落雷と共に、竜は躍り出る。
まずい。
「お困りかぁ? 3rd」
まずい。
「ッ! ッ!」
まずい。
「……ええ、助かります、二人とも」
まずい、まずい、まずい……。
まずいまずいまずいまずい。
「んじゃあ、どうする? なるべくっつてたが……まあ、必要な犠牲だよな?」
「ッ!」
これは、まずい。
「……ですね、一人くらいは大丈夫でしょう」
「ああ、クソ……まずいな、まずい……」
どうしたものか……白旗でも上げるか……?
「……さて、手早く片づけましょうか」
―――★―――
「はぁぁっ!」
既に五十は斬った。
それでもなお、狼の数は減らない。
(……さて……まいったな……個人的にはまだまだ余裕だけど……流石に、ザンの様子も気になるし……ここに足止めされ続けるのも避けたい)
また、狼を両断する。
(それに、少しずつ狼達も考えるようになってきている……いや、相手が僕の動きに慣れたのか……?)
どちらもまったくの無傷まま、不毛な斬りあいが続く。
「あぁ……? 誰だぁ?」
囁くような声が、霧全体に響く。
(なんだ……?)
異変を感じようと、こちらも耳を澄ませる。
「―――おぉぉぉぉぉぉッッ!!」
彼のやや前方、およそ二時の方向から声が聞こえる。
「舞い歌う雷ォォォォォ!!!」
雷が、霧を奔る。
―――★―――
「無茶をするなぁ……普通、飛び込まないと思うけど……」
霧の中を走っていたティアゴを思いながら、大きく迂回する。
「……っと、なんだこれ……」
霧が途切れたかと思うと、今度は別の靄の様なものが現れる。
「これこそ吸っただけで危なさそうだ……」
そうこぼし、その靄もグルリと迂回し避けて進む。
「―――舞い歌う雷ォォォォォ!!!」
やや後方から、そんな聞きなれた叫び声が聞こえる。
「………………あの馬鹿……」
青い顔で、走る速度を増す。
―――★―――
……雨中、男は歩く。
「……っち……辛気臭ぇ雨だ……」
黒いコートを羽織った男は、ただ真っ直ぐに巨樹に向い歩き続ける。
「あぁ……どこだここ……木ばっかじゃねぇかよ……殺すぞ……」
ブツブツと呪詛染みた言動で、真っ直ぐ歩き続ける。
「……分かってる、リンジィ……逸れたマリア達と合流しろって言うんだろ? あの樹に向かってたんだ、行けば居るだろ」
「やぁ、見つけたよザン」
突然、軽薄そうな少年が背後から話しかける。
「リーダーが困ってたよ? 単独行動は危険だから止めなよ」
「……ピーターか……調度いい、テメェも来い」
話を聞いていないのか、そう言い放つ。
「やれやれ、止められそうにないねぇ……いいよ、着いていこう……ところでさ」
不思議そうに、ザンを指差す。
「あ?」
「雨に当たっても、大丈夫なのかい?」
ずぶ濡れになっているザンを、心配そうに聞く。
「……てめぇこそ、そんなちゃいちぃ傘、よく溶けねえもんだな」
どこか芸術的な造形の、コウモリ傘を指差す。
「ああ、これね……ちょっと試してたんだ、色々と……それで分かったんだけどね?」
愉快そうに、ピーターは笑う。
「どんな形状だろうと、どんな材質だろうと、そして傘さえ持っていれば……この雨は防げるんだ」
「……もうこのITMEの仕組みが分かったのか」
少しだけ、眉を動かし驚く。
「ああ、色々試してね……ほら、この腕を見てごらんよ」
ニコニコと笑いながら、袖を捲くる。
「骨まで解けちゃってさ、いやぁ……ビビッタよ、あはは」
パッチワークじみた、継ぎ接ぎしたかのような腕を見せる。
「……イカレが……離れろ気持ちわりぃ……殺すぞ」
「あっはっは、ごめんごめん……それで、なんで君は大丈夫なのさ」
脱線した話を戻す。
「…………言う必要があるか?」
「やだなぁ、仲間だろ?」
ニコニコと、ピーターは笑う。
「っち…………もう黙れ、お前」
ジッと、殺意の篭った目をピーターに向ける。
「…………そりゃないよ、ひどいなぁ」
変わらず、ピーターは笑い続ける。
「………………」
「………………」
一触即発の雰囲気が、辺りに満ちる。
―――眼前に、疾風が奔る。
「うわ、っととと……」
「…………」
二人とも、その風に少し体勢を崩す。
「なんだありゃ」
「……女だ……」
「へ?」
いきなりの発言に、間の抜けた声で聞き返す。
「金髪の女が走っていた…………なんだありゃ」
持ち前の動体視力で捕らえたものを説明し、最後に首を捻る。
「……さあね、追う?」
「いや、あの樹に向かう」
そうして、ザンは再び歩き出す。
「…………やれやれ、リーダーに怒られちゃうよ」
肩を竦めながら、ピーターも後に続く。
―――★―――
「ああ、クソ……まずいな、まずい……」
後退りながら、トーキは距離をとる。
「……さて、手早く片づけましょうか」
3rdの一言に残りの二人も頷き、戦闘態勢に入る。
「―――ぅおぉおおぉぉおおっっりゃぁぁぁああああああああああっっっっ!!」
「ッッ!?!?!?」
突然捲き起こった疾風は、一番近くに居た5thを蹴り飛ばす。
「ごめんトーキ! いてもたってもいられなくなって!!」
「…………リサ……」
汗でぐっしょりと濡れた金髪を揺らしながら、リサは頭を下げる。
「……それよりも! 戦えるな!?」
少しだけ、嬉しそうな顔をして。
「うん!」
「行くぞ!」
「うん!」
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