覚えているでしょ?」
「そう、ですね……そうだと良いんですけど……まあ、ザンはともかく彼女はしっかりしていますし……」
気苦労の絶えないであろう彼女を気の毒に思いながら、周囲を警戒しつつ進む。
「……もしあの子とザンがはぐれていたら?」
不意に、マリアが不吉なことを言う。
「それは無いと思いますが………………」
その続きを口にすることなく、二人は歩き続ける
―――★―――
トーキは自分のITEMを見る。
今まさに、そしていつかの様に自分を殺そうとする十徳ナイフをやけに冷静に見続ける。
確かに、近いからこの剣を握った。
確かに、刃が砕けたから剣を掴んだ。
……だが……それ以上に……。
(……っ! そんなの、今は関係無いだろうが……ッ!)
邪魔な思考を振り払いながら、全神経を敵と自分に刃を向けるITEMに注ぐ。
銃弾で砕かれたとは言え、十徳ナイフにしては刃は大きく重い。
リーチは勝ってはいるが、それでもその優位性はこの一撃限りだ。
これで仕留められなければ……あの時と同じように、トーキは自分の血の海に沈む可能性がある。
(力任せじゃない、ちゃんと狙って叩ききらなきゃ駄目だ……!)
生憎、トーキには刃物の扱いが長けている訳でもなく、ましてや剣道等の知識も無い。
だが……乏しい知識すらなくても、一撃を確実に決めなければいけない。
あと数歩、その内に決着は付く。
……3rdは、その手にナイフを掴もうとしていた。
(沙夜……俺は……乗り越えるぞ……! あの、最期を……ッ!)
剣を振り上げ後数歩まで迫る。
―――★―――
明記されていない特殊能力は、何も堕天矢だけではない。
効果の大小や範囲、そして内容は異なるがこのゲーム中に追加能力を付与されているITEMを持つものは一定数存在している。
「これはひとえに、様々な不確定要素を内包させゲームを混沌と化す為に導入したんだ……それと、あるITEMが特殊だったんでね、なら他のも特殊なITEMにした方が不平等だけど不公平じゃなくなるでしょ?」
そいじゃ、今現在僕が覗いている戦場にはいくつそんなITEMが存在しているのか、分かるかな?
「答えは三つだ」
そこまでいっぱい実装した気は無いんだけどさ。
「一つは堕天矢の魅了、もう一つは凍てつき、止まぬ雨の恐怖、そんでもう一つは……」
―――★―――
(4th……ありがたい……ッ!)
援護射撃に感謝しながら、ナイフに駆け寄る。
判断は一瞬、対処は更に短い一瞬。
(一撃を凌ぐ……! それで反撃は十分! 私のITEMで身体能力も上昇しているはず!)
勝利に貪欲に、自身の勝利の条件をひたすら脳内で検証する。
(相手は所詮喧嘩殺法……正確な一撃でなく、ただ力任せに振るうだけ……それを凌ぎさえすれば、体勢を崩れたところに私が仕留める!)
振り返り、トーキを見据えつつナイフを構えようとする。
「ッ!?」
「っな!?」
3rdが手に取った途端、青天が生成していた刃が砂の様に崩れる。
振り下ろされた剣が、そのまま3rdの頭を砕く。
―――★―――
「ITEMってのはつまるところ、妄念や怨念や執念みたいな……えっと……そう、ヒトの感情が重要なファクターな訳だ」
だからこそ、ITEMの多くは死因の品かお気に入りのアレコレになる訳だけれども。
「で! だ! そう言うのは基本的にプレイヤーの君達の妄念であり怨念であり執念な、わけだ!」
「それじゃあ、さっき言った三つはどう違うのか!」
「ず! ば! り! 第三者の意思がITEMになった程の妄念が! プレイヤーの意思を上回る程の怨念
が! 殺したい程の! 愛しきれない程の! 死にたい程の執念がITEMになるってとんでもない意思が、さっきの三つのITEMな、わぁけぇだぁ!」
「たった一人の心を射抜いたエリナ、ひたすらに恐怖の対象になった……今は9thちゃんだっけ? それから……彼以外いらないと思わせた東輝くん!」
「……君も、生前にそんなヒトがいたかな? たとえば……ボクとか、どうかな?」
―――★―――
「………………」
地面に転がる、自分のITEMを見つめる。
リサが手に持ったときは、たしか血を吸い取りすらしなかった。
今は……敵が触れた途端に刃が風化した。
「沙夜……」
自分を愛し、自分を殺し、果てに死んだ自分の後を追うように自殺した彼女を思い出す。
土を払い、ナイフを握る。
「……ありがとうな…………さて」
感傷的な思考から、いつもの理性的なものに切り替える。
「使えるのは俺だけなのかって言うのは後で検証するとして……リサァ!」
相方の名を叫び、加勢に入る為に走り出す。




