未だに止まぬ、血の雨は。
(見るからに焦っている……なんだ? この状況で巨樹に逃げる気か?)
それは悪手だろうと、冷静に判断する。
(巨樹に仲間がいたとしても、逃げるのはあの透明女と合流してからだ……そうでなきゃこの均衡状態を保ってきた意味がない)
お互いの戦闘能力が拮抗した二人にとって、一方的に攻撃される様に背後を向けて逃げるのはかなり不利だ。
(……何か合図があって、近くにコイツの長間が居るの可能性は……?)
何か合図や目印は無いかと辺りを見まわすしたり耳を澄ませたりするが、トーキには分からなかった。
(さて……こうなると、なんだ? 本当に気が狂ったのか……予めこの雨雲が現れたら逃げる算段だったのか?)
1つずつ、可能性を考えてはどう対処し動くか考える。
(それとも……例えば、音も無く会話ができるITEM……えっと、なんだったか……そうだ、テレパシーみたいな効果のITEMの可能性)
また一つ、可能性が増える。
「……っち!」
(落ち着け! 一度整理しろ! ……今は大きく分けて二つ、トチ狂ったか、そう見せる罠か)
木陰を走り、雨を避けて走り続ける。
(……トチ狂ったってのは話が簡単で済むが……罠だとして、それは周到に用意されたものなのか、それともこの雨すら予定外のものなのか……)
自分にとっての最高と最悪を想定し、最悪にどう対処するかを思案する。
(…………よし、作戦はこうだ)
新しく、血を消費し刃を創る。
「巨樹までに殺す!」
―――★―――
「はぁぁぁ!!」
上段から刀を振り下ろし、二頭の狼を唐竹割りにする。
……両断された狼は、そのまま霧となって掻き消える。
「はっはっは! 頑張るなぁ坊主! ちょいと関心すんぜ!」
「……」
霧の中全体に響く声は、愉快そうに相手を賛美する。
「初戦がこれだ、浮かれねぇ奴はいねぇぞ! おい!」
「……っ!」
それでも、白い毛並みの狼は未だに攻撃を止めない。
既に十を超えた数を切り倒しているにも関わらず、それでも狼の攻撃は止まらない。
霧で視界は良好ではないとはいえ、それでも未だに数は数え切れないほどいる。
「……っち、降ってきやがったな……」
「はぁぁぁ!」
刀を振り、また狼を切り倒していく。
―――★―――
「っ!? おい、ストップ! 止まれ!」
「ッ!」
おぶられていた4thは5thの背を叩き、走っていた彼女を止める、
「……なんだぁ、こりゃ」
目の前の光景に、思わずそんな言葉を漏らす。
二人の前には、異様な気体の集まりが立ちはだかっていた。
紫の甘い匂いのする煙と、真っ白な霧の塊。
「……避けて通れ、流石に俺は無事じゃすまねぇだろし……」
「ッ!」
方向転換し、そうして巨樹へ走り出す。
―――★―――
「どうする、シマ」
敵二人が走り去ったあと、そうティアゴが尋ねる。
「……彼らの行動としては、今僕が考えられるのは二個」
「で?」
「まず一つ、単純に頃合いを見て逃げる算段だったのか……」
そう言い、空を仰ぎ見る。
「この雨雲が想定外だった、か……」
「うん、そう言う事……」
……会話が、途切れる。
「ん、おい」
「どうする、ティアゴ」
先程とは逆に、シマからティアゴに問う。
「はぁ?」
「……あの方向には、リサちゃんとトーキが戦っている、筈だ」
難しい顔で、シマは語る。
「……おい、そっから先は考えてから話せよ」
その顔の意味に、シマは気づき睨み付ける。
「いいや、言わせてもらう……君は、追うかい? それとも、見捨てるかい?」
「ふざけんなこの賢い馬鹿! ただの同行者でも、アイツ等殺される事に何のメリットもねぇよ! 目先の事だけ考えてろ馬鹿!」
叫びながら、怒鳴りながら、ティアゴは真っ先に走り出す。
「……ゴメン、らしくないね。ドツボに嵌ってたみたいだ……僕も行くよ」
追うように、シマも走り出す。
―――★―――
乾いた、湿った音が耳に入る。
乾いた金属、湿った草。
「っち!」
「このっ!」
どうにかして先回りしたトーキは、立ちはだかるかのように巨樹へと走り出す3rdを妨害する。
「させるか!」
「邪魔だ!」
長い時間戦闘を行って、お互いに相手の性質が分かり始めた二人は、今度はかなり切迫した攻撃的なものになる。
先程と違い、味方の到着を待つ消極的なものではなく、お互いに相手を打ち倒す事を前提にした戦闘。
持久戦ではなく、短期決戦へと完全に移行した。
殺意を持った攻撃は、3rdのITEMの効果によりさらに苛烈になる。
苛烈さは更なる苛烈さを引き起こし、手のつけようがなくなる。
悪意と言う戦意を失えば、そのまま敵の悪意に身を裂かれる。
3rdのITEMは、若干のタイムラグがある。
隙を作れば、確実にそのタイムラグの間に敵に切り裂かれる。
「っ!」
「どけっ!」
悪意をもって、敵意をもって、二人は何とか拮抗状態を保ち続ける。
「お困りかぁ? 3rd」
「ッ! ッ!」
「……ええ、助かります、二人とも」
その均衡を崩すのは、やはり味方の介入だった。
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